グローズ・ファイア 蒼き炎編

ハイド博士

サイド・ダークネル 蒼き瞳の少女

第1話 その少女


 時の胎動は止める事のできない歯車に過ぎない。 --------少なくとも彼女はそう思っているのだろう。




この世界は皮肉なものだ。強いものが大手を振って歩くことは罷りならないらしい。

この世界の名をレパントという。外では魔物(モンスター)どもがのさばっているというのに、この国キルド王国は今、近隣の強国「ドレクド公国」の侵攻を受けていた。しかも、自軍の三倍近い兵力。しかし、国王「メロドオス・ロドリス・セフォルド」はこう言ったという。


 『確かにドレクド公国には75万の兵がいる。しかし、彼らの兵は捕虜や民兵の寄せ集めで本当の兵士は我々の半分もいない。我らは決して負けない。不敗のキルド王国の兵士は精鋭ばかりの戦士だ。これまで137代この国が勝ち続けられたのがその何よりの証拠だ』と


今まさに国境を越えて王国に侵攻しようとしている大軍の松明の光の帯。そして、地響きと成り響く行進の足音。だが、長いレパントの忌々しい歴史の中ではほんの1ページにしか過ぎないのだが……。




 呪われた娘、それが本当の名前よりも私を雄弁に語っていた。



  「ドレッジ・バァント(悪の裁決人)」



これが彼女のの呼び名。そして、生まれてきたことへの贖罪。

そして、自ら妹を殺めることになった原罪でもあった。場所はキルド王国、町の名をバロンズの「リース」という。そんな話も、もう大分昔のことのようにも思える。


灰色の目の乙女がいる。


それが何を意味するかなんて分かってほしくもなかった。でも今はバースが選ばれし者が私を「善」であると認めてくれた。これはそんな話の一部だ。


 



荒野の悪路を行くホロ馬車が一台。

その中に信じられないだろうがおとぎ話だと思っていた人間が3人もいる。

一人は伝説の剣士、エルロットル「ゴールド・ロック・リンクス」

もう一人は選ばれし者、バース「シルバーヌ・レッズ」

そして、面識のある老婆がいた。


「ナニ見ておるんじゃ。わしの顔はそんなにべっぴんでもなかろうに」


そう、何を隠そう彼女は通称キャンデばあさん、私の師の姉妹らしい

……まぁ、又の名方が知られているが…



「ガマのばあさん、まだ着かないのか」

「そう、焦るでない。若造が!」

「確かに、380歳の魔女と比べれば俺なんて赤ん坊だ」

「そうだなガキだ」

「うるせぇ、モック」



コイツは好きになれそうにもないコッカダークネル、黒魔術師の

自称、大魔術師の「パドック・サルド・モネ」

確かに魔術師としては認めるが大の酒喰らいと女好きときている。そして、おまけにおしゃべりバーティン・モックス通称モックこの変わり者集団の中に私もいる。


「そういえば、シル。お主はなぜこの旅に着いてくる気になった?あれほど嫌がっていたが…いや、そうではないな、お前は恐れていた。人と交わることを……そうじゃな?」



キャンデばあさんのその質問に即座にこう答えた。


「そうだと言ったら どうだというの?」


「どうもしないサァ。ただ、お主の事は知っておる。ギャスパー(姉)からよーく、聞いておる。事の子細を話してくれないか?シルよ」



そう、これが彼女の名前、シル・フィールズ

本当の名前。だが、この名前を呼んでくれるのは今はこの仲間だけだ。





 (三年前、バロンズ領 リース)




その日は雨だった。茶色いローブを深くかぶり私は俯いていた。滴が長い髪からぽたりと落ちた。そう、よくないことが起こりそうな気がしていた。過去にもこんな雨の日に悲劇が起こった。私たちが生まれ、友人を失い、そして今日という日。なんてツイていないんだ。

お尋ね者の「ドレッジ・バァント」が自ら現れたのだ。無残にも罪のない街人を殺した。許されるわけがない。しかも私が一番愛する妹だからこそ、許しようがなかった。妹の名をオドリーという。


育ての両親をバファスといったが彼らは彼女の手によって殺された初めての人間たちだった。


それから彼女は殺戮の限りを大悪人と悪事に加担し続けた。おかげで私まで追われる身になったという訳だ。長年、妹を探していた。

それもこれも始まりは呪われた血のおかげでしかないのだが…。


それこそが「ドレッジ・バァント」という存在。


街の衛兵に囲まれた剣を持った妹は街人の血で濡れていた。そして、笑みを浮かべていた。そう、彼女は知っていた。こんな兵士なんかに倒せるはずがないと、そして、私がどこかで見ているということを知っていた。



「シーーールゥ、居るんだろ? 私を殺しに来たんだろ?」と



わめていた。

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