第7話 舞台裏
―――各国合同対策会議開催1時間30分前【東京都千代田区永田町 首相官邸 内閣総理大臣執務室】
「……どうだろう、ミッチェル。検討して貰えないか?」
澁澤が流暢な英語でモニター先の相手に語りかける。
「わかった。すぐに検討して連絡する。1時間くれないか?」
ミッチェル駐日大使が応える。
「申し訳ないが、このあと中国・ロシア・EUと協議するんだ。30分で答えをくれないか?」
澁澤が切り返す。
「ワシントンやウォール街、圧力団体は存在しないんだ。君が大統領なのだから、当てにしているよ、ミッチェル?」
澁澤から通話を切った。
「破格の条件なのに欲張りですな」
呆れた表情で、官房長官の岩崎が澁澤に感想を述べる。
「いや、あれがアメリカだよ。アメリカファーストなんだよ。沖縄地方だけではなく東京の西半分を寄越せなど、クレイジー極まりないが、彼はアメリカ合衆国の体現者でもある。最大限の国益を追求するのは至極当然さ」
澁澤が応えた。
「恐らく、沖縄は日米共同統治地区として、極東アメリカ合衆国の誕生だ。我々は行政を担い、治安を米軍に任せた方が楽だ。この際、持ち込んでいた核兵器については黙認するしかないだろう」
「毎年3,000億円も振興費用として注ぎ込んでいるのにも拘らず、産業振興や雇用増加等何の結果も出さずに国家へ反発するだけの自治体など、これからの我が国には負担でしかない」
澁澤が本音で語る。
きっかり30分後、ミッチェル駐日大使から連絡があり、沖縄の共同統治、極東アメリカ合衆国の建国、日米『相互』防衛条約の締結が決まった。
♰ ♰ ♰
「我々中華人民共和国は、先の大戦における日本軍の戦犯行為に謝罪と賠償を要求する。また、歴史的、国際法的に関係が深い琉球諸島、九州地区の領有権を主張する」
中華人民共和国 鄭 駐日大使は開口一番に捲し立てた。
「我が国の国土を抹殺しようとしたのはどこの国か!」
澁澤総理が一喝した。
「貴国の時代遅れの主張に耳を傾ける暇など有りません。我が国と共に生きるか、否かです!」
岩崎官房長官も澁澤に同調して決断を迫った。
「戦犯国日本は、貴国内に居留する我が国人民の生活と、政治的・経済的独立を保証しなければらない」
鄭大使は主張を曲げなかった。
「もう結構です。我が国は法律に則り、適切に大使並びに滞留者の処遇を決めさせて頂きます」
澁澤は鄭の反論を待たずにモニターを切った。
「石場外務大臣は何をしていたのかね?」
澁澤が怒り心頭の表情で、岩崎に事前折衝の不備を指摘した。
「石場君はチャイナスクール派でしたなぁ・・・」
岩崎が顎をさすりながら答えた。
「中国に恩を売ろうとしたのでは?脅されたのかも知れませんが」
「そう言えば、石場君は最近体調が優れないようだったなぁ」
唐突に澁澤が言った。
「そうですね。この際、検査入院を勧めて見ましょうかね」
岩崎も棒読みな答えをした。
午前2時40分、外務大臣の石場は外務省内で体調不良を訴え、都内の病院に救急搬送された。診断の結果、重度の肝機能障害が認められた為、石場外務大臣は一身上の都合により辞職した。
午前2時55分、異例の簡略手続きで、後任の外務大臣として中立派の後白河 政徳が、皇居で信任を受けた。
皇居で信任された後、澁澤は後白河に、
「後白河君、初仕事だ。
公安と協力して国内に滞留する全ての在日中国・朝鮮半島出身者、反日的日本人支援者のマークを要請してくれ。今からすぐにだ!
それと国際法に則り、人道的観点から彼らを纏めて『保護・収容』する政策の立案も頼む」
澁澤は、戦後からの永い呪縛を徹底的に排除する指示を出した。
♰ ♰ ♰
「非常に不本意ではありますが、率直に申し上げましょう。我が国は『貴国』が不法占拠している北方4島を極東ロシア連邦と認め、相互防衛条約並びに経済連携協定を締結する用意があります」
澁澤がパノフ大使に提案した。
『我が国としても願ってもない事です。我が国の人民が、西側の不当な経済制裁から解放されて自由にホッカイドウを満喫出来る事は有り難いことです』
ロシア連邦駐日大使のパノフは、ポーカーフェイスを保ちながらしれっと、パノフ大使は北海道の共同統治権を要求した。
「北海道は我が国固有の領土です。多少の便宜は図りますが、まずは、大使の北方4島を開発する事を先にされた方が、極東アメリカ合衆国との関係を築くためにも大切では?
言い忘れましたが、8時間前に我が国を抹殺しようとしたICBMは貴国シベリアや沿海州からも発射されたことを我々は独自に知っています。夜明け前に国民へ公表しても構いませんが?」
澁澤はパノフの要求を拒絶しながら、経済協力による北方4島の開発を提示した。
『確かに、澁澤首相の仰る通りですな。"我々の"北方4島を、どうかよろしくお願いします』
パノフからモニターが切られた。
「……まったく、相変わらず厚かましいロシア熊め!」
澁澤首相と岩崎官房長官は溜め息をついた。
♰ ♰ ♰
ロシア大使の後も英国、カナダ、オーストラリア、EUの駐日大使との交渉が続いたが、中国のように決裂はしなかった。
英国ケビン大使との協議では、長崎県や地元住民の完全同意の上で、佐世保市や五島列島の一部、瀬戸内海の小豆島周辺を拠点とした、『英国連邦極東』の設立案が合意された。
また、同席したジャンヌ大使とも協議を行い、佐世保市ハウステンボス町に隣接した山地を日本国政府が買取り、在日EU諸国のコミュニティや滞留観光客向けに開発して『ユーロピア自治区』を設立する案も合意された。
尚、韓国大使館は大使がソウル滞在中に北朝鮮の砲撃に巻き込まれて行方不明となり、代理大使も任命されないまま、釜山壊滅時に政府自体が消滅したため閉鎖され、一時的に法務省に接収された。
日台交流協会は後白河外務大臣と協議し、神奈川県横浜市中区の中華街にある台湾人コミュニティを"地元自治体との共生"を絶対条件として、中華街の一部地域を『台湾自治区』として日本政府が認める事となった。
――――――
ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
【このお話の登場人物】
・澁澤 太郎=日本国内閣総理大臣。
・岩崎 正宗=日本国内閣官房長官。
・ミッチェル=アメリカ合衆国駐日全権大使。
・パノフ=ロシア連邦駐日全権大使。
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