和幸 慟哭
「そう・・・」
正直、身がすくんだ。
美月に向き直った紗代子の顔。対峙する美月を前に、彼女の中で青白い怒りの炎が静かに燃えているのがわかる。
美月も紗代子に対して、受けて立つという姿勢を崩してはいない。
何故こんな事になってしまったのか。ただ美月を、駅まで送るだけだったのにだ。
二人を前に、どう言葉を掛ければいいのか
「ねえ、貴方。ほんと可愛い方よね」
まるで男の体温を求めるよう、絡んでくる指先。美月に見せつけるためだけに、密着してくる身体。紗代子の、ふっくらとした唇から漏れる息が耳の奥をくすぐる。そして意味深に囁いた言葉。
「貴方も、結構やるのね」
のっぺりとした感情のない紗代子の顔が、そこにあった。
何を言っているんだ。
美月と何か関係をもったとでも言いたいのか。それとも、これから何かが始まるとでも。
能面、そう女面だ。
能楽の演者が舞台で舞うかのように、ゆったりと動く紗代子が美月に微笑んだ。
「美月さん、ごめんなさいね。貴女に不愉快な思いをさせてしまったみたい。でも、悪気があったわけじゃないのよ」
紗代子が肩に頭を乗せてきた。
「この人、こういう
紗代子が「ねえ」と上目遣いで胸を押し当ててくる。
やめてほしい。これ以上、何も言わないでくれ。そんな上辺だけ仲良さげにしても、もう美月は気付いている。それとも美月に、こんな小芝居を見せたいのか。
「やめないか・・・」
「嫌よ、やめない」
紗代子が唇と唇が重なる距離まで、近づいてきた。
「私、これから他の男と遊んでくるわ。それが嫌なら、この女じゃなく私を選びなさい」
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