紗代子 嫉妬
浴室から聞こえてくるシャワーの水音が止まった。しかし和幸が出てくる気配はない。
和幸は湯の張った浴槽に必ず
ソファーから立ち上がり、窓ガラスの向こうに広がってるの闇と向き合った。
窓に映り込む、もう一人の私。その頬を指でなぞりながら外を
眠りにつこうとする家々から漏れる淡い明かりと違って、それは賑やかな
いつもより帰宅するのが早い美希の夫が、重い足取りでエントランスに入って行くのを目にした。
体格は大柄だが筋肉質。年を重ねる毎に前に出てくる下っ腹は、年相応のものか、それとも毎晩の
寛治との
寛治が午前様で帰ってくるのだと、美希が
あんな男に関わるのは本意ではないけど、美希を脅すには効果があるのかもしれない。
浴室のドアが開いて
「ねえ、そこ拭いてたわよ」
濡れても汚れてもない所を拭こうとした和幸を止めてみた。
「あ、そうか……」
はたと止まって、意味なくグラスの水を揺らす。すぐにグラスを洗い、タオルで拭いただけの髪をかき上げて時計を見る。何となく、つられて私も見てしまう。
時が経つのが遅い。一分一秒が長く感じる。
時間を持て余してるのは和幸も同じらしく、どこか落ち着きがない。なにかしら仕事を探しては歩き回る。それ程広くない我が家。その狭い空間を行き来するものだから、どうしても目についてしまう。
手持ちぶささの和幸が明日の昼食用の米をとぎはじめると、すぐに乾いた咳をしはじめた。喉元を手で押さえ、口を真一文字にする。
「なに、もしかして風邪?」
「ん、たいしたことない」
否定はしたが、やはり
健康面では人一倍気にする男が風邪だなんて、珍しいことだ。
一呼吸おいた和幸の携帯電話が不意に鳴り出して、私も和幸も同時に携帯電話に釘付けになった。和幸が慌てて携帯電話を鞄から取り出し、掛けてきた相手を確認しながらリビングから廊下へと出て行く。磨りガラス越しに写る和幸の背中に、なぜか腹立たしさを覚え、スタンドライトライトの明かりだけを灯したまま部屋の電気を消した。
ブラウスのボタンを、ゆっくりと外す。スカートのファースナーを下ろしてソファーの上に置いた。
外は吸い込まれそうな濃い闇。窓ガラスに写る綺麗な身体の曲線を眺めていると、会話が終わって
部屋が暗いことを疑問に思うより、私が下着姿でいるということに驚いてると言った顔だ。
無言のまま携帯電話を充電する和幸の隣に立つと、目を
「今の電話、誰から?」
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