第四章 硝煙と血潮。時々家族 2
◇
サービスエリアを出発した佑一達は、定められたルート通りに山村に向かう道を歩いていた。
ちらほらと一般人がいる中を進んでいく。【NE】が出現した今となっては、威圧と恐怖を与えるだけの銃が一般人の安心を与える結果となってしまっている。生徒達を見た一般人が、笑顔で話しかけたりしていた。
引率役で同行している佑一だが、部隊の隊長は栞、副隊長は真由が務めている。佑一は栞の横を歩き、梨絵はその前を静かに歩いていた。一応、最低限の言うことは聞く。
「こんな場所でも人が住んでるんだ」
真由の呟きに栞は「ええ」と答える。
「登山もできるような場所だし、山荘や旅館も少ないけどあるのよ。健康温泉もあるし、レジャー施設とまではいかないけど住んでる人はいるわ」
まだ建物がある中なので余裕があるものの、生徒達はやはり梨絵に気を遣っているのかまだ緊張していた。一言も喋らない少女と、少女が持つ無機質な武器が、変に威圧感を与えている。
たまらず栞が、佑一に耳打ちする。
「あれってなに? 梨絵ちゃんが持ってる刀みたいな無機質の黒い塊」
「自衛隊が開発した日本刀ベースの武器。素材は確か……」
「対【NE】用近接切断タクティカルソード参型。イリジウムやチタン、高硬度鋼の複合素材で出来てる」
佑一ではなく、梨絵が説明したことにその場にいた全員が驚いた。喋らなかった彼女が初めて声を出したことに驚いた。
全員が立ち止まったことで梨絵も立ち止まり、佑一を見た。
「……なに?」
「いや、まさか説明してくれるとは思ってなかった」
「担当官から情報開示の許可は貰っている。必要なことは喋るように言われた」
「はいはいはいはい質問!」
ここぞとばかりに真由が手を上げる。任務中だということを忘れているかのような騒ぎようだ。
「梨絵の好きな物知りたい! あと自己紹介!」
「…………」
「無視はやめて!」
質問に答えず、すたすたと通り過ぎた梨絵に真由は泣きついた。それを見て生徒達は思わず笑ってしまう。
「緊張ほぐれたかしら?」
「わからない。まぁ、真由のムードメーカーとコミュニケーション能力には感謝だな」
佑一と栞もつられて笑ってしまった。
巡回して、各々は梨絵に質問を投げた。答えることがあれば黙ったままもあった。それでも、皆は梨絵に声をかけた。少しでも彼女のことを理解したかった。
質問を聞いていて、梨絵はプライベートなことには答えないことを知った。それを狙う訳ではないが、佑一は少しでも梨絵と会話したくて、わざと梨絵の武器のことを聞いた。
「梨絵の持ってる武器。参型って言ってたが、その前もあったのか?」
佑一の質問に、梨絵はこくりと頷いた。
「あった。試作が壱、次が弐。全部壊したから参が出来た」
「壊したって、どうやって?」
「叩いたら壊れた」
簡単な理由に、部隊の面々は笑ってしまった。
◇
道を進んでいくと、集落や娯楽施設などがなくなり、ただの山道になっていった。舗装されているものの、住宅などはなく、あっても廃れて朽ちた家か小屋程度の物だった。
真由が口を開く。
「あの、ここって?」
「今はほとんど使われなくなった廃道ね。さっきの集落の人達が昔使っていた道だろうけど、整備された大道路が出来てからはあまり使われなくなったそうよ。大雨が降れば土砂崩れもする。使っていない建物は廃墟になっているし、おかげでゴミの不法廃棄も増えたって聞く」
「そこを回っていくんですか?」
「【NE】が住み着いている可能性もあるからね」
使われていない建物に【NE】が住み着くということは、よくある話だった。廃墟へ面白半分に肝試しに行ってみたら【NE】がいたなんていうこともある。
歩いていくと、大きなトンネルが見えてきた。
「ここ通るんですか?」
「ええ」
さも当然といったふうに栞が言うので、生徒達は不安になる。佑一が口を挟む。
「ここのトンネルは結構長い。昔の山村へのパイプラインも担っていて、点検用にトンネル内にはいくつか通路が設けられている。ほとんどは封鎖されているけど、もしかすれば【NE】が突き破っている可能性もあります。ここから先は警戒レベルが上がって立入禁止の指定区域です。皆、心して行動するように」
佑一の一声が、生徒達の緊張を一気に高める。会議でも聞いていたように、ここから先は【NE】出現による警戒レベルが上昇した区域。一般住民の立入は勿論、早急に避難誘導が行われる程の危険地帯である。
トンネルへ入る。オレンジ色の証明が点いているが、内部を照らすには物足りない。中は思ったよりも広く、横に広がってもまだ余裕がある。
警戒を強めながら歩いていくと、先頭を歩く真由が止まれのハンドサインを出し、部隊は止まる。梨絵は相変わらず立ちっぱなしだが、怖がる様子もなく、右手は刀の柄を握り、ただじっと前を見据えている。
暗闇に浮かぶ赤い光を見つけ、数人の生徒が銃に付けたライトで前を探る。
道の真ん中に【NE】が六匹いた。
まるでスポットライトのような照明に照らされた六匹は、キャンキャンと鳴く一匹の野良犬を奪い合う様に貪りついていた。
乱暴に喰い破り、一匹が野良犬の頭に噛みついて引っ張ると、メキメキと皮膚と肉が引き裂かれ、骨が無造作に抜かれて胴体と頭が剥がれた。我先に噛みつき力任せに引っ張るせいで、脚が千切れていた。胴体は喰い荒らされ、骨と内臓が撒き散らされている。
他にもライトで探ると、この先からは似たような動物の死体がいくつも転がっていた。鹿や熊など大型の野生動物の死骸もあり、【NE】の食事場なのは明白だった。
「ひっ……!」
「静かに」
その光景を見た生徒の一人が堪え切れず、小さな悲鳴を漏らす。無理もないことだが、それが【NE】の注目を集める要因になってしまった。
今まで気付かなかったのが嘘の様に、六匹の【NE】は顔を向ける。犬の様に唸り声をあげる【NE】もいれば、金切り声のような【NE】もいた。
「撃て!」
敵意が向けられた瞬間、躊躇はなかった。
栞の命令の直後。トンネル内に銃声が響き渡る。距離を詰めさせる前の先制攻撃は成功し、【NE】の体を鉛玉が貫く。二匹の【NE】が向かってきたが確実に撃ち抜く。
瞬く間に六匹の【NE】を倒した。焦ることもなく、冷静になって周囲を見回す。
すると、遠くから何かが走ってくる音が聞こえてきた。唸り声のようなものも聞こえる。それらは少しずつ近づいてきているが、反響していて前からなのか後ろからなのかがわかりにくい。
「食事場だったか」
「ごめんなさい。攻撃の指示を誤ったわ」
「どのみちこうなってる。それなら先手を取るべきだ」
「褒められたって思うわよ」
栞は無線機の送信ボタンを押す。
「こちら鐘ヶ江高校、部隊隊長の古武栞です。ポイントF─13─22、トンネル内にて【NE】と遭遇。群れと判断します。送レ」
『こちら本部。位置と状況を確認。近くを警戒している部隊を向かわせる。その場を維持し、応戦するように。無理ならば撤退も考慮するように。送レ』
「了解。その場を維持します。終ワリ」
通信を終え、呼吸を整えた栞は顔を上げる。
「全員、戦闘準備!」
指示が飛ぶ。生徒達の気が更に引き締まり、緊張が高まる。戦闘態勢へと移る。
「【NE】が来る。遮蔽物がないわ。各自、その場を維持して応戦するように。視界が悪い上に音が響くから、声掛けの連携は絶やさずに」
「その子、どうします?」
真由が梨絵を気に掛ける。
「悪いけどこのままで。もし動いたら、こっちで対応するから」
「来るぞ」
トンネルの奥から赤い光が見えた。それは十数匹にも及ぶ【NE】の群れであり、敵意を露わにして向かってきている。
「撃て!」
再び栞の命令。一斉に響く銃声は耳を劈くほどの轟音となり、防音を兼ねたイヤーマフがなければ一時的な難聴を引き起こす程だ。それでも怯まず、生徒達は【NE】を狙い、引き金を引いていく。
「きつい訓練の賜物ね」
「まさか。これが実力だ」
ここにいるのは女子高生でも、特別教科で鐘ヶ江高校では上位の成績を誇り、訓練や実戦経験を積んだ者達だ。山陽高校の面々は馬鹿にしていたが、そこいらの銃を握っているだけの者とは訳が違う。
冷静さを失わず、連携を忘れずに対処にあたっている。烏合の衆である【NE】の集まり程度であれば、問題なく殲滅できる実力を持っているのだ。
その彼女達に混じっている梨絵は、何かを感じ取ったのか、柄を握ったまま反対方向を振り向くと走り出し、栞と佑一の脇を掻い潜ってしまった。
「後方から多数の【NE】が来ます!」
「なっ……⁉」
後方を警戒する二人の生徒からの報告に、慌てて後ろを向く栞。銃を構えた瞬間、梨絵がいた。梨絵は刀を抜き、そのまま横一閃に振り払う。
いつの間にかいた【NE】の首を刎ねていた。部隊のすぐ近くまで【NE】の接近を許していた。
「梨絵ちゃんの援護をお願い!」
「はい!」
迫り来る【NE】を梨絵が悉く斬り倒していた。臆することもなければ怯むこともなく、ただ【NE】を相手に刀を振るっている。
「動きが速すぎて撃てない……!」
「狙えないよ!」
生徒達は援護しようにも、縦横無尽に動き回る梨絵の動きについていけず、狙いが上手くつけられなかった。間違えれば梨絵に当たってしまう。
だが佑一は躊躇することなく、狙いをつけて引き金を引いた。
その銃弾は梨絵のほんのわずか横を通り、飛び掛かってきた【NE】の頭を撃ち抜いた。
「あれで当てるとか……」
「……凄い」
「後方は自分が援護します。二人は後方に注意しながら前方を援護して下さい」
「はい!」
静かに指示を出した佑一は射撃を続ける。フラッシュライトと照明でしか視界を確保できず、梨絵は動き回っている。それでもお構いなく単発で撃ち、【NE】を撃ち抜く。
梨絵も梨絵でデタラメだった。僅かな視界で【NE】と戦うのはもちろん、援護射撃をされても動じることはまったくない。当てない様に佑一が注意しているのだが、それでも彼女の動きには淀みがない。
戦闘開始から数分。硝煙が立ち込め、火薬の匂いが鼻にまとわる。それでも関係なく、ただ【NE】を撃ち続ける。
「メチャクチャなやり方だ。まったく」
ぼやき、撃ち尽くしてマガジン交換した佑一。
ふと、あることに気付いた。
地面に小さな血の溜まりが出来ている。
これほど撃って【NE】を殺しているのだから、血溜まりが出来るのはおかしくない。だが佑一が見つけたものは、小さく、地面を転々とするかのように離れて出来ている。それも梨絵と自分との間に。
ライトで周囲を照らす。佑一の近くにぼとり、と何かが落ちてライトを向けた。
赤黒く染まった肉塊。血が滲み出ており、骨が突き出している。それが何の肉塊かはわからないが、はっとして見上げる。
天井に張り付き、歪で巨大な生物──【NE】が佑一を見下ろしていた。
いくつもの土人形を適当にこねくり回したかのような巨体。いくつもある人間のような顔。その瞳は金色に輝いていた。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!』
マザー級【NE】は咥えていた肉塊を吐き捨てて咆哮する。断末魔に似た叫びに生徒達は何事かと怯み、思わず動きが止まってしまう。
「マザー級を発見!」
叫び、佑一はライフルを向ける。
が、引き金を引くより先に、重力に任せるように落ちてきた【NE】が佑一に襲い掛かる。大きく開かれた口には無数の牙が見えた。
「クソ!」
咄嗟にライフルを両手で持ち、【NE】の攻撃を防ぐ。重い巨体に態勢を崩して倒れてしまい、【NE】に覆い被さられてしまう。噛む力が凄まじく、レイルハンドガードごとライフルの銃身を噛み砕く勢いだ。
「佑一君!」
「全員その場を維持! 襲撃に対処しろ!」
栞が叫ぶが、佑一は動かないよう指示を飛ばす。余裕がなくなって敬語ではなかった。
マザー級がいるということは、今までの【NE】は全て統制化されたチルドレン級である。食事場に足を踏み込んだどころか、【NE】の住処に土足で踏み込んだ。
まだ襲撃は終わっていない。梨絵はマザー級【NE】に飛び掛かろうとしてもチルドレン級【NE】に邪魔をされてその場を動けない。前方もまだチルドレン級【NE】が構えている。
──銃が耐えられないか。
マザー級【NE】が何度も噛みついてくる。レイルハンドガードは粉々に噛み砕かれ、銃身もボロボロだ。あと少し力を強めれば、砕かれる。
「真由さん!」
「栞!」
見かねて栞と真由が動いた。互いの名前を呼び、やるべきことを分かり合った二人は、佑一に覆い被さる【NE】を撃った。至近距離と図体の大きさ故に、外すことはなかった。
銃弾を撃ち込まれた【NE】は叫び、大きく仰け反った。
「助かった!」
その隙に佑一は使い物にならなくなったアサルトライフルを投げ捨て、タクティカルトマホークで【NE】の首目掛けて振り抜いた。深く刃が食い込み、更に叫び声をあげてよろめいた。
『■■■■■■■、■■■■!』
「煩ぇな」
タクティカルトマホークを引き抜くと、傷口から血が噴き出して佑一を赤く染め上げた。そんなことは気にもせず、ベネリM4ショットガンに持ち替えて撃つ。発射されたスラグ弾が【NE】の肉を抉り取るように弾けた。
間髪入れず撃ち続ける。撃つ度に肉が弾け、血が飛び、悲鳴が木霊する。撃ち尽くすとショットガンのレシーバーを上に向ける。シェルホルダーからショットシェルを四発掴み、二発ずつ流し込むように装填。再び撃つ。
撃たれ続け、壁際に追い詰められた【NE】は叫びながら壁をよじ登り、天井を移動した。
「いい的だ」
天井を這うように広がっているパイプを掴んで移動するマザー級【NE】。パイプを掴む腕が一本になった瞬間、佑一のショットガンが火を噴いた。腕が引き千切られるように弾けると、マザー級【NE】は為す術もなく落下。
それを見た梨絵は、周囲などには目もくれず一目散に駆けた。
マザー級【NE】が起き上がったと同時、梨絵が飛び掛かる。最上段から振り下ろされた一刀は、巨大な体躯を縦半分に斬り裂いた。その一撃はマザー級【NE】を絶命させるには充分で、体は液状化して大きな赤黒い溜まりになった。水溜りの中で微かに蠢く蛭状の核を、梨絵は物憂げな表情でじっと見つめている。まるで哀れんでいるかの様だった。
死にかけの【NE】に気を取られていた訳ではない。チルドレン級が背後から襲い掛かった。僅かに反応が遅れ、振り向き様に刀で横薙ぐ。
「梨絵!」
が、どちらの攻撃も届かなかった。
佑一が全力で投じたタクティカルトマホークの分厚い刃が、チルドレン級の頭をかち割った。頭に刺さったままチルドレン級は地面を転げ回る。
梨絵は振り返った。その時、佑一はようやく無表情以外の、驚いた表情を見た気がした。
駆け寄り、マザー級【NE】の核を踏み潰す。その瞬間、統率者を失ったチルドレン級【NE】の様子が変貌する。先程まで纏まった動きを見せていた筈なのに、急に挙動不審になった。攻撃されているにも関わらず左右を見たり、逃げるのに必死で右往左往している。
「マザー級を潰した。取りこぼすな!」
「掃討に移るわ!」
好機とみた栞は声をあげて反撃を命じる。生徒達は銃撃を続け、【NE】の残党を狩っていく。マザー級【NE】がいなくなればこの有り様であり、まさしく狩りである。
殲滅していく中、梨絵はただじっと、殺されていく【NE】を眺めていた。
◇
数分も経たず、【NE】の殲滅が完了した。
「こちら鐘ヶ江高校、部隊隊長の古武栞です。トンネル内の【NE】殲滅を確認。戦闘終了を報告します。チルドレン級多数と、マザー級を確認しました。部隊に怪我人はいません。それと……もし良かったら、弾薬の補給がしたいのですが。送レ」
『こちら本部。状況を確認した。そちらに回収車を送る。その場を維持し、一度戻るように。良くやった。終ワリ』
「これで皆、着替えられるわね」
「え?」
「うわっ……」
「返り血ヤバ」
来た道を戻ってトンネルを出た部隊一行。十数分前なのに、太陽の下に出たのが酷く久しぶりな気がしていた中で、ようやく自分達の状況を確認出来て思わず声をあげた。
全員、【NE】の血を浴びていた。知らぬ間に接近されて撃っていた為だ。血の滴が服や顔についている。
酷いのは佑一と梨絵だった。全身、返り血を浴びている。
「銃身交換したばっかりだぞ。スコープも砕かれてる、くそ」
「…………」
だが二人は気にする素振りすらない。佑一はへし折れたアサルトライフルの銃身とトリジコン製ショートスコープを嘆く。梨絵は刀の血振りをし、あろうことか着ていた制服で刃の血を拭いていた。
「ちょっと……気にならないの?」
見かねた真由が声をかける。
梨絵は答えない。代わりに佑一が静かに答えた。
「慣れれば大丈夫だ」
笑った顔が、どこか空しくて、どこか恐ろしかった。
◇
本部に帰還して弾薬を補給。着替えを済ませ、少しの休憩をとってから任務を再開。栞と佑一からの報告で【NE】が発見された廃道及びトンネルは自衛隊案件となり、別のルートを巡回した。そこも山村や廃道ではあったが、【NE】と遭遇することはなかった。
夕方を過ぎ、鐘ヶ江高校の部隊は任務終了を迎えた。
報告を済ませ、荷物を持ってトラックの荷台に乗り込む。朝と同じように自衛隊員が運転し、寺井が助手席に座る。
「あー、疲れた」
差し入れで貰ったミネラルウォーターを飲み、真由は小さく欠伸をする。それを見た栞が「こら」と小さく咎めた。が、栞も同じで疲れていた。気を抜けば眠ってしまいそうだ。
朝の緊張した雰囲気ではなく、話しやすい和やかな雰囲気になっていたこと。疲れのせいもあったが、気軽に話せるのは良い空気で、おかげでどっと疲れが出てきた。
「明日も公欠扱いだから、今日はゆっくり休んだ方がいい」
「そうする。帰ってからの銃の整備がめんどいなぁ……」
「私も。お風呂入ってもう眠りたいわ」
「それいい。賛成」
「今思えば、伊崎さんとこうやって話すことはなかったわね。同学年なのに」
「そりゃ、まぁ。一般入学の私に対して、中学の特別教育機関から推薦で入学した古武さん。評判凄かったよ。一年生なのに鐘ヶ江のエースだとか、他校からも一目置かれてるとか」
「少し嬉しいけど、恥ずかしいわね……」
「実際そうだし。私は平々凡々だし」
「あら。伊崎さんの抜群な運動神経が色んなところで活躍してるって聞いてるわよ。それこそ他校との合同任務でも評判だって」
「それしか取り柄がないもので」
二人でにひひと笑った。疲れていることもあるが、それがいい方向で力が抜けた感覚になっている。
「もし良かったら、敬語なしで栞って名前で呼んでいい?」
「私も、真由さんって呼んでいいかしら?」
「喜んで。よろしくね、栞」
「こちらこそ。真由さん」
どちらからということはなく、軽く拳を突き合わせた二人はまた笑った。
ふと、真由は気になっていたことを聞いた。
「……そういえばさ」
「どうしたの?」
「佑一と梨絵ってどこ行ったかわかる?」
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