第27話 手練手管 -レイヴィンsideー
アレッシュに突き飛ばされ胸に飛び込んできたセラフィーナを抱きとめながら、レイヴィンはアンジュが連れ去られた方を睨む。
(チッ……もっとあの男を警戒しておくべきだった)
今思えばセラフィーナがやってくるたびアンジュは部屋を出てしばらく行方をくらませていた。その居場所を決して言おうとはしないで。
「なにがあったのですか?」
今はこの女に構っている場合じゃない。腕の中で首を傾げる彼女を手放しレイヴィンはアレッシュの後を追おうとしたが。
「待って、レイヴィン。行かないで……心細いわ」
セラフィーナが腕にしがみ付き上目づかいでレイヴィンを引き止めてきた。まるでアレッシュを追わせないように。
「…………」
(グルだったのか)
アレッシュを追うのを止めたレイヴィンは、いつものように微笑むとセラフィーナの髪を撫でる。
「大丈夫、セラフィーナの傍にいるよ」
「レイヴィン……」
セラフィーナもいつものように微笑み返しレイヴィンにしな垂れかかってきた。
(なにを企んでいる?)
いつも彼女はレイヴィンに自分からくっついてきては、アンジュを追い出すと満足そうに離れ暫く世間話をして部屋を出ていく。
それが全てアレッシュの指示だったなら、これも……?
(主犯はあの男か?)
だがまだ全貌が見えない。
「どうしたんだ?」
セラフィーナは無言でレイヴィンを見上げながら指先でレイヴィンの唇をなぞってきた。まるで誘惑するように。
「…………」
その誘いにのるように触れてきた彼女の指先を甘噛みした。
僅かにセラフィーナの表情が強張ったのをレイヴィンは見逃さない。こんなことを仕掛けてくるわりに慣れていない反応だ。けれどそれに気付かないフリをしてその手を優しく掴む。
「昼間から随分と積極的だな」
「……あら、この部屋はいつだって薄暗いもの。昼も夜も関係ないでしょう」
強張った表情は嘘だったかのように蠱惑的な笑みを浮かべた彼女は、掴まれた手を握り返し……そのままレイヴィンをベッドの方へと誘導した。
「レイヴィン……」
名前を呼びながら首に手を回しレイヴィンの顔を引き寄せるとセラフィーナは唇を寄せてくる。寸での所でレイヴィンは彼女の唇に指を当てそれを止めた。
「……女性に恥を掻かせるなんて最低よ」
レイヴィンはなにも答えなかった。ただ笑みを浮かべ黙ったまま次になにをするのかと待っているようだった。
その態度が気に入らなかったのかセラフィーナはムキになったように顔を顰めると、強引にレイヴィンをベッドに押し倒す。
ハニートラップでも仕掛けるつもりか。
(そっちがその気なら)
レイヴィンの上に馬乗りになったセラフィーナがもう一度、唇を寄せてくる。
しかしやはりレイヴィンはその口付けを拒んだ。
「悪いな、唇にするのは惚れた女だけって決めてるんだ」
「っ!」
軽々とレイヴィンはセラフィーナと自分の位置を反転させ彼女を押し倒す。
「どういう、意味? 貴方が愛しているのは、私、セラフィーナでしょう?」
レイヴィンはそっとセラフィーナの耳元に唇を寄せ囁く。
「ああ、俺が愛してるのは、セラフィーナただ一人だけ……お前は何者だ?」
「っ!?」
目の前の彼女は顔を引き攣らせる。
「恋人ごっこはもう十分だろ」
そう言いながらレイヴィンは彼女の上から離れた。
ゴロンと横を向き肩を震わせる彼女は声を殺し泣いているようにも見えたけれど。
「ふっ……くく、あはははははは」
目を見開いて笑い出す。セラフィーナとは似つかわしくない表情で。
「そう……そうなの、気付いていたの。でもいいわ、あの子の嫉妬に歪む顔は見れたものね。貴方はもう用済みよ」
そう言いながらニヤリとほくそ笑み突然自ら着ていたドレスを肌蹴させると。
「キャーーーーッ!!」
耳を劈くような金切り声をあげた。
「どうなさいましたか!?」
近くにいたのであろうメイドが二名、驚いて部屋に飛び込んでくる。
そしてベッドの上でドレスを乱し怯えた顔をして震える彼女と、その近くにいるレイヴィンを交互に見比べ青ざめた。
「ああ、セラフィーナ様……なんてことをっ」
慌てて駆け寄ってきたメイドがセラフィーナの身体をシーツで包み隠すように抱きしめる。
「声を取り戻せた恩人だから、部屋で二人きりで会うのは我慢していましたが……無理矢理こんなことをっ、ひどすぎます」
メイドの胸に顔を埋め震えながら涙声でセラフィーナが訴える。
「まあっ、そうだったのですね。それで先生のお部屋にっ」
メイドが軽蔑の眼差しでレイヴィンを睨みつける。
そうしている間にもう一人のメイドが警備の者を呼んできて、レイヴィンはその場で取り押さえられた。
(こうして第一王子の婚約者に手を出した罪で邪魔者は葬るシナリオか)
「俺はなにもしていない!」
叫び暴れるけれど両腕を男二人掛かりで押えられ引きずられるように部屋から連れ出されてゆく。
「放せよっ、俺は無実だ!」
「大人しくしていろ!」
「放せっ!!」
廊下に出るまでレイヴィンは叫び抵抗し続けた。
そんなレイヴィンの姿を見て彼女は泣いたふりをしながら笑っているのだろうか。
レイヴィンは部屋を離れると無実を叫ぶのを止め俯き……強かな笑みを浮かべていた。
(さあ、この先にどんなシナリオを描いているのか見せてもらおうか)
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