第2話 灼熱の君

 日本列島が転移する約45億9000年前

【太陽系第4惑星マルス タルシス高地 オリンポス山 特殊宇宙生物理学研究所】


 ゼイエスの考案した惑星間特殊カプセルを用いた第3惑星"創星プロジェクト"は1つの区切りを迎えようとしていた。


『こちら調査観測ラボ「ルンナ」。

 "灼熱の君"が良く見える』


 第3惑星衛星軌道に到着した「ルンナ」に搭乗しているイワフネ調査隊長から、星間通信が届く。


 調査観測ラボ「ルンナ」は、現在建造中の葉巻型フォルムを持つオウムアムル型プレアデス星系移民船に比べれば小さいが、マルスに2つある衛星「フォボス」「ダイモス」を合わせたものよりは大きい。


「ゼイエスのカプセルとのデータリンクはどうなっている?」

第4惑星マルスのアマトハ所長が報告を求める。


『データリンクは問題ない。

 予定通り第3惑星大気圏突入後、850万の小型カプセルに分離、惑星中緯度に着地した親カプセルを中心に半径2000㎞の地点に展開、着地した』

イワフネが報告した。


「子カプセルの特殊バイオ溶液、電磁フィールド、重力制御システムの稼働状況は?」

ゼイエスがアマトハの通信に割り込んできた。


『焦るなよゼイエス。全ての子カプセルが正常に機能している。

 フリーズしたり溶けたカプセルは皆無だ。親子カプセル共に万一の場合は、ルンナがフォローにまわるぞ!

 第4惑星マルスまで瞬間転送させるから、心配するなよ』

イワフネが苦笑して応えた。


『第3惑星地表温度は現在1400℃。熱い歓迎ぶりだ。

 地下のマントルからマグマが溢れ返っているようだな。

 小型カプセルに積んでいる、特殊バイオ溶液開放は時期尚早と思われる。

 アマトハ、本当にこんな所で生命が育つと思っているのか?』

イワフネが懐疑的に訊く。


「われらの星もかつてはこんな感じだったのだ。これは母星の考古学探索チームからの分析結果から断定出来る。後は地殻が安定して、大気と水が更に満たされるまで待つしかないな」

アマトハ所長が判断する。


「ああ、特殊バイオ溶液の開放まで2000年程待つか。

 なに、少し寝ている間に状況は劇的な変化を遂げるはずだ」

ゼイエスが楽観的に言う。


『こちらは間もなくルンナ全体をスリープモードに移行させる。良い夢を、アマトハ、ゼイエス』

イワフネが告げる。


「ああ、研究所地下区画もスリープモードに移行する。

 また会おう、イワフネ」

ゼイエスが応えた。


 イワフネからの星間通信が終わると、ゼイエスがアマトハに問いかける。


「アマトハ、あのバイオ溶液は『シャドウ』製ではないよな?」

ゼイエスが疑わし気な顔でアマトハを見つめる。


「ゼイエス!非常に不愉快な事を言うね君は。私をあの異端者共と一緒にしないでくれるか?」

アマトハが憤懣やるかたない表情でゼイエスと向き合う。


「私の作ったバイオ溶液は純粋に科学的成分で作ったものだ!

 異端者共の様にどこの誰とも知らぬ輩が、自らの仲間を溶かして作ったものとは違うのだ!」

アマトハが言い放つ。


「すまんアマトハ。だが、時々私は奴らの研究も異端ながら一部「真理」を突いているように思えるのだよ」

ゼイエスが正直に白状した。


「ゼイエス、今の話は聞かなかったことにしよう。これ以上この話題をすると、我々もシャドウになりかねないぞ!」

アマトハが警告した。


「っ!?そう、だったな。危ないところだった。

 少しでも気を許すと直ぐ奴らの思想に侵されてしまう。

 私は寝ることにするよ」

ゼイエスはそう答えるとコールドスリーパーの設定を5000年後に設定した。


「それが良い。お休み、ゼイエス」

アマトハはゼイエスにお休みを告げると指令室の個人ブースに入った。


「リア、こちらのプロジェクトはひと段落した。これから「少し」眠ることにするよ」

アマトハがモニターの向こう側に居る恋人に報告する。


「あら、つれないわねアマトハ?私はこれからプレアデス星団へジャンプするのに・・・」

少し拗ねた口調でリアが言った。


「君も早く寝た方がいいぞ?君にはプレアデス星団で、私達のマイホームを建てて貰わねばならないのだから」

アマトハが宥めるように言う。


「そうね。こちらもこれからジャンプして、自動航行システムに切り替わるから200年程ひと眠りしておくわ」

リアが肩を竦める。


「ところで、例の溶液に他者からの介入はあったの?」

リアが声を潜めて訊く。


「ない。

 ゼイエスが疑わしいと思って問い詰めてみたが、彼は素でイカれているからな。

 奴らの怪しい思想もゼイエスには敵わんだろう」

アマトハがそう「報告」した。


「了解したわ。ありがとうアマトハ。

 これでプロジェクトが完了したら、あなたは評議員に一歩近づくのね」

リアがため息をつく。


「君だって、プレアデス移民プロジェクトが軌道に乗ると探査船団の隊長様だろう?」

アマトハが指摘する。


「そうね。

 否定はしないわ。

 更なる研究の先に行き着くためには、まだまだ力が足りないの」

リアが答える。


「私も同じさ。

 それじゃ、お互い寝るとしようじゃないか?

 お休みリア」


「おやすみなさいアマトハ」


 通信モニターが切れると、指令室の電源が自動的にスリープモードに入った。


「今の所介入は無かった・・・。

 今の所はな・・・」


 含むように呟きながら、アマトハは眠りに落ちた。



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ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m


【このお話の主な登場人物】


・イワフネ=マルス人。第3惑星調査隊長。

・ゼイエス=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所技術担当。

・アマトハ=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所 所長ゼイエスの善き理解者。

・リア=マルス人。プレアデス星団移民船艦長。

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