第3話 オドリー 後編

対峙する二人。姉妹の睨み合いは多くのリースの街人たちが見守る…いや、監視の中、続いていた。

口火を切ったのは彼女の方だった。


 「ナゼ、罪もない住人を…」


 「罪もない、ですって? 罪がない人間はいない。知っているでしょ」


 「そんなことはない。確かに私たちを『呪われし者』と呼ぶが…」


 「そう、嫉妬しているの 人間どもは私たちの『チカラ』に」


 「力、何を言って」



彼女たちの会話は平行線のまま交わることはなさそうだ。

そもそも、すでに「許す」そうじゃない「許される」範囲をとうに超えている。ここで終わらせなければ成らなかった。それこそが少しでも罪を償うことになるからだ。しかし、彼女の場合は少しそれとは違っていた。



突然だった。斬撃が私を掠めた。もちろん、躱したからだ。避けていなければ斬られていただろう。

その動きは普通の人間たちには見えなかったらしい。彼らが気付いた時にはすでに二人は重なっていた。



「何をするっっ」



問いかけに当然の如く答えた。


「もちろん、お姉さまと闘う為よ。言ったでしょ『どちらかが死ぬまで』って」と



またも、微笑んだ。 壊れている。 そう、瞬間的に感じた。




 「あなたは、病んでいる。しかも、もう直しようがないほどに…」




そういうのが聞こえているはずなのに答えはまったく違うものだった。



「さぁ、答えを出しましょう。私達たちが選ばれたものである事を証明するために」


「選ばれた者? そんなはずがないわ。」



妹は即答した。


「そう、この闘いの本能は私たち姉妹だけに与えられた特権なのよ」と

またもや微笑みながら言う。


「  オドリー     あなたは壊れている 」



叫びながら、剣を振り下ろした。だが、殺気は消えるどころか増しているように見えた。


「そうよ。アタシは壊れている。だからどうしたというの?

 この世界の方が私よりもよっぽど壊れているわ」



どんな暮らしをしてきたか……探す過程で育ての親(両親)から虐待されたこと、特に父親からはさらにひどいことをされたらしい。でも、それで両親までは理解のしようもある。

しかし、世界を滅ぼすバァント(魔界)の手先「蛇の目」に加担し、悪事の限りを尽くしているのにもかかわらずまったく認識していないようだ。それどころかそれを「正義」だとでも言いそうな勢いだ。



「私が、終わらせる」


「? 今、何か言った。」



わざと聞こえないかようにそう言ったが顔はほくそ笑んでいた。そして、


「お笑いものね。ねぇさんの口からそんな綺麗事が出てくるなんて」



そういうのと同時に再び街人をまるで虫を殺すように真っ二つにした。



「オドリーーーっ」



彼女は怒りで妹の懐へと短剣を手にし飛び込んでいた。 だが…





モーションすら見えなかった。私が動いたのを見て動いたのだろう。しかも当たる直前で



わき腹に向かっていた短剣はすんでのところでオドリーの剣でブロックされていた。

雨粒が衝撃波で球状に広がった。二人の戦いの様子はまるで残像を見ているようにしか常人には見えていないようだ。




「・・・・・・」


「ザンネンでした」



さらに連続で斬撃を数度加えたがすべて躱された。馬鹿にしたような幼い返答。



私はあることを思い出していた。ドラゴンは肉を食すとその力を増すという。もちろんそれは

 『人肉』のことだ。

まさかとは思ったがオドリーは平然とした顔で



「推察通りよ。私は父の腸を食べたの。早く殺さないと私はここにいる全員を殺してしまうかもよ」



「…… 悪は滅しなければ この世界のルールに従ってね」



ドスを利かせた低い声にやっと私が本気になったのを理解したようだ。



「これでやっとまともに戦えるわ」


「いいえ、それ以上にね」



私がそう云い走り出そうとした時、

広場にいた街人から声が聞こえてきた。それは初めは何かわからなかったが徐々にはっきり広場全体の人たちがみな発していた。まるで波のうねりのように




『おぉ、戦士よ。悪しきものを罰せよ。悪を駆逐せよ!ロテネの加護が有らんことを 悪を 滅しよ、滅しよ!!』


と こぶしを突き立てながら



街が謳うその声が

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