第5話 セフォルド城にて



 キルド王国、王都「バリンズ」 それは小高い丘に建設された何重もの城壁に守られた楕円形状の鉄壁の城塞都市だ。王国のほぼ中央部に位置しておりその盆地特有の肥沃な大地と二つの大河に挟まれているという有利な条件の整った地だ。それに王都のすぐ南東には国王の鎮座する代々セフォルド家がその玉座に就いている『セフォルド城』が空中回廊で王都と直接つながれている。その佇まいはまさに威厳のある王国の長が住むに値する美しくも強固な非対称の八角形をした部屋数は2000をくだらないというこの世界でも3本の指に入るほどの名城の1つだ。




 その名の中でも最も高貴な部屋、その長い赤じゅうたんの奥にある1つの椅子。数段の階段の上に築かれた頑丈でいかにも気品の漂う椅子には一人の男が腰かけていた。その目の前に跪いた数人の家臣と絨毯の脇には両側に多くの衛兵が剣と槍を掲げていた。家臣の一人がその玉座の男に話し出した。



「セフォルド殿下、シプレ(東方面総指揮官)として進言したいのですが」


「何だ、確かに貴公に私はシプレとしての全権を委託しているが…」



そう、玉座に腰かけているのはもちろんこのキルド王国、第137代国王 メロドオス・ロドリス・セフォルドその人だ。少々、考え込むような様子を見せたがその立派なアゴヒゲをさすりながらこう言った。



「いいだろう。それで進言とは何だね?」



落ち着いた身のこなしと「王たる王」という呼び名にふさわしい威厳に満ち居ていた。

跪いたシプレである「ジェルノ・フェルド侯」はこう続けた



「殿下、もちろん国王陛下もバースが現れたという事は承知していることでしょうが しかし、それよりも我らは対峙する敵ドレクド公国の軍勢にも、もっと気を配る必要があるのではないでしょうか?すでに野戦陣は構築がぼぼ成っておりますが数は劣勢、しかもバァントの連中の動向も気になります。」


「・・・承知している。心配はいらない。我が王国軍は公国程度に引けを取らんつもりだがどうだ?

それに我々には"オーガナイド(大陸)の三賢者"がついている。これ以上の援軍がいると思うかね?」





 オーガナイドの三賢者、『バーンドレスド(選ばれし三賢者の意味)』それはバース、エルロットル、アローの三人のことだ。伝説の三人が世界を導くと昔から言い伝えられてきた。それだけではない。実際にこのレパント(中つ世界)の長い歴史の中でそれは何度も繰り返されてきた。



セフォルド城その玉座の前にはジェルノ・フェルド候爵、その隣には国家特別顧問の「リメディア・ケーズ」とキルド王国、外交内政官「アルファロ・シリヌッド」公爵が立っていた。



そして、様子を窺っていたシリヌッド公は手もみをしながらこう切り出した。


「しかし、それはどうにかなると仮定しましょう。問題はもう一つの方ですな」



国王であるセフォルドはさっきまでと一変して表情を変えた。まったく動じていなかった王が少しだけ動揺を見せた。


「オーガナイド公国の王子様のことか……確かに少々難があるな。これは力技ではどうしようもないからな」



オーガナイド公国とは内陸部のキルド王国の西側の海に面した大国の1つだ。そして、その王子様というのは近頃公国の公王に就いたばかりの「パトリゲルド・クライン」殿下のことだ。まだ齢17にしてその皇位に就いた切れ者だ。

その公王とは長年の因縁がロドリス・セフォルドとの間にはあったのだ。


国王であるからには他国との外交は無視できない。だがこの二人の間には深い『個人的な』因果がありそれが外交上の障壁にもなっていたのだ。



深いため息のあと、王はこう言った。



「今はオーガナイド公国を相手にしている余裕はない。とにかく失礼のないように特使をお返ししろ。これは王命だ」



事実上の玄関先で追い返す行為になってしまうがそんなことはしょうがない、というのはオーガナイドの人間も知っているはずだった。


「クラインを子だと認める訳にはいかん…。これは王国にとって将来的に大きな損益 いや、先方の思うつぼだ。

・・・だが、どちらにせよこの私にとっては不利な状況だな」



国の特使を追い返すなどという非礼は絶対に認められない行為だ。それをしてしまったのだから









 同じ頃、そんなことが城で話し合われていることなど知らない私はのんきに幌馬車に揺られていた。



 「シルはなんで旅に出ようと思ったの」


選ばれし者の一人レッズのそんな問いかけに頭を悩ませていた。自分でもよく判らなかったからだ。考え込んだ姿を見て魔女であるガマのばあさん もとい キャンデばあさんは見かねるように


「そう考えても答えなどでまいて。それは内なるもの お主の今の気持ちを云えばいいだけじゃ」


確実に私の中で何かが動き出していた。


「わたしにもよく判らないが、 "もっと本当の『自分自身』を知りたいから" だと思う。


 たぶん…」



そういうとすぐに小馬鹿にするように


「たぶんって自分の事なのにな!」



お調子者のバーティンかそういうと馬車には笑い声が広がった。



「その通りだな。自分の事なのに」 と



シルが言うとキャンデはまた私の心を見透かしたように


「自分の事だから分からないっていう事もあるじゃろ、他人からしか見えないものも有るだろうに」



と彼女が一番求めていた答えを返してくれた。




この言葉こそが本当に旅に出る決心をさせた 一言 だったのかもしれない。

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