第35話 追加エピソード 3 挨拶

「なあ、土方」


 榎本中尉が不意に声をかけてくる。

「なに?」

「今度の休み、うちの実家に遊びに来ないか」

 私は目を見開いていたと思う。土方中尉が笑った。

「毎回言って申し訳ないけどさ、なんで戦闘ではあんなに勇敢なのに、俺の実家ごときにそんなにビビるんだよ」

「だって、戦闘は訓練してるでしょ。場数も踏んできたし。でも実家にご挨拶なんて訓練してない」

 私はため息交じりに言った。それを見て榎本中尉はまたケラケラと笑った。私は少し怒りながら言う。

「あのね、他人事だと思って、大笑いしないでもらえるかしら」

「だってさぁ…」


 私はふっと空を見上げた。以前から気になっていたことを思い出した。

 榎本中尉は私の様子が変化する時良く気が付いてくれる。

「なんだ?本当に引っかかることがあるのか?」

「うん。前から気になっていたんだけどね」

「なに?」

「私は異世界からこちらの世界に来たわけでしょ。それで家族もいない。こちらの世界の人から見たら、私は孤児になるのかなって」

「ああ、そういうことか」

 榎本中尉は得心したといった様子で言った。

「それが、例えば結婚とかにマイナスになるかもと考えるわけか」

 私はうなずいた。榎本中尉は私の目の前に来て言う。

「正直、その点、世の中の人がどういう風にとらえるのか分からないよ。ただ自信を持って言えることは、うちの家族はそんなこと気にもしないってことだな」

 私は彼の目を見た。

「そうなの?」

「うん、よそ様の家柄をどうこう言えるような家族でもないしね。どこにでもいる庶民だよ」

「そっか」

 私はホッとした。ずっと心のどこかで引っかかっていたからだ。榎本中尉は続ける。

「あり得ないけど、万一うちの家族が、土方中尉が召喚されたことを理由に付き合いに反対するようなら、俺は家族と絶縁するよ」

 そう言って彼は笑った。


 私は広い海に抱かれているような、そんな安心感に包まれる。

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