予兆。5

「あー気持ち良かった。奈々、ありがとう」

 ダイニングのソファに座り込んでテレビを見ていると、俺の服を着たあづがそんなことをいって風呂から出てきて、そばにきた。

「おう。隣座れよ」

 俺はテレビを消して、あづに隣に来るようにいった。

「見てたんじゃなかったのか?」

 あづが隣に座ってきて、俺の顔を覗き込む。

「お前が風呂に入ってて暇だから見てたんだよ」

「……あっそ」

 あづは目を見開いて驚いてから、そっけなくいって顔を伏せた。

 あづのテンションが低い。

 いつものあづなら、今の俺の言葉に嘘だろとか言って、大袈裟に反応するハズだ。

 何で今日はこんなにテンションが低いんだ? 

 虐待のせいか?


「……なんで潤の家じゃなくて、俺の家来たんだ?」

 俺は虐待のことを聞いてもどうせ答えてくれないだろうから、当たり障りのない話をすることにした。

「潤と話す気になれなくて」

「なんでだよ?」

「……俺とあいつは環境が違いすぎるから。あいつってさ、すごい世話焼きじゃん。俺が雨なのに奈々の病室に行ったときも、LINE返信してこないからって凄い心配してくれたじゃん」

「ああ、そうだったな」

 俺はあの時のことを思い出して、笑いながら頷いた。

「そういう心配のされ方を、時々嫌だと思うことがあるんだよ。今日はそうだった。だから奈々の家に来たの」

「そっか。環境が違うって、どんな風に?」

「色々だよ。アイツの家は金持ちだし、家族も仲良いし、俺の環境とは全然違う」

「あづの家も金には困ってないだろ。穂稀先生が親なんだから」

「……それはそうだけど、照明はシャンデリアじゃないし、少なくとも潤の家程の金はねぇよ」

「まぁそうか。……穂稀先生は相変わらず仕事忙しいのか?」

「……う、うん。そう」

 忙しいのは本当なんだろうけど、他に何かあるんだろうな。そう思わせる言い方だった。

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