渡会 佳津羽
「信じらんない、そんなに私と話すのが嫌だっていうの」
携帯電話を床に投げつけようとした手に、雨上がりの雲間からさす光が止めろと割って入ってきた。
薄暗く
こんな日がくるなんて想像もしてなかった。たった一人で引っ越しの梱包してるなんて。この部屋を私ひとり、去る日がくるなんて。
ぐらりと傾いた身体が足元の布テープを蹴った。ゆらゆら揺れながら、テープは広げられていた新聞紙の上で止まった。
半分程、使い切ったテープ。残りの半分が、これらは自分がやらなければいけないのだと現実を見せてくる。
喉、乾いたな。
冷蔵庫を開けてみた。缶ビールと卵とハム。酸味が強くなったキムチ。それに調味料しか入ってない。最近は食欲も落ちていて、ちゃんとした食事もとっていなかったから、こんなものしか入っていないが。まさか昼からビールというわけには、いかないだろうし。
水道水は飲みたくない。私が育った田舎には有名な
買ってくるしかないか。
黒のジャージにTシャツ。ジャケットを羽織って手櫛でまとめた髪を黒ゴムでとめた。外に出るといっても、近くのコンビニくらい。その程度で化粧をする気になれず、いつも、こんなものだ。
外はいい。気分転換になる。
早坂美希や國木田真樹と、たわいない話をしていた公園や、季節の変わり目毎に世話になったクリーニング店。あそこは人当たりが良い奥さんで流行っているようなものだが、美希の話だと息子さんが大病にわずらってるとか。そんな面持ちを表に出さないのは、さすが商売人といえる。
その奥に見える二階建ての赤い屋根のアパート。あそこは一階の一室で自殺があったことで事故物件になり、その部屋だけでなくアパート自体、借り手が居なくて困ってると聞いた。あれから四年、いまだに入居者はまばらだ。大家がアパートを手放すか迷ってると美希から聞いたが、どうしたものか。
小川に架けられた古く
「いらっしゃいませぇっ」
レジに
背が高くて痩せていて、
このノッポくん、見てない振りをしながら、けっこう客を観察してる。仕事がら万引きとか警戒しているのかもしれないが、用もなく立ち寄って商品を
店の奥にあるミネラルウォーターをカゴに入れ振り返ると、
店内をまわる。やはりパンは売り切れだった。パンコーナーの手書きの表には、次にパンが焼き上がるのは二時間後とある。あれば買ったが、また足を運ぶほど食べたいわけではない。
ご飯もの、おにぎり、麺類に他にもあるが、やはり食べたいとは思えない。それでも栄養を取らなければ倒れてしまう、そう思ってはいるのだが。手に取ってしまうのは缶ビールとつまみ。アルコールが入らないと、最近では寝付けなくなってしまった。
豆腐を手にした左手のくすり指に指輪のあと。その指から目を
「いらっしゃいませぇっ」
全神経が店に入ってきた女に注いだ。
紗代子だ。
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