第12話 掃討作戦
前橋市内にある
「田中隊長が
木村副長は苦笑いをしながら、隊員の
「情報はある程度入って来てますから、包囲網の穴から脱出も可能だと思います」
木村副長は鼻で笑う。
「包囲を抜けることは可能だろう。けれどもそれでどこへ行けって言うんだ。他の反乱部隊に入ったところで、雑巾がけからだ。下の奴らは特にそうだろう」
「それはそうですけど、命を落としては元も子もないように思います」
副長はコップにつがれた酒を飲み干す。
「城之下、お前は投降しても良いんだぞ。何も死に急ぐ必要もない」
「私はここに入った時点で死は覚悟しています」
「さっきと言ってることが違うように思うのは俺の気のせいか」
城之下は笑った。
「じゃあ、訂正します。私は副長についていきます」
副長は頭をかいた。
「城之下、聞いてくれ。俺はこの国の政治があまりにも庶民を捨てているから、怒りを持って、群馬彰義隊の創設に関わった。それについて今でも後悔はない。ただもう少しどうにかならなかったかと思うのは、政治との距離感だ。俺達は軍備を急ぐあまり裏のルートに頼り過ぎた。その結果テロに巻き込まれる形で、それに加担していった。結局前橋の市民からも距離を置かれるようになってしまった。何が言いたいか分かるか」
「だいたい分かります」
城之下はうなずいた。
「そう、夢に燃えて群馬彰義隊を結成したけれども、出来た組織は小さなジパングだった。市民の事よりは結局自分の仲間を守るために走り回るだけで、保身集団になってしまった。俺達は何かアプローチを間違えたような気がしてならん。その結果がこの軍による包囲のような気がする」
そういって木村副長は酒をもう一杯ついだ。
「俺はこのまま戦おうと思う。結果おびただしい犠牲を出せば、また時代も動くかもしれない。前橋の市民も何かを感じてくれるかもしれない。それが俺の希望だ」
「部下はどうするのですか」
「各自の判断に任せる」
「そうですか」
「だから、城之下。お前はここから逃げてくれないか。お前を巻き込むことだけが心残りだ」
木村は酔いを自ら覚ますように、背筋を伸ばした。城之下は言う。
「木村副長。あなたは今各自の判断に任せると言われました。何故私にだけ撤退を命じるのですか」
彼女は真っすぐに副長を見据えた。木村副長は彼女に気圧されて目を逸らした。
「男のワガママだよ」
「だったら女のワガママもあります」
城之下はニコリと笑った。
◇
翌日群馬彰義隊の木村副長は拠点にいる約百名の隊員たちを整列させて、訓示を行った。
「みんな、聞いてくれ。俺たちは軍にほぼ包囲されている状態だ。入って来た情報によれば、軍の兵力は、俺たちの5倍はある。火器の性能まで含めればそれ以上だ。恐らくまともにやって勝ち目はない。俺達は国が国民の貧困を一切顧みないことに抗議する意味で、隊を編成した。そのことは絶対に間違っていない。だから俺はあくまでここに踏みとどまって、戦うつもりだ。ただ勝ち目のない戦いにお前たちを巻き込む権利が無いことも知っている。だから投降したいと思う人間が居れば、俺はそれを許可する。あくまで戦うというヤツは俺についてきてくれ!」
午前中までに約二割の二十人ほどが軍に投降してきた。残りおよそ八十人が前橋市の拠点に籠城しているという具合になった。
新田中佐は言う。
「約二十人が投降してきたそうだ。このまま包囲しておいても、そのうち全員折れて投降してくるのではないかね。どう思う、小林君」
小林大尉はニヤッと笑って、言葉を出す。
「中佐、それは中佐もお分かりのはず。これほど美味しい獲物を逃す手はありません。戦争で勝利すれば武勲として、評価が高まります。しかも勝利は確実。このチャンスをみすみす逃す手はありません」
新田中佐は笑った。
「君の言葉は至って分かり易くていいな。確かにそうだ」
「そうです。何を迷う必要がありますか」
「やるのは良い。ただ市民の犠牲はなるべく出さないように。その次に味方の戦死者もな」
小林大尉は首を振った。
「昇進を考えれば、そこまでやれば完璧ですが、まあさすがにそれは贅沢かもしれませんよ」
「中央も市民の犠牲には神経質になっている。君も昇進を考えての行動であれば、その点は重々注意したまえ」
「承知しました」
言うだけなら誰でもできると、小林大尉は思った。
◇
五つの中隊はそれぞれ慎重に進軍しながら、包囲網を狭めていった。そしてついに群馬彰義隊から銃撃が開始された。
「よし!相手が撃ってきてくれたぞ!これで思う存分やれる!」
小林大尉は叫んだ。
川口中隊は真西の方角から群馬彰義隊の拠点を攻撃開始した。私も魔気ロケットランチャーを担いで、一気に精神力を充填して撃ち放った。五階建てのホテルのような建物だ。その三階部分に綺麗な軌跡を描きながら、見事に命中した。私はもう人を殺すことをほとんど恐れてはいない。ただ一刻も早く戦闘を終わらせたいと思った。無駄に苦しい気持ちを持たせるのは、虐待に近いと思うからだ。川口中隊は相手の戦意喪失を狙って、ロケットランチャーを雨のように降らせた。
群馬彰義隊の拠点は思いのほか頑丈に出来ていたが、ロケットランチャーの威力を見るにつけ、反撃の銃声が弱くなっていくのを感じた。あの中にリーダーがいるはずだ。そいつを殺してしまえば、戦意は消えるはず。私はそう思って魔気暗視スコープを装着して、相手のもっとも精神が充実している人間を建物から探していた。
「いた」
私はつぶやいた。
「何が」
榎本少尉が聞く。
「相手のボスよ」
明らかに他の人間より精神力のきらめきが違う存在が、魔気暗視スコープから垣間見える。
「榎本少尉、援護して。銃で相手の反撃が来ないよう、撃ち続けて」
「それで、どうするんだ」
「相手のボスをロケットランチャーで叩く」
私はロケットランチャーにありったけの精神力を充填していった。その時敵の拠点でもありったけの精神力を充填していく反応を感知した。
「相手もロケットランチャーを持っている!」
銃撃戦が始まってすぐに使ってこなかったのは、弾数が少ないからだろうか。お互いがロケットランチャーに精神を充填していき、榎本少尉もそれに気が付いた。
「やめろ!真正面からやり合うつもりか!」
私は不思議と恐怖を感じなかった。いくつかの経験が私の中から恐怖より戦うことを選ばせていた。相手は多分拠点のリーダー。自分でも恐ろしいほどに冷静だった。私はゆっくりとロケットランチャーを肩に担ぎ、精神を充填している人間に向けて標準を定めた。喜んでいいのか分からない。私の方が、能力が上なのがはっきり分かった。
「ごめんなさい」
私はそう呟いて、引き金を引いた。黄金色をした直径三十センチメートルはあるような光弾が標的目掛けて駆け抜けていく。相手の充填はまだ終わっていなかった。
そして意識が流れ込んでくることに気が付いた。私は尋ねた。
「あなたは誰?」
「なんだ俺は女にやられたのか」
「ここのリーダー?」
「ああ、群馬彰義隊の副長、木村ミランだ」
「そう白人の血が混じっている人なのね」
「セルビアだ」
「セルビアの人が何故日本にいるの?そして何でテロなんてするの?」
「お前は何も知らないのか?」
「ごめんなさい。私は異世界から召喚された人間なの。詳しい経緯とか分かってなくて」
「ああ、お前があの召喚された人間ってやつか。セルビアは、大きな戦争が起きて、国土が荒廃したんだ。その時ジパングも含めて、多くの人間が亡命者を受け入れてくれた。俺の両親も日本に逃げて来たんだ」
「そう、あなたも戦争ばかりだったのね。でもなんでテロなんか」
「俺はテロなんか一度もしてないぞ」
「え?」
「世界中どこも似たようなもんだが、民衆は単に食料を要求しただけだ。正確に言えば、食料の流通を確保するために運動しているだけだ。そこに警察や軍が攻撃をしかけてきたから、自衛の為の軍を組織しているだけだ。テロと言っても、お前は具体的にテロの現場なんて見たことないだろう」
「そんな…」
「テロも世の中に存在するが、抑圧されて何も持たされない人間が戦おうとしたら、テロ以外にどんな方法があったんだろうな。俺はお世話になったジパングにお礼がしたかっただけさ」
「…」
「このまま行ったら俺の愛するジパングは破局しちまう。俺を育んでくれた前橋は終わっちまう。だからその前に何とかしたかっただけだ。それをテメーみたいな良く分かってないヤツに潰されて、悔しい以外に言葉はねえよ」
「ごめんなさい…」
「まあ、いいさ。召喚された人間も聞いたところだと色々大変らしいからな・・・。そうだ、違法なれども合徳という言葉がある。お前に少しでも心があるなら、真実を見てくれよ。真実を見たと思ったら、俺のことを思い出してくれ。じゃあな」
そう言って、彼は消えていった。私の放った光弾は見事に建物の五階部分を貫通していた。意識の通った木村副長が完全に絶命したのが入ってきた。彼の痛みが入ってきた。それと同時に彼を愛する人の歌が聞こえてきた。銃声から一時間と経たずに、戦闘は終結した。
生き残った群馬彰義隊のメンバーはほぼ逮捕された。
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