紗代子 凪
血色のない青白い顔、肌のツヤも良くない。目の下に、くっきり浮き出た
「渡会さん。ちょっとぉ、大丈夫なの? 私の家で休んでく? 話なら、ちゃんと聞くから。ね、そうしましょ」
私から佳津羽を引き離した美希が、これ見よがしに視線を送ってくる。
彼女のような
佳津羽が唇を噛みしめたまま、美希の言葉に反応する。
人なんて
佳津羽は背筋を伸ばし、私を
「大っ嫌いよ、あんたみたいな女」
よほど悔しいのだろう。乾燥した唇に血が
「覚えておいた方が、いいわよ」
佳津羽は疲れた表情に、
「いつか、あんたも私の気持ちが分かる時が来るから」
「ぜったいに」私を指差し戻って行く佳津羽に、この状況を面白がっている美希が、佳津羽と交互に見ながら彼女の後を追って行った。その後ろ姿が、なんとも
女は恋をすると綺麗になるというが、男に捨てられた女は、その比ではない。気持ちの持ちようによって化けるものだ。それも
佳津羽に追いついた美希が、二人でエレベーターに乗り込んだ。
「
手招きする美希に真樹はコクリと
うっすらと染まった頬、ゆっくりと手で口元を覆う仕草は、さながら愛しい人を目の当たりにした少女のよう。真樹につられて、つい見上げてしまったが、その先にはベランダから、こちらを見下ろす和幸の姿があった。
真樹が慌てて、ちらりと私を見た。いつもは大人しく自信なさげな真樹だが、何故か、人を見下し敵視するような視線を送ってくる。
ぷっくりとした真樹の唇が動き、その口元が微かに笑った。よく聞き取れなかったが、彼女の唇が形作る言葉は、はっきりと見てとれた。
真樹は美希が乗ったエレベーターへ、小走りで向かった。
ふわりと甘い真樹の残り香。彼女らしくない大人の香り。もう一度、ベランダにいる和幸を見た。正気のない和幸が私を見ていた。
きっと真樹は、私に大きな声でアレを言いたかったんだろう。でも行動に移せたのは、あの程度。
そう、そうだったの。
思ってもみなかった人に挑戦状を叩き付けられたみたいで、思わず笑ってしまった。ぼんやりと見下ろしている和幸に手を振り、時刻を確認する。少し急がなければ間に合わない。
歩き出しながらも、可笑しくて仕方ない。そう、あの真樹がね……。
彼女が私に言った言葉。
『負けないから』
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