その6
まあ太のぼんやりとした表情を見て取ったのか、犬は「行きましょうか。」
とだけ言いました。周りに気づかれないように影のように心を沈めて、村はずれに行くと、全力で今あったことはなかったかのように猛ダッシュで「勇者の村」をあとにしました。カラス天狗は寝そべって翼をはばたかせながら、大猿はけだるそうに鼻をほじりながらどかどかとついていきました。
「はー。」とまあ太は深いため息をつきました。帰りは別の道を通ろうとも思いました。
心になんだか妙なわだかまりを覚えつつ、ずんずん進んで行くと今度は
「賢者の町」と書かれたアーテスティックな立札を見つけました。「あー。」
とまあ太は思わず口にしてしまい3人の視線を感じました。
町はきれいに舗装され、見上げるような高いビルが建ち歩く人はみな・・・と
描写しようと思いましたがどうしようもありません。ビルはねじ曲がり家屋に屋根がないのがトレンドだそうで、道行く人は皆いかに変な格好で歩くか。ということに執着しているようで、まあ太はあらゆることに意味を持たせようとすることを止めました。さっきすれ違ったふたりは手袋と靴下だけ身に着け逆立ちで歩いています。こちらの人は顔を全く隠し「キャッシャレス。」と胸に書いてあるにもかかわらず、体中にぬらした千円札を背中に貼り付けてます。
さっきすれ違った透明のスーツの男は頭が鳥の巣みたいで、実際彼のあたまには鳥のひなが三羽おり、そこへせっせと親鳥たちがエサをやっています。とにかく誰かを探し声をかけようとしましたが彼らの言葉があまりにも難しすぎて、何を言っても馬鹿にされそうで、一人静かにあとを去りました。
「どうして賢い人があんなみっともない恰好をしているのだ。」
まあ太はとにかく人のいないところへ行こうと思い、賢者の町のはずれにある岬のところまでやってきました。まあ太はうつろな目をして座り込み、そして一言
「なんかなあ。」とだけ言って右手で横に向けた顔にほおずえをつきました。犬と猿も座り、まあ太の力のなさにカラス天狗も降りてきました。
するとそのとき自分の横に自分と一緒のようなほおずえをついた老人がいることに気が付きました。髪はばさばさでぼろぼろの服を着ています。
しばらく時が止まりました。が、まあ太は勇気を出して老人に尋ねました。
「あのう、嫁さんをさがしに・・・。」
すると突然老人は怒ったようにこう言うのでした。
「わからん!何もかもわからん!何が良くて何を中心とし、何を心のよりどころにしていいのか全然わからん!見たかね彼らの姿を。あれで鬼が退治できるだと?あれで誰よりも賢いだと?そんなことしたってなんの意味もない事がどうしてわからないのだ!」
まあ太はまるっきり先手を取られぽかんとしていましたが、ふと我に返り、
おっ母の身なりはちゃんとしておいたほうが良い。という言葉を思い出し風呂に入って髪を切りそれなりに普通の服を着たほうが良いよ。と老人に伝えました。
すると老人はびっくり仰天し、ころころと坂を転げ落ちてそのままつま先が土に食い込むくらいひっくり返りました。これはいかんと4人が近づくと、老人は
「ああ、そうだった。それがいいんだな。」と何度もうなずいていました。
老人はすっかり穏やかな顔になってまあ太の話を聞きました。
「お前が望んでいるものは、この世で最も偉大で尊いものの一つなのだ。手に入るかどうか。それはいくつになってもわからんよ。いないほうがよかった。なんて思うかもしれないしな。
まあでもおれはお前のために望むとしようか。正しい心で望むものは大体一つか二つは叶うというからな。あきらめないというのは願いをかなえる為の最良の近道なのだ。とても難しいことだがね。
ところで。」
そこまで言うと老人は非常に険しい顔つきになろ、ひと呼吸置きました。
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