予兆。12

「……あれか」

 俺は小さな声でいった。

 四人の男たちの中に一人だけ、黒いパーカーを着ていて、かぶっているフードの奥に見える髪が青い奴がいた。

 ――あづだ。

 あづは、右隣にいる金髪の奴と話をしながら缶酎ハイを飲んでいた。

 多分潤がいってた怜央って奴だ。

 ――ん?

 缶酎ハイを持ってない方のあづの腕に、白い包帯のようなものが巻かれているように見えた。パーカーのポケットに入ってるから手首しか見えないし、確かじゃないけど。


「おいあづ、何してんだよ!」

 潤があづの目の前にいって、声をかけた。

 あづは潤を見たが、すぐにふいっと目を逸らした。

 どういうことだ?

 俺と恵美は慌てて潤の隣に行った。

「空我!!」「「あづ!」」

 潤が空我っていう声と、俺と恵美の声が被った。

「ちっ」

 舌打ちされた。

 ……え、なんでだ?

「怜央、酒買い行こうぜ」

 あづが缶酎ハイを飲み干して、怜央に声をかける。

「へ? あづ、友達じゃねぇの?」

「……だとしても、今は話したくない。失せろ」

「えっ。あづ、何でだよ」

 お前、昨日俺の家泊まったじゃん。意味わかんねぇよ。

「触んなっ!」

 あづの肩に手をやろうとしたら、大声で叫ばれた

 ――この反応はおかしい。絶対何かある。

 俺はあづのパーカーのフードを引っ張った。

 あづのフードが取れて、隠れていた顔が露わになる。

 あづの唇がきれていて、右の耳たぶが赤く腫れ上がっていた。

 ――もしかして。

 俺はあづの左手を無理矢理パーカーのポケットから出した。

 あづの手首に包帯が巻かれていて、そこから血が滲んでいた。さっき見えたのは、やっぱ包帯だったのか。

 あづは何も言わず、缶酎ハイを持っている手で顔を隠した。

「あづ、ケガ隠すならもっとちゃんとやれ」

「いや文句言うの絶対そこじゃないだろ。 それに、ちゃんとやられたら困るだろ。見破れなくて」

 潤があまりにもズレたことを言ったので、思わずつっこんでしまった。

「あ、それもそうだな」

「ハハッ。……お前ら怪我見たのにいつも通りすぎだろ。……怜央、ごめん。俺今日もう帰るわ」

「りょーかい。また明日な」

 怜央は文句も言わなかった。

「……うん、また明日」

「明日も酒飲むのかよ」

 潤が咎めるみたいにいう。

「……飲まねぇよ。怜央は学校も一緒なの、潤は知ってるだろ?」

「ああ。それが一番嫌なことなんだけどな!」

 潤が大きな声で言う。露骨にも程がある。

「うわっ、俺嫌われてるなー」

「そう思うなら態度を改めろ。行くぞ、あづ」

 缶酎ハイを持っている方のあづの手首を潤が掴む。

「ごめん、みんな」

 あづが怜央たちを見ながら言った。

「ああ、大丈夫。じゃあなあづ」

 怜央は気にすんなとでも言うかのように片手を上げた。

「「じゃあな、あづ、奈々絵ちゃん」」

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