第23話 捜索

 小林少佐は怒鳴り散らした。


「桐野中尉は何処に行ったんだ!『示現剣』を勝手に持ち出すとは何事だ!」

 代わりに呼び出された尾道曹長は気の毒なくらい震えあがっている。他の四人の中隊長も思い当たるところが無かった。

「誰も聞いていないのか!」

 ジャクソン中尉が言葉を挟む。

「少佐。まだ事件と決まったわけではないので、帰ってくるのを待つのもあるんじゃ…」

 小林少佐は言葉をさえぎる。

「何かが起こってからでは遅いんだ!諸君らも気付いていただろう。桐野中尉は情報漏洩の嫌疑をかけられて、諜報の監視対象になっていたのだ!」

 小林少佐はバンと机を叩いた。

「ともかくすぐに連れ戻せ!で何か事件を起こされたら諸君らの昇進も絶望的と覚悟しろ!いいな!」

 土方中隊、神崎中隊、ジャクソン中隊の合計約三百人は、佐々木中隊を基地に残し捜索に出た。小林少佐はつぶやく。


「くそ、俺の心にも油断があったか」



 ジャクソン中尉はつぶやく。


「行方不明者の捜索に三百人とはな。テロリストの掃討じゃあるまいし」

 榎本少尉は言う。

「つまり小林少佐にとって、今回の件はテロリストの掃討と同じくらいの意味なんでしょう」

「そうなのか。榎本少尉は何か聞いてるのか」

「何も聞いてないですよ。ただ桐野中尉とは付き合いが長いですから、ただの家出じゃないとは思います。何か覚悟を持って出て行ったでしょうね」

「どこに?」

「分かりません」



「土方中尉。桐野中尉がどこに行ったか心当たりはないですか」


 私は福岡軍曹を横目で見た。

「私を疑っているのかしら」

「違います。確かに自分は小林少佐の命令で土方中尉の元に配属されていますが、中尉の人柄は承知しました。私は命令だけで生きる程には、まだ冷めきっていません」

「私も本当に分からない。出来れば何かが起こる前に連れ戻したい」

「ここまで騒ぎを起こしてしまえば、何らかの懲罰はまぬがれないでしょう。私は土方中尉がご自身を大事にされることを望みます」

 私はキッと彼を睨み付けたと思う。

「どういう意味?」

「桐野中尉に心理的にも同情することは、私も含め中隊の将来を危険に晒します。そのことです」

 私は怒りが湧いてきた。

「あなたは桐野中尉がどうなってもいいの」

「そういうつもりはありません。ただ私が守りたいのはです」


 私は悲しくて仕方が無かった。どうしてこういう人の思いが、一つに結びついていかないのだろう。その時帯刀していたが光を帯び始めた。



 柿下少尉は言う。


「ここまで来たらやむをえません。桐野中尉を発見し、もし捕縛に抵抗するようなら射殺もありえます」

 神崎大尉もそれに反対ではなかった。けれどもなぜ部下である柿下が方針を決めているのかと思った。

「それは、最終的にはそれもありうる。ただ現時点ではまだ何も起きていない。もしかしたら事故かもしれん。それだけは頭の片隅に入れておけ」

 柿下少尉は神崎大尉を睨み付けるように言う。

「お言葉には十分に気を付けられた方が宜しいですよ。何処に耳があるか分かりませんから」

「君は随分面倒な性格だな。君が何を小林少佐に報告するか、俺に興味はない。ただ桐野はまだ何もしていない。それだけだ」

を勝手に持ち出して音信不通では、何もしていないとは言えないと思いますけど。」


 そう言って柿下少尉は神崎大尉を冷ややかに見た。神崎大尉は腹立たしかった。ただの内通者ならば仕方がないと思っていたが、性格まで悪いのか。神崎はいくつもの言葉を飲み込んだ。神崎中隊及びジャクソン中隊は何の手掛かりもなく時間だけが過ぎて行った。



「何か分かるのですか」


 福岡軍曹が私に聞いてくる。

から声が聞こえる」

 私はつぶやいた。

「え?」

 福岡軍曹も耳を澄ます。

「自分には分かりません」

 私は耳をそばだてた。

「福岡軍曹、中隊を東京に移動させても大丈夫かしら」

 福岡軍曹は驚く。

「関東管内であれば、大尉のご一存で可能かと思います。しかしなぜ?」

「桐野中尉は東京の方向へ向かっている気がする」

「分かるのですか!」

「自信はないわ。でもそんな声が聞こえた気がする」

 福岡軍曹は考えた。

「神崎中隊やジャクソン中隊を応援に呼びましょうか?」

「その必要は無いわ。桐野中尉は部下も含めて六人でしょう?戦闘になってもまず負けることは無いわ」


「戦闘・・・ですか」

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