第6話 静岡からの反撃

 ■静岡からの反撃


 静岡に派遣された部隊はおよそ百名だった。私はこの規模が妥当なのかどうか考えたことは無かったが、どうも最近この数は圧倒的に少ないらしいと気が付いてきた。そして巡回も静岡市の中心部までは行かずに、東部のふちをなぞるように巡回していることに気が付いた。


「何のことは無い。治安の維持は本来警察の仕事だ。市内の治安は、静岡県警の仕事なんだ。我々の任務は暴徒を圧迫しつつ、暴動の火種を関東に入れないことだ。今回の作戦は殲滅せんめつが目的ではない」

 川口大尉は至極冷静に言った。

「武装について言えば我々が圧倒的だからな。だからこの百名規模で十分という判断なのだよ」

 疑問が氷解ひょうかいする。私達は静岡の人たちを救うために来たわけでもなんでもなかった。

「そうなんですね」

 私は覇気が無かったと思う。

「土方少尉。君は細かいところに気を回し過ぎるな。我々が静岡の治安を劇的に回復させてしまったら、静岡の警察の面子を潰すことにもなるからな。今は彼らの仕事を待つしかないんだよ」

 私は役人の理屈だと思った。その時「ガガガッ」という複数の銃声がこの静岡の軍施設へ向けて放たれた。

「土方少尉!すぐに防衛に回れ!」

「はいっ!」

 私は叫ぶと同時に走った。


 ◇


「榎本少尉。敵はどれくらいですか」

 私は榎本少尉と共に、二階建ての施設の窓から外を眺めた。

「分かりません。単発の嫌がらせなのか、本気の攻撃かも分かりません」

 榎本少尉も外をうかがっている。

「あっ!」


 私は思わず口にした。予知夢のように大きい直径の光弾が、この施設を直撃するのが分かった。次の瞬間、榎本少尉も何かを察知したようで、

「伏せてくださいっ!」

 と言い、私の体に覆いかぶさった。同時にきらめく光弾が見えて、こちらの施設の真ん中に見事に着弾した。轟音が鳴り響き、多くの瓦礫がれきが出来上がった。土煙が立ち込める中、私は自分が生きていることを確認して安堵した。

「大丈夫ですか。怪我はないですか」

 榎本少尉が聞いてくる。

「大丈夫です」

 私はとっさにかばってくれた榎本少尉をまじまじと見た。正直彼はどこかよそよそしいところがあって、私も気にして少し距離を置いているような感覚があった。

「どうして助けてくれたんですか」

「召喚した者の責任もありますからね」

 それだけなんだな、と思った。敵の光弾は西にある山の中腹から発射されているのが分かった。

「どうしますか。反撃しますか」

「僕がやります」

 軍施設からは特に被害を受けていない隊員が、魔気銃まきじゅうにて反撃をしているが、敵も大きなロケットを発射して以降撃ってきていない。敵の位置がおおよそしか分からなかった。榎本少尉はを担いで、精神を集中し始めた。それはみるみる充填されていき、大きな光に包まれた。

「土方少尉。自分の身を守るため、まずはこちらの火力の高さを見せつけるのが大事です」

 彼は横目で私を見ながら言い、そして直径三十センチメートルはある光弾を西の山の中腹めがけて撃ち放った。ロケットは綺麗な金色を帯び、見事な軌跡を描いた。そして着弾した。けれども、相手に直撃したかは分からなかった。

「相手が戦意を喪失してくれれば良いんですけどね」

 しかし、敵からはむしろそれに呼応するように散発的に「魔気銃」による光弾が続いた。やがて体制を立て直した軍は一気に、私の一発も含めて合計十発のロケットを立て続けに発射した。武器を美しいと思ったことは無かったけれども、やっぱり花火みたいとは思った。そして敵からの銃声は鳴りやんだ。

「仕留めていません。撤退しただけですよ」

 榎本少尉は苦々しそうに言った。戦死者が二名出た。私は二名とも面識がほとんど無かったので、実感が湧かなかった。

 ただ自分の寝起きしていた施設で死亡者が出たのは事実だった。川口大尉は軍の施設へのあからさまな攻撃と、敵の火力が思いのほか強力で、精度も高いことから、軍の上層部と協議し、静岡から一旦撤退することを決めた。


 私達は横浜に戻った。

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