第17話 編成
私が中尉に昇進したと同時に、横浜基地の再編もなされた。基地の指揮官に小林少佐が正式に就任した。その下に五人の部下が付いた。
私に桐野中尉、佐々木中尉、そして東京から異動してきた
◇
「組織もころころ変わるな」
榎本少尉がため息をつく。
「ごめんね、私の下で」
私は本当に申し訳ないと思った。
「ん?ああ、気にしないで良いよ。君の魔法の力なら昇進は妥当だと思うし。むしろ俺としてはやり易いかな」
「そっか」
気を使ってくれてるなと思った。ただ昇進したいという思いは芽生えていたから、この機会を逃したくないとも思った。
◇
「群馬彰義隊の残党の話しは聞いているな」
小林少佐は神崎大尉と私、桐野中尉の三人を呼んで話し始めた。神崎大尉は答える。
「自分が東京を出る前に聞きました。未だ残党の動きは活発であると」
「そうだ。今回新田中佐から、横浜より三中隊による討伐命令が下った。これがどういうことか分かるな」
私と桐野中尉は目を合わせた。神崎大尉が答えた。
「新田中佐の昇進がかかっているわけですね」
「そういうことだ。上司の昇進の手助けをすれば、諸君らの待遇も上がる。全てが良い方向に回るのだ。そういう意味で今回の作戦はいつもより一層励んでもらいたい」
「承知しました」
私は答えた。迷わないように、と私は心の中で思った。ふと桐野中尉を見ると、うつむき気味だ。むしろ私より小林少佐にわだかまりがあるように感じた。
「それから土方中尉については、新しく福岡軍曹を側近としてつける。副官としてでもいいから、好きにつかってくれたまえ。神崎大尉も東京から柿下少尉を呼び寄せている。こちらも育ててやってくれ」
ああ、言ってた監視役かな、そう思った。
少佐の執務室から出て、神崎大尉から呼び止められた。私は不信の目を向けていた。
「土方中尉。そう警戒しないでもらいたい。あなたの能力は東京まで伝わっているのですよ。連携を取っておかねば、お互い困ることになるかもしれない」
「すみません。失礼があったらお詫びします」
「いや、大丈夫。中尉に一つだけ伝えておきたいのだが、東京も当然一枚岩ではないということだよ。多数の派閥があり、それぞれ権力闘争に明け暮れているのが実情なんだ。だから東京から来た人間を、ひとくくりにしないでもらえたらと思う。それだけだよ」
「そうですか」
私はポカンとした。
「ああ、それと君の下に着く予定の福岡軍曹だけど、彼は確かに小林少佐の側近の一人だよ。ただ彼もまだ若いから、小林少佐の意図を正しく理解しているのかは疑わしい気がする」
桐野中尉が割って入る。
「大尉は小林少佐の意図を正確に把握されておられるのですか」
「彼は自分の出世を第一に考えるタイプだけど、それが結局は部下の昇進にもつながるという理屈なんだ。その範囲では必ずしも悪い人ではないかもしれない。俺に付けると言われた、柿下少尉も小林少佐の東京時代の部下だけど、彼については良く分からない。まあ、小林少佐からの、頭の片隅に留めておく忠告ぐらいに受け止めておけば良いよ。俺と一緒に横浜赴任になった山田大尉も、俺と似たような感想を持ってる。だから二人とも肩の力を抜いてやったらいいよ」
そう言って、神崎大尉はクルリと背を向けた。
「どう思う?」
桐野中尉は私に聞いてきた。
「彼は何か含みがあるような風には見えませんでした」
私は素直に答えた。
「そうね」
桐野中尉は一人考え込むような仕草をした。そうして、神崎中隊、桐野中隊、土方中隊の三つの中隊で群馬県沼田市を目指した。
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