第34話 追加エピソード 2 日常2

 ジャクソン中尉と尾道曹長は、訓練のかたわらで立ち話しをしている。


「ジャクソン中尉。中尉は何でジパングに来たんですか?」

「ん?」

 ジャクソン中尉は唐突な質問にキョトンとした顔をした。

「だって、アメリカからジパングに帰化するって、大変なことだと思うんですけど」

「まあね」

 ジャクソン中尉は、芝生に腰を下ろした。尾道曹長もとなりに座った。

「どうしてです?」

「そんなこと聞いてどうするの」

「どうもしませんけど、興味があるんです。どうしてこんなに大変なジパングに来たんだろうって」

 ジャクソン中尉は苦笑いをした。

「こんなに大変って言っても、人々は優しいしね。あと、俺もアメリカでは大変だったから」

「大変だったんですか」

「ジパングの全てを肯定するつもりはないし、合う合わないは人によると思うよ。でも俺はジパングに救われたんだ」

「へぇ」

 ジパングに救われたという台詞は、尾道曹長にとっては不思議な響きがした。ジャクソン大尉は少し真顔になって言う。

「俺はアメリカで薬をやってたんだ。それでボロボロの青春時代だった。俺が全てに絶望してた時に、ジパングの記事を読んで興味が湧いたんだ。この生活を変えるには、どこか遠くに行かないと、とも思った」

「ジパングはそんなに魅力的だったんですか」

 尾道曹長はジャクソン中尉をしげしげと見つめる。

「繰り返すけど、全て完璧な国なんてないよ。ジパングも悪いところはたくさんある。ただ俺が救われたのは、ジパングは俺の子供の頃の悪さを詮索したりしなかったんだ」

「ああ、そういうことですか」

「そう。それが何よりありがたかった。忘れたい自分の歴史だったからね」

 そういってジャクソン中尉は空を見上げた。そして続ける。

「正直、家族が恋しくなる時はあるよ。でも俺にはもう戻る場所もなくてね」

 尾道曹長はうつむいた。余計なことを聞いてしまったかなと思った。

「辛いことを思い出させてごめんなさい」

「いいんだ。そう言って、素直に興味を持ってくれる人もアメリカには居なかったかな。いつも悪い仲間とつるんでしまったから」


 尾道曹長はジャクソン中尉の袖口を両手でギュッと握った。

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