その3

 まあ太が気が付くと、自分が大犬の背中の上で横たわっているのに気が付きました。まあ太のからだは以前自動車にぶつかった時に出た血液と、犬の体から乗り移ったノミたちがつけた穴、そのかゆみでひっかいた傷などがごちゃまぜになっておりとにかく体がかゆくて仕方ありません。


 現在の状況に少々慣れてきたまあ太は、犬にこう尋ねました。

「いまどのへんだや。」すると主が目を覚ましたことに気づいていたが気を使って黙っていた大犬が「もうすぐ温泉宿に着きますよ。」とさらりと答えました。

「温泉!」と聞いてまあ太は痛みも忘れがばりと起き上がって喜びました。なにせ温泉に行くのはずいぶんと久しぶりだったからです。あの頃はおっ父もいておっ母も病気ではなくてピンポンやったりひっくり返って遊んでいたなあ。と少々景色がぼやけ鼻水が出かかった時たくさんのあかりと音楽が聞こえてきました。


温泉街はとてもにぎわっていました、たくさんのさる達が、店の呼び込みをしたり手をたたいたり、肩を組んでぎゃおぎゃおとやっております。

「ここはさるの温泉だけど、入っていいのかねえ。」あたりを見回しながらまあ太が言いました。

「もちろんですとも。」と近くで呼び込みをしていた年老いた小柄なさるが言いました。

「鹿だって熊だって来ますよ。だから入っていいのです。」そこまで言うと小柄なさるは目で合図を送り、それを待っていた無数のさる達が犬とまあ太を担ぎ上げ胴上げしながら温泉宿のひとつに連れて行きました。



 なんだかもみくちゃになって気が付くとまあ太はフンドシ一枚になっていました。犬はもちろん最初からはだかです。とりあえずお湯に入る前にせっけんで体をごしごし洗い、犬もしっかり洗ってやるとまあ太は滑りやすいタイルの上を全速力で走り抜け岩場からきりもみしてそのまま温泉に突っ込みました。

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