その4

 温泉でぷかぷか浮いていると、ついぞのカラス天狗があったまってお湯から出て行くところでした。「あいつめしっかりしているな。」と思いましたが、お湯があんまり気持ちが良いのですっかりのんびりしていました。

 浴衣になった三人は「あのよいきの間」という部屋に案内されました。「あのよいき」という名前に少し心配になりましたが、それが極楽に行ってしまうくらいのくつろぎの空間だ。という意味であるとさる達から聞くと「はあ。それなら悪くない。」と思ったのでした。

 さしみの船盛やら鳥のもも焼き、山で採ってきたたくさんの木の実やくだものなどをもしゃもしゃ食べていると、突然地鳴りがして部屋の中に一匹のほかのさる達とは比べ物にならない程大きな猿がやってきました。左指には5本ともダイヤの指輪をしており首には金ぴかの重そうな首飾りをしています。


 ところでここでなぜ「さる」ではなく漢字の「猿」と表現させて頂くかを説明しますと、この1匹だけが化け物じみた大きさでとてもじゃないですがかわいい「おさるさん」と呼べるような代物ではなかったからです。その大猿がにやりと笑ってこれまた金の歯飾りを見せながらとても低いがよくとおる、はっきりとした声でこう言いました。「こんにちはお客さん。ここは居心地が良いですか?」そう尋ねられると三人は口の中に食べ物が入ったまま何度もうなずきました。

「それは良かった。私らサルマネサルマネ言われますがどんなお客さんでも丁寧に優しくもてなすのが私らの流儀なんです。よかったら何日でもいらして下さい。海の向こうに果華山という、さる達の楽園があるそうですがここだって引け劣りませんよ。」


 まあ太はこの猿が心からそう言っているのがわかりましたが、

「申し訳ない。私は嫁探しをしているのだ。」とさらりと言いました。


「それは大変だ!」大猿はまわりのさる達とびっくり仰天し「そんな大切な旅とは知りませんでした。それなら私めが。」ぬっ。と大猿は立ち上がり「お供いたしましょう。」とこぶしを握り締め力強い声で言いました。猿は立ち上がった拍子にあたまをぶつけましたが逆に天井の方に大きな穴が空きました。


 穴は後日修理したそうです。


「ところで。」大猿が言いました。「まあ太さん。その袋の中からなにやらおいしそうなにおいがするのですがそれは何ですか。」と尋ねられたので、

「これはそば団子といってなかなかおいしいよ。」とまあ太は答え、ひょいと大猿の手の上にそば団子ののこりの三つをのせました。大猿はあっという間にそば団子を食べてしまいフームと深く息を吐きこう言いました。

「俺も昔からうまいものばかり食ってきたが、こういうおいしいものはなかなかねえなあ。」大猿は二回くらい口の中でべろをぐりぐりやっていましたが、やり終えると「では明日の朝にまたお会いしましょう。」とだけ言ってほかのさる達とふすまの奥に消えていきました。


 残った天狗と犬とまあ太はまくらなげなどしてなかなか寝付けませんでした。

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