転移列島

NAO

プロローグ

第1話 転移前夜


――――――日本列島が転移する46億年前 【太陽系第4惑星マルス オリンポス山特殊宇宙・生物理学研究所】


「よし、第3惑星へのプレゼントだ!カプセル射出準備完了」

ゼイエスが管制室に合図する。


「了解、こちら管制。第3惑星への射出軌道計算は完了。宇宙航路への接触も心配ない」

管制官のイワフネが応える。


「所長」

ゼイエスが呼び掛ける。


「予定通り第3惑星への射出を実行する」

所長のアマトハが宣言する。


「カプセル射出!」

アマトハが指示する。


「カプセルロックオフ!電磁カタパルト滑走!大気圏外の射出口まであと10」

イワフネがカウントダウンする。


「2、1、射出完了!」


 水色が鮮やかな第4惑星の一角から、蒼白い光を纏った流線型の物体が宇宙空間へ飛び出した。


「カプセル、衛星軌道離脱。公転軌道033を予定通りの速度で第3惑星に向かっています」

イワフネが報告する。


「おめでとう、アマトハ」


 ゼイエスが滑らかな銀色の鱗に覆われた手を差しのべる。


「ありがとう、ゼイエス。君のおかげだ。だが、これからが大変だ。第3惑星到達後の作業も山積みだしな」


「そうだな、アマトハ。だが、私達の研究は元々千年単位で続けた物だし、今更だ」


 ゼイエスが縦長の瞳孔を持つ双眼を細め、ニヤリと笑う。


「私達は、自らの足跡をこの星系にあまねく広め、やがては同胞たる知的生命体とコンタクトせねばならぬ」


 ゼイエスの創造は始まったばかりなのだ。


「ところでゼイエス、次の課題で私が指摘した宇宙空間への水蒸気流出についてなんだがね――――――」


 オリンポス山特殊宇宙物理学研究所は、今日も休むこと無く惑星と宇宙の理(ことわり)を探求し続ける。


         ♰        ♰        ♰



2020年(令和2年)12月24日午前5時【日本国 神奈川県 横浜市 アパート「サンライズ」105号室】


 大月満の部屋にある4Kテレビが自動的に起動し、どことなく不安感を掻き立てる長短の和音が奏でるチャイムが鳴り響いた。


 直後に合成音声が、

『ミサイル発射、避難。ミサイル発射、避難。北朝鮮北東部からミサイルが発射されました。ミサイルは関東甲信越地方に着弾の可能性があります。直ちに最寄りの指定ミサイル防護施設に避難してください』

 Jアラートのアナウンスが2度繰り返されたあとに、重厚で耳障りなサイレンがテレビから出される。


 大月は最初のチャイムが鳴ると同時に飛び起きて携帯電話を掴むと、枕元に置いていた地震用の避難袋を背負って部屋を飛び出した。


 アパートの住民も、寝惚け顔ではあるが、素早く部屋を飛び出して二軒隣にある自治会が最近空地に『掘った』簡易シェルターに走り出していた。


 区役所の方角からも耳障りなミサイル警報のサイレンが聞こえている。


 大月やアパートの住民だけが素早く動いているのではない。

 街中の住民全てが、最寄りのシェルターに避難していた。


 1年前には想像も出来ない光景だった。


 昨年末、紅白歌合戦放送中に飛び込んできた、北朝鮮ミサイル警報。


 栃木県日光の温泉宿が『偶然』北朝鮮ミサイルの直撃を受けて倒壊し、宿泊客を含めた数十人が死亡した「事故」以来、政府主導の官民避難訓練が熱心に繰り返された賜物とも言える。


 大月がシェルターに駆け付けた時には、既にお年寄りや家族連れで溢れ返っており、近くのマンションにある地下駐車場の作業用スペースへ飛び込んだ。


 暫くすると携帯電話からJアラートのチャイムが鳴り響く。


『ミサイル着弾情報。ミサイルは、房総半島沖、150キロの海上に、着弾した模様。念の為、海岸には近付かないでください。避難指示は解除されました』


  携帯電話の画面に警報解除情報メッセージが表示された。


 大月はほっと一息つくと、のそりと地下駐車場から出てアパートに戻った。


 部屋のテレビはミサイル発射について、今年16回目になる日本政府内閣官房長官発表による「遺憾の意」を伝えていた。


「クリスマスプレゼントにしては、センスの欠片もない……」


 大月は独り呟くと、溜め息をつきながら、のそのそと出勤の支度を始めるのだった。


        ♰         ♰         ♰


――――――同年12月28日午前8時30分【東京都 千代田区 丸の内 角紅商事株式会社 本店】


 角紅商事は中堅の総合商社である。


 東日本大震災の復興事業に尽力し、被災地の住民を優先的に雇用して、当時の政府復興庁から表彰された実績もあり、北関東から東北地方にかけて幅広い業界に根強い顧客層を持っている。


 角紅商事本店営業部の朝の会議は、先日のミサイル着弾について再び東北地方の水産物に風評被害が出始めた事が報告された。


「既に、中国やEU諸国が海産物の輸入制限をかけ始めました」


 総合流通営業部の40代社員である大月が報告した。


「……まったく。刺身や天ぷら好きな癖に、放射能怖さの掌返しですか。外人は本当に極端ですね」


 海産物営業部の春日が頬杖をついてぼやく。


 春日は入社3年目にして、持ち前のフットワークを活かし、全社で海産物成約取引高ナンバーワンの実績を持つ期待の若手である。


「やはり、政府が先頭に立って着弾直後に海産物の安全アピールをして欲しかったですね」

広報部担当が悔しさの混じりの発言をする。


「経産省に強く働きかけをしていますが、何故か最近彼らの動きが鈍いんです。」

大月が言った。


「なんと言うか、放心状態で心ここに有らず、といった感じで暖簾に腕押しです。何が経産省に起きているか、探っているところです」


 大月の報告に各部署の担当者も不可解な政府反応に首を捻る。

 結局、朝の会議は結論が出ず、会議の参加者は三々五々と各部署に戻っていった。


「大月さん。何だか嵐の前のなんとやらみたいですねぇ」


 会議に同席していた同じ部署の西野ひかりが大月に声を掛ける。


 彼女は先日秘書室から異動してきた、海外生活の経験もある、所謂帰国子女である。

 異動初日から、やたらと大月に絡んでくるのだが、大月からみれば新入りの面倒を多少見た程度に過ぎなかった。


 しかし、どうやら才女とお局様が住まうジャングルから来た彼女からすれば、初めてライバルではない異性から厚遇された訳で、大変に好印象だったらしい。

 歳の差は親子ほどあるのに、と大月は不思議に思う。


 まあ、別の言い方をするならば、大人に憧れる乙女?の一目惚れかも知れないが。


――――――同日午前11時30分【角紅8階 社員食堂】


 早めの昼食をとっていた大月は、今日も西野ひかり20代(自己申告)の自称手作り弁当アタックを巧みにかわしていたが、食堂のテレビが伝えるNHKニュースに釘付けとなった。


『先程北朝鮮の朝鮮中央放送は、特別重大発表として、朝鮮労働党の金委員長が、我が国とアメリカ、韓国に宣戦を布告したと伝えました!

 繰り返します。北朝鮮が我が国とアメリカ、韓国に宣戦を布告しました!』


 緊張しつつも冷静な口調で原稿を読み続けるアナウンサー。


『新しい情報が入りました。

 ソウル支局によりますと、ソウル中心部の南大門広場で大規模な爆発があった模様です。爆発は今も続いており、南大門広場の他にも、ソウル中心部で同時多発的な爆発が続いています』


『ソウル支局と電話が繋がっています。

 李特派員、そちらの状況を伝えてください』

――――――

『こちらソウル支局の李です。

 東京の音声はイヤホンをしていても周囲の爆発音で聴きづらい状況です!』

――――――

『この爆発は、爆弾テロではありません!

 爆発前に何らかの飛翔音が聞こえた後にビルや大通りが爆発してめちゃめちゃになっています。

 先程は向かいのビルが爆発して崩壊しました!

 凄い土煙ですっ!

 私達はこの爆発—――—――』


 ピュルルルと甲高い金属的な飛翔音が響いた直後、ソウル支局の通話が途切れた。


『……ソウル支局との電話が切れてしまいました。ここからは元陸上自衛隊幕僚長の――――――』


 第二次朝鮮戦争が勃発した。


 大月と西野は茫然と画面を見つめていた。


          ♰          ♰          ♰


 韓国では今年8月に過度な共産主義的政策と北朝鮮への融和政策に不満を持つ軍部の軍事クーデターが発生。分政権が排除され、親米軍事政権が誕生した。


 欧米と日本は形式的な非難声明を出しただけであり、制裁措置をとらなかった。


 対称的に中国とロシアは猛烈な非難と経済制裁を韓国に実施、国連の北朝鮮制裁決議も無視して大規模な支援を再開、経済封鎖で瀕死だった北朝鮮は息を吹き返し、再び大陸間弾道ミサイルの発射実験を再開、既に16回という常軌を逸した回数が日本列島を越える形で発射され、「不幸にも」1基のロフテッド軌道をとりすぎた弾道弾が栃木県山間部に着弾し、民間人に多数の犠牲者を出した。


 朝鮮半島では、南北DMZ(非武装地帯)を挟んだ拡声器による双方の挑発放送再開、ドローンによる偵察行為や偶発的な銃撃、砲撃戦が頻発し、日米韓と朝中露の関係は急速に悪化した。


 親米軍事政権は、国内の北朝鮮系、中国系リベラル派政治団体の弾圧と投獄を強行、北朝鮮に対しては、数万名にのぼる第一次朝鮮戦争で拉致された韓国人の解放要求と、開城工業団地からの韓国企業の撤退等、強硬な政治姿勢と米韓合同軍事演習を毎月実施する等、軍事的挑発を繰り返していた。


 そして――――――12月28日午前11時30分。


 追い詰められた北朝鮮は韓国、米国、日本国に宣戦を布告、韓国の首都ソウルに無警告で無差別砲撃を行い、第二次朝鮮戦争が勃発した。


 無差別砲撃を受けたソウル市街は7割の建物が破壊され、市民の他、度重なる渡航情報を無視していた報道関係者も含め約20万人が死傷した。


 在韓国連軍司令部は、北朝鮮が「サリン」や「ノビチョフ」等最新毒ガスを含む化学兵器弾頭を多数使用したと激しく非難した。


 同日深夜、かねてからの避難計画が実施され、在韓米軍家族と韓国駐在西側外交官やビジネスマン、欧米旅行客が、アメリカ陸軍第2師団と国連軍として参加していたオーストラリア陸軍護衛の下、ソウルを脱出、釜山へ退避を始めた。


 真夜中に決行された在留外国人の釜山避難を目撃した韓国人は、ツイッターでこの衝撃的な出来事を拡散、衝撃を受けた大勢の市民が、自家用車や会社の営業車両を使って欧米人避難グループに同行を試みたが、韓国軍憲兵隊に阻止された。


 避難を阻止されて激高した市民の一部は、"スリーパー"として数十年韓国で待機していた北朝鮮工作員に扇動されて暴徒化、避難ルートの町々に火を放ち、幹線道路をバリケードで封鎖して治安部隊と銃撃戦を繰り広げ、韓国国内は騒乱状態となった。


 南北DMZで奮戦していた米韓連合軍は、この後方かく乱で補給部隊や補充部隊の到着が遅れ、38度線各所で防衛線が北朝鮮軍機甲師団に突破された。日付が変わる頃には米軍第2師団は半数が潰滅、空路日本の座間に撤退した。


 その他の米軍部隊もソウル市街を通過して烏山(ウサン) 空軍基地から、一部の米軍家族と共に日本の福岡空港に緊急避難した。


 12月29日未明には、在韓米軍の大半と在留西側外国人は、釜山又は烏山空軍基地から対馬沖の公海上で待機していた日本国航空・海上自衛隊の支援により撤退を完了、朝鮮半島の南半分には、戦線を分断された韓国軍と自制心を失って狼狽した市民だけが残された。


――――――12月29日午前7時、中国、ロシア、パキスタン、アフリカ諸国を中心とする『上海条約機構』が北朝鮮支援を表明。


 多数の貨物船に潜んでいた上海条約機構加盟国連合軍は、朝鮮半島西方沖で背取り監視中だったカナダ軍フリゲート艦を撃破、韓国の港湾都市仁川に強行入港して上陸、電撃作戦を展開して韓国首都ソウルを占領した。

 

 北朝鮮の金委員長は、朝鮮民主主義人民共和国の首都をソウルに遷都すると平壌放送で発表した。


 さらに中華人民共和国が突如台湾の武力統一を宣言、同時期にロシア連邦も唐突に北海道地方の領有を宣言し、中露軍が主力となった上海条約機構連合軍が同日夕方、台湾本島、日本国沖縄諸島、北海道地方に上陸作戦を行ったが日、米、台による海空連合部隊がミサイルで迎撃、多数の輸送船や空母・強襲揚陸艦が撃沈され上海条約機構軍は上陸を断念した。


 同日夜半、中国福建省、吉林省、ロシア沿海州から中距離弾道ミサイル「東風21号」「スカッド改良型」400発が、台湾全土、在日米軍、自衛隊主要基地に発射された。


 中露軍の飽和攻撃に日米ミサイル防衛システムは果敢に対応したが、多くのミサイルが迎撃を突破して台湾本島と日本各地の自衛隊レーダー施設や在日米軍基地周辺住宅地にも着弾、数万人の死傷者を出した。


 日本国内閣総理大臣澁澤太郎は、太平洋戦争後初めて日本国全土に戒厳令を布告すると共に自衛権発動を内外に宣言、全自衛隊に防衛出動を命令した。


 国内では予備自衛官が招集され、企業や学校は当面の間活動休止となり、市民は政府の誘導により人口密集地から離れた山間部又は都心地下街への避難を開始した。


 中国軍第二砲兵(戦略ミサイル軍)とロシア戦略ロケット軍によるこのミサイル飽和攻撃は、米国インド・太平洋軍司令部を震撼させた。


 極東の一大補給拠点であった在日米軍基地が一時的に機能停止した事により、極東地区に於ける米軍の第一列島戦線維持が不可能となり、日本列島はもとより台湾、フィリピンの防衛までもが困難となった。


 事態を重く見たインド太平洋軍司令部は、ペンタゴンの統合参謀本部、ホワイトハウスで待機していた海軍作戦部長と協議した結果、アジア極東地区に於ける中露勢力の侵攻を食い止めるべく、重大な決断をした。


 12月30日未明、米国グアム島アンダーセン空軍基地から戦略空軍爆撃機が出撃、上海条約機構本部が在る上海、ロシア極東艦隊司令部が在るウラジオストック、北朝鮮の首都平壌に巡航ミサイルによる核攻撃を行った。


 同日午後、米国西海岸のサンフランシスコ、西海岸最大の海軍基地が在るサンディエゴ、韓国臨時政府の首都釜山に中国とロシアが新型大陸間弾道弾(ICBM)を発射。

 再突入時に弾頭が複数に分離して加速する新型弾道ミサイルの捕捉に手間取ったNORAD(北米防空司令部)は迎撃に失敗、サンフランシスコと韓国臨時政府の首都釜山は、20メガトンの人工太陽が放射する核の炎に焼かれ壊滅した。


 日米とNATO諸国、フランス、インドは西側陣営として中国とロシアを激しく非難、各国は臨戦体制に突入した。


 中東では、黙示録における"最終戦争"が不可避になったと各国の宗教指導者が扇動、人々が最後の"聖戦(ジハード)"を実行すべくエルサレムとヨルダン川西岸地区でイスラエル警察・軍に投石や発砲、自爆テロ攻撃を行い、イスラエル側の反撃で双方1万人近くの死傷者が出た。


 この出来事でイスラエル周辺諸国の軍事的緊張が一気に高まり、イスラエル首相は国家総動員法を発令、18歳以上の国民が軍隊に招集され民間防衛隊の出動が始まった。


 同様にインドとパキスタン国境に於いても、領有権問題で長年対峙していたカシミール地方に両国軍が集結、軍事的緊張が極度に高まった。


 12月31日の時点で第三次世界大戦は不可避と、世界中のあらゆる指導者が確信した。


 日本国内では『時局を考慮して』紅白歌合戦や、民放各社の年末年始娯楽特別番組、年末ジャンボ宝くじ当選発表等は総務省の『強い要請により』延期された。


 渋谷では恒例の年末カウントダウンが中止されたために、怒った一部の若者が左翼思想の過激派や活動家に扇動され警察機動隊と衝突、渋谷センター街が放火で破壊された。

 警察と公安に逮捕された若者達は2000人を超え、双方の死傷者は300人以上となった。


 警察庁長官の助言を受けた東京都知事は、首相官邸を通じて自衛隊に治安維持及び不測の事態を避ける為の自衛隊派遣要請を行い、練馬駐屯地の第32普通科連隊が、治安出動した。


 箱根駅伝が中止された2021年1月2日午後9時45分、極秘裏に打ち上げられた日本の早期警戒衛星『あさがけ』がユーラシア大陸各地から多数のICBM(大陸間弾道弾)が日本列島全域を目標として発射されたのを探知した。


 探知したICBMは150基を優に超えていた。


  同9時49分、日本海に展開していた海上自衛隊イージス艦『こんごう』『みょうこう』、米国海軍巡洋艦『ウィルバー』からSM3迎撃ミサイルが発射された。

 また、本州各地の自衛隊基地からTHAAD、PAC3が迎撃を行ったが迎撃に成功したのは8割に過ぎなかった。


 同9時54分、日本国政府は日本列島全域にJアラート発令。


 不協和音が織り成すミサイル警報サイレンを耳にした、大月や西野、春日達も含む日本国民が、意識を失う最後に視たのは、北西の澄んだ夜空を横切る数十の美しい流れ星と、天空から降り注ぐ眩いばかりの白光だった。


 2021年1月2日午後10時、日本列島は『地球上から 』消滅した。


       ♰        ♰        ♰


 日本列島が地球上から消滅した1時間後。


 2021年1月2日午後11時、米国アラスカ州から飛来した、米国空軍WC135特殊観測機はロシア軍暗黙の了解のもと、カムチャッカ半島から南下して台湾まで飛行、北海道から沖縄尖閣諸島に至る地域を含む日本列島の完全消滅を確認した。

 同時に大気中のサンプルから、自然界に存在しない強烈な濃度の各種放射性物質を検知した。


 観測データは自動的に国防総省とホワイトハウス、モスクワのクレムリンへ直ちに送信された。


 米中露政府は、スイスジュネーブの交渉で、日本列島消滅事案を、両陣営における「相互確証破壊」要件に該当させる事で合意、西側への代償として、北海艦隊司令部の在るムルマンスクと、ロシア第二の都市サンクトペテルブルク、中国内陸部工業都市重慶への報復核攻撃、テヘラン郊外にあるイラン核施設へのイスラエル軍の空爆、キューバとベネズエラへの米国軍事進攻を中露が黙認する事となった。


 一方、衛星軌道を回る国際宇宙ステーションの地球観測システムは、日本列島消滅直前に、強力な重力振動と電磁フィールド発生を探知した。

 また、NASAの月面観測システムも、検知機器が故障する程の猛烈な電磁波と重力エネルギーが月面から日本列島を指向して発生したことを探知した。


 しかし、この情報が米国政府中枢で生かされる事は無かった。


 北東アジアで発生した強烈な重力波振動と、南北1500㎞の長大な日本国土及び周辺海域分の質量が失われた巨大な「ひずみ」は、世界各地の地殻、マントル活動を激しく刺激して超巨大地震と大津波、火山の大噴火が地球規模で同時多発的に発生した。


 さらにポールシフト(地軸変動)をも生じさせて南北両極氷床の一部が融解、地球海面が5m上昇、これによって多くの島々と世界中の低海抜地帯が水没した。


 各大陸沿岸部港湾施設は全て水没、パナマ運河やスエズ運河も、大津波と海面上昇により、人工的な運用が不可能となる等、世界中の海運に致命的な打撃を与えた。


 ポールシフトは地球磁場の大変動を引き起こし、磁気異常の為に無線通信が不安定となり、地上と衛星の送受信が不可能となり、GPSが機能しなくなった。


 また、世界中の火山帯が活動を活発化させた為、地球全域が火山灰に覆われ、あらゆる航空機の飛行が不可能となり、都市部では、降灰により送電施設がショートして故障・発火、電力供給が困難となった。


 この天変地異で大半の国が大混乱の末、政府組織が統治機能を失い消滅していった。


 特にアジア・アフリカ・中南米に於いては、一つの国も存続出来なかった。


 この様な状況下で生き残った人類が、既に消滅した極東の島国に想いを馳せる暇など無かった。



――――――

初めまして。ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m

これからよろしくお願いします。


【このお話の主な登場人物】

・大月 満 = 40代。総合商社角紅社員。総合流通営業部 課長補佐。

・西野 ひかり= 20代後半。総合商社角紅社員。秘書課から異動。

・春日 洋一= 20代前半。総合商社角紅若手社員。

・ゼイエス=マルス人。マルス・アカデミー特殊宇宙生物理学研究所 技術担当。

・アマトハ=マルス人。マルス・アカデミー特殊宇宙生物理学研究所 所長。

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