第2話
「だったら、他にかせげるの?」
「……いや」
自信なそうにうつ向いた。
「だから、私の演技力でかせぐしかないでしょ?」
友季子は自信満々だった。
隆雄には、それを断るだけの強い意志はなかった。
会社から割り当てられた今月分のノルマの寝具の一部を置いたバンに乗り込むと、二人は旅に出た。
条件に合う店を探しながら、青梅街道に出ていた。間もなく、適当な店を見つけると、店の裏手にバンを
店に入ると、まず、防犯カメラの有無を確認。客は二人。隆雄の咳払いが合図。
「ゴッホン!」
隆雄の咳払いで、店の前に待機していた友季子が入ってくる。
まず、隆雄が万札でガムを買う。次に友季子が千円札で食べたい物を買う。友季子は隆雄の次に並んでいる。
「ありがとうございました」
レジは、店の奥さん風。
隆雄が釣り銭を貰って店を出る。
「はい、いらっしゃい」
友季子は、シュークリームを一個と、千円札を渡す。
「はい、900円のお釣りね」
奥さん風がそれを友季子に手渡す。
「えっ? 私、一万円渡したもん」
「ん? ……いや、千円だったよ」
「一万円だもん」
一人増えて、三人の客がレジに集まってくる。
「……確かに千円だったよ」
レジスターの一番上の千円札を手に取る、奥さん風。
「おばあちゃんから誕生日プレゼントにもらった一万円だもん」
三人の客、ざわつく。
困った顔をする奥さん風。
「どうしたんだ」
奥から出てきたのは亭主風。
「渡されたのは千円札だったのに、一万円札で払ったて言うのよ」
「だって、おばあちゃんのメッセージもあるもん」
「えっ!」
急いで一番上の万札を手にする奥さん風。
「“誕生日おめでとう
奥さん風が万札をひっくり返すと、余白にその通り書いてある。
奥さん風と亭主風はびっくりした顔を見合わせる。
「ごめんね。おばちゃんの勘違いだったみたい。えーと、100円のシュークリームだったわよね。……9千と900円のお釣りね。はい、ありがとう」
釣り銭を手渡す。
いまにも泣き出しそうな風を演じながら店を出る友季子。
「ったく。気をつけろよ、老眼なんだから」
叱りつけて奥に引っ込む亭主風。
「……おかしいな。確かに千円だったんだけどな」
首を傾げる奥さん風。
もし、友季子の次に客が並んでいる場合は中止する。支払った金が千円札か万札かを、その客に見られる可能性があるからだ。
なので、隆雄と友季子の間に数人の客が並んでいる、ある程度込み合っているレジのほうがいいが、もし、隆雄と友季子の間の客が万札で支払った場合、その金が隆雄の支払った万札の上になるので、この手は使えない。
理想的なのは、防犯カメラが設置されていない忙しい店。忙しければレジスターには万札も多い。てんやわんやで、客が支払った紙幣が千円札か万札かの確認不足があったり、計算ミスや勘違いが生じやすい。
店の角を曲がると、友季子は走った。そして、隆雄がエンジンをかけて待っているバンに大急ぎで乗り込むと発車した。
「大成功! その上、900円プラス。千円のときに900円おつりくれたのに、一万円でも900円おつりもらっちゃった。お父さんのガムと私のシューを引くと、9,700円のもうけ」
友季子がお金を見せた。
「やったな」
隆雄が感心する顔を向けた。
「チョロいもんよ。ね、またそのへんでやろ」
友季子が調子に乗った。
「近場は危険だ。もう少し遠くに行ってからな」
「なによ、一日10万ぐらいかせごうと思ったのに」
口を尖らせた。
「バカ、そんなに上手くいくか。慎重にやらないとボロが出るぞ」
「ふぁ~い」
シュークリームの袋を開けた。
「お父さん、少し食べる?」
「いらん。ガム食べてる」
「うお、ツインシューだ。モグモグ……おいしい」
「……温泉でも行くか」
「ムシャムシャ。ダメだよ、まだ。もう少し貯めて、よゆうができてからじゃないと」
「……はーい」
倹約家、友季子の提案で、売り物のビニールカバーを付けたままの敷布団と羽毛布団を拝借して、車中泊。風呂も銭湯ということになった。
移動の合間に算数や国語の問題を解いたりして、友季子は時間を有効に使っていた。
そして、一週間で10万円ほどを稼いだ。生活費に充てようとする友季子と温泉希望の隆雄は真っ向から対立したが、結局、友季子に押し切られた。
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