第15話

 それはラナケルの大火と呼ばれ、一人の死者、百人近い負傷者を出した大惨事として伝えられた。

 教会は魔女フレイラと傭兵エンブリーを指名手配したものの、ラナケルから逃亡した二人の行方をつかめないでいた。


『ルノ、お腹すいた』


 フーは椅子に腰掛けるルノの足元にしつこくまとわりつき、ねだる。

 ラナケルの大火からそろそろ一月。ルノが気を失った後、フーは氷を失った分を、街に召喚され、雨に打たれて弱っていたサラマンダーを詰め込むことで空腹をしのいだ。


 しかし、もうシアンはいない。


 先日、街を挙げて、シアンの葬儀が行われ、ようやく街の人も悲しみや火事の記憶から立ち直り始めていた。


 シアン亡き今、フーの空腹、影の空虚を埋める新たな方法を探さなくてはならなかった。


 頭の痛いことである。

 そのとき大紅葉の屋敷のドアノッカーが打ち鳴らされ、ルノより先に黒猫が玄関に向かって飛びだした。


「待って、フー!」


 さすがに客は飲まないだろうけれど、フーが客の応対ができるわけがない。

 ルノはフーを追いかけるように玄関へと駆け出した。

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