第2話 オドリー



   彼女の名はオドリー



彼女の妹にして、悪の結社「蛇の目」に手を貸した極悪人。それは到底許せるものではなかった。

リースの街、そのレンガと石造りの街並み、その石畳みに真っ赤な鮮血が流れた。


 名前を呼んでいる。



 「シル、居るのは分かっている。鼻が利くんだ。ドレッジ・バァントだからな」



 ドレッジ・バァント 悪の裁決人… それが、私たちの呼び名だ。



血に濡れている以外は妖艶な少女にしか見えない。剣を手にし、眼が「灰色」で瞳が爬虫類のような縦長である以外は……


それこそがドレッジ・バァントであるという証しでもあった。




「呪われた血族めが!」




包囲した兵士の一人がそう言い放った。

まさにそれは正しかった。しかし、今言うべきではなかった。



私の予想は当たってしまった。

次の瞬間、その兵士は真っ二つに切り裂かれていた。

言うべきではないこともある。特に怒りに満ちた「ドレッジ・バァント」の前では…



 私は、ずっと探していた。幼いころ生き別れになって以来、ずっとだ。でも、最近は最初のころとは別の理由で探していた。初めは純粋に妹と会いたかった。それだけだった。

しかし、ある噂を聞いた。それは、彼女が多くの過ちを犯しているという事だった。お尋ね者となっていたオドリーは13年ぶりの再会を喜んではくれないだろう。内心はうれしかった。それでも、結局はバッドエンドしかないだろう。私たち姉妹には



身を潜めていた馬車から飛び降りた。



もちろん、彼女のもとへと行く為だ。


「おい、嬢ちゃん。悪いことは言わない。今は下手に動くんじゃない。相手はドレッジ・バァントだぞ。」


そんなことははなっから知っていた。数日間旅を共にしただけ、しかも金で仕事を頼んだだけだ。

金貨を一枚投げた。


「後金だ。仕事はここで終わりだ。」


「いや、そうじゃない。カネなら一枚で十分だ……。あんた死ぬ気か」



その時、男は気付いた。私の眼が灰色になるのを



「アンタもドレッジ・バァント…」



腰を抜かしたオヤジを尻目に布を巻いて隠していた 短剣 をほどいた。鞘からその独特な色をした刃を抜いた。それはただの剣ではなかった。



「父さん、あなたでオドリーを」



そう云いながら

ひと蹴りで飛び上がり一気に屋根の上に飛び上がった。


そして、屋根伝いに駆け出した。 妹オドリーへと向かって



これは宿命なのだ。

今に始まった事じゃない。長い、長い、レパントの歴史の中で繰り返されてきたイコン。



オドリーのいる広場にひと跳びで降り立った。



「これは、これは

 悪の申し子が 二人も…」



衛兵の指揮官がそういうとは反対に大部数を減らしていたがこちらにも切先を向けてきた。



「役立たずどもは、下がれ」


「ナニ!、呪われし者の分際で」


「私が終わらせる。」



その言葉に広場は騒然とした。ついさっきまでパニックに陥っていた筈の街人たちは足を止めた。

まさに寝耳に水、耳を疑ったのだ。ドレッジ・バァント同士が向かい合っていたのだから。



「何を言っている」


「聞こえなかったのか? 雑魚は下がっていろと言っているんだ。」



灰色の瞳が4つ、その広場の人々を見つめていた。



ブルート・シックス それが私に付けられた二つ目の呼び名。『青の衝撃』、それはここにいる人間たちには分からない。私の師、「ギャスパー・ネスリーロ」が付けた呼び名だった。彼女は私の最高の師匠であり今でも最強の青魔導師だ。彼女からまっとうな道を教えてもらった。だが、オドリーは違う。



「姉さん、久しぶり。さぁ、楽しみましょう。どちらかが死ぬまでね」 と微笑み



剣をまっすぐ私に伸ばした。



もちろん、私も短剣を構えていた。


「そんなちんけな短剣で戦う気?」と


馬鹿にしたように言い放った。私は内心怒りで煮えくり返っていたが冷静さを失うことはなかった。



「これはただの剣じゃないわ。そもそも金属じゃない」


「もしや…それは」



何かに気付き少し動揺したようだったが再び刃をこちらに向けた。

その短剣の名は 「ガルドの牙」 そう、私たちにとっては宿命的な刃なのだ。



そんな家族の再会を邪魔する弓矢がオドリーの胸に突き刺さった。

だが、彼女は痛むそぶりさえ見せなかった。



「私を誰だと思っている。バケモノ(ドラゴン)と人間の間に生まれた魔物だぞ。こんなもので…」



と胸から矢を抜いた。

少し、どす黒い漆黒の血が流れた。だが、すぐに傷は癒えてしまった。

ドレッジ・バァントに弓矢など無意味だ。殺す方法はただひとつ。



  『心臓を抉り出す』ことだけだ。



ドラゴン退治と同じように……

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