ハートビートとコンプレックス
高丈敏
第1話 バトルマニア
夢……なんてね。
色々と言いたいことはあると思うけど話を聞いて欲しい。特に私の彼氏となる人にはね。
私には偉大な夢がある。誰かと戦いたい。分かりやすく言うと、暴力を振りかざすコトの憧れ、渇望。ホントに変な、危険な夢、思想。
理由はまあ、バトル漫画の読みすぎかな。中二病ってヤツ? リアルファイトが好きで、よくアクション漫画やスプラッタ映画なんかをこの歳まで見続けてる。いつかはリアルな殴り合いの喧嘩をしてみたい。命のやり取りに興味津々。まあ格闘技とか知らないないけどね。
自分もバトルモノの主人公やヒロインに憧れ、自己投影しては、自室でお守りや護身用として買ったバタフライナイフやスタンガンを振り回して、いつか来る強い敵との対峙を妄想してた。それはもう一種のビョーキかってくらいね。
だから今、目の前にひったくり犯がいて、私のカバンを盗ろうとして失敗、私と睨み合いの緊張状態になっているこの状況。凄く良い。最高。かかってきな、Hey Baby!
学校帰りの途中。待ち望んだのバトル開始。
ひったくり犯の犯行の手際を見るに当たり、素人。それも男。体格的に優男。しかし私の方が若干有利か。同じ素人だけど。
ひったくられそうになった時にカバンをあえて盗らせ、誰もいない上に人目につかず、遮蔽物の多い路地裏の空地まで追い込んだ。その際相手の2メートル後方に密着して走ったため、相手を疲弊させ、精神的に揺さぶりをかけ、且つ私のやりたいようにできる見知った路地裏へと誘い込めた。大きなアドバンテージと言えよう。
因みに私は体は華奢だが相手よりも体力的にも身体能力的にも上だと思う。昔からマラソンをやっていて今は選手ではないけども毎日のトレーニングとして続けてたから追いかけても特に息を切らさなかった。何気に持久力には自信があった。
素人同士の喧嘩だから1、2分でけりがつくかな。
ヤツがナイフを出してきたらこちらはどう応戦しようか。スタンガンで動きを止める?
そんなことを考えながら睨み合うこと数秒、ひったくりが行動を起こす。
「フン!」
ヤツは私ではなく、持ってるカバンにレスリングの要領で突進を仕掛けてきた。狙いはぶつかる衝撃で私をぶっ飛ばし、そのまま私の手のカバンを奪って逃げる気だろう。闘う気がないとは嘆かわしい。
私は突進をギリギリ当たるか当たらないかのタイミングで相手の右側面に避け、低い姿勢で突撃してきたひったくりの右膝を体重を乗せ思い切り踏みつける。
膝からイヤな音がした。
「うむぐっ!」
ひったくりはくぐもった悲鳴を上げ前のめりに倒れ込もうとしてる。私はその隙を逃すことなく相手の右人差し指と中指を掴んで反対方向に思い切りへし折った。
「うがぁぁぁああ」
今まで声らしい声を発しなかったひったくりは悲痛な叫びをあげながら地をのたうち回る。
勝負あり。あっけない。残念。もうちょっと根性見せてよ。
「警察呼ぶけど良いよね?」
「……」
男から返事はない。
警察に連絡する前に男が逃げないようトドメをさしておく。蹴った膝の間接をテコの要領で外す。
男が絶叫したが無視して警察に連絡した。
その後警察署で過剰防衛としてたっぷり絞られた。
一歩間違えればこちらも加害者になっていたぞとかなり厳しく叱られた。
ひったくり犯は常習犯だったらしくその後すぐ逮捕され警察病院へ。
それでも帰り道は初戦で完勝したことに気分を良くして、鼻歌混じりに夜の街をスキップ気味に帰った。
まあ帰ったら帰ったで家族にもたっぷり絞られたけど。
その夜、ベッドの中で私はある街で行われているある祭について思いを馳せた。ストリートファイトの祭典。実に楽しみである。
ハートビートとコンプレックス 高丈敏 @hiro-5001
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