第13話 岐阜駅前 黄金の信長像爆破

 

 岐阜駅前。


 その駅前の広場には【黄金に輝く織田信長像】が設置されている。

 市政120周年を記念して建立されたそれはとある市民団体から寄付されたものらしい。


 なぜ岐阜で織田信長かといえば、岐阜城(旧稲葉山城)を本拠地にしていた時に井ノ口と呼ばれていたこの周辺を岐阜と名づけたのが彼だからということである。


 ちなみに岐阜というのは古代中国、周の文王が決起した岐山の「岐」と孔子の生まれ故郷、曲阜の「阜」を組み合わせたという説がある。


 ゴゴッゴゴッ


 ごゴゴゴッゴゴゴゴゴゴゴゴッゴオゴッゴ!!


 その広場に微細な振動が起こる。


 振動は徐々に大きくなり、地震かと思われるほどになった。


「な、なんだ!!」


「地震か?」


「キャー!!」


 通勤のサラリーマンやOLが何事かとうずくまる。

 

 ドゴォッ!!


 振動が極大になった後、信長像の真下から爆発したかのように土煙が噴き出した。

 

 その圧力に像の台座は半ばで折れ、地面に叩きつけられた、きらきらと輝く信長像は首がぽきりと折れて駅の入り口までゴロゴロと転がっていった。



 土煙が晴れた後、地面から円筒形の物体が生えているのが見て取れた。

 先端に破砕機を備えたそれは所謂、シールドマシンという物に酷似していた。


 先端の破砕機の部分に亀裂が走り、キュウとすぼまる様に小型になる。

 また円筒部分の側面はいくつかのパネルの様にバラバラになり自動的に重なって一方向に固まった。


 そして円筒内部から手足が折りたたまれる様に格納された人型の本体が出てきた。

 それを伸ばしガキガキと関節をはめるような音がすると地面へと降り立った。


 破砕機の部分は頭部になり、単眼のカメラアイのようなものが見て取れる。

 シールドマシンの岩石搬出用ホースは背中から繋がってしっぽ状になりゆらゆらと揺れていた。

 腕の先には頭部のものを小さくしたような破砕機がついている。指はその円筒の中ほどから生えていた。


 全高15メートルほど。

 巨大な人型起動兵器、ブラックコアNo35、ナージャ・ジュールベルである。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「城太郎君!!来たかねっ!!」


「ええ、お待たせしました」


 緊急呼び出しを受けた城太郎は県警へと来ていた。


 会議室の前方にはスクリーンが張られテレビの報道番組が流されていた。


 報道番組は巨大なブラックコアがビルを破壊する場面を映している。


「土岐市で君が見たブラックコアというのはこれかね」


「ええ。あの時は暗くて細部は良く見えませんでしたがあのしっぽは間違いありません」


「強制捜査の準備を整えているときに仕掛けてくるとはやはり」


「陽動。ですね。破壊行為をしてはいますがどこか消極的に見えます」


「警部補。現地からの連絡です。サーベイメータの値に有意な上昇無しだそうです」


 大橋警部補に斎藤巡査が報告する。


「つまりあいつの腹の中には今、核物質は無いという事か」


「慎重な連中です。市街地でばらまくようなことになって、通商協定各国に介入されるような事態を恐れたのでしょう。今頃密輸するためのパッキングをしているはずです」


「しかし、こいつを放っておくわけにはいかんぞ」


「分かっています。政府から”アレ”の使用許可が降りました。今使わなければどこで使うのかという話ですが」


「ついにお披露目じゃな」


「2年前の事件で偶然鹵獲出来たのは僥倖でした」


 城太郎は手に持っていたアタッシュケースを机の上においた。

 暗証番号を入れてロックを外すと蓋を開けた。

 プシュッと音がする。


 そこには一見大型の銃のような形をした、しかし小型のモニターや電子部品がついた端末が入っていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 自衛軍各務原基地。


 緊急招集を受けた輸送ヘリ、CH-47JAチヌークのパイロット達は困惑してた。


 上官から受けた命令は4機で、ある荷物を吊り下げ市街地へと投下しろというものだった。


 1機につき11トンを吊り下げられるチヌークが4機必要とはどのような荷物なのか、4機の連携も必要になる。

 難しい飛行だが練度に不安はない。普段それだけ厳しい訓練を積んでいた。


「荷物は4号倉庫の中身らしい」


 4号倉庫。

 突如一夜にして立てられた格納庫である。換気口を含め正面の対爆シャッター以外一切の外部につながる穴の無い棺桶のような建物。

 中にどのような荷物が運び込まれたのか、この基地で見た物はいない。その時は基地から一時退去命令が出ていた。


 その格納庫の入り口がゆっくりと開いた。


「こ、これは……」


 命令を下す上官も今日初めて中身を見たのだった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「みなさーん。押さないで、冷静に避難してくださーい」


「こちらでーす」


「ここから先は交通規制が敷かれています。こちらからユーターンしてください」


 現地では警察による市民への避難誘導が続いていた。


「とにかく市民の誘導が完了するまでこちらに注意を引き付ける!!」


 市民の避難が続いている場所から100メートルほどブラックコア、ナージャに近い場所。

 そこでは岐阜県警SITは装備品のMP5を構えていた。短機関銃でブラックコアに通用するとは思っていない。決死の攻撃だ。


「撃ち方よーい」


 SATはブラックコア、ナージャの足元から胴体部分に向けて銃口を向ける。

 頭上を覆いつくす巨体に恐怖を覚える。

 黒い影が隊員たちを覆った。


「撃てっ!!」


 タタタタタタタッ!!タタッ!!タタタタタッ!!

 

 高い金属音のような銃声が立て続けてに響く。

 しかし銃弾の全てはチュインチュインという音と共にナージャの表面装甲ではじかれた。

 傷一つ付けられてはいない。


 ドゴオッ!!


 ナージャのしっぽが薙ぎ払われると、バリケード代わりのパトカーとともに隊員たちは吹き飛ばされた。


「ぎああああああ」


「うわああっうあああああ」


「救急っ!!救急隊員をこっちに呼んでくれっ」


 さらにナージャは飛ばされた隊員を踏みつぶそうとする。


 その時。


 バラバラバラバラバラバラバラバラバラ


 ヘリのローター音がが周りに響いた。


 ナージャは踏みつぶそうと上げた足を下し、上空にカメラアイを向けた。




 そこには巨大な人型の物体が、CH-47JA4機にワイヤーで吊り下げられていた。


 

 体は中世の鎧のような物に覆われ、全体的に青色がかっている。右腕が肩のアーマーから肥大し、ナックルガードを含め、シオマネキのようにアンバランスに巨大化している。

 頭部はローマ帝国のグラディエーターの様な形になっているが、とさかの部分が異様に巨大だ。

 全体的なシルエットは四角く、横に広い。

 脚部は箱型のモノコック構造が連結したような形になっている。


 報道管制がしかれ、テレビ局のヘリは現場上空から退去している。辺りにはCH-47JAしかいない。


 ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ


 爆発ボルトによるジョイント部のパージでCH-47JAのワイヤーと人型の物体が切り離される。

 そして支えを失ったそれは地球の重力加速度に忠実にゆっくりと落下し始めた。


 ダガンッ!!


 80m程の距離を落下し時速142km/hに達した人型の物体は4秒ほどで地面に激突した。

 人型自身は膝を落とし落下の衝撃を吸収した。もとよりこの世界の物理的な剛性を超越しているためダメージを負ってはいない。

 しかしそれを受け止めた路面はただでは済まず、アスファルトの破片が飛び散りもうもうと粉塵が舞い上がった。


 ヴォン


 粉塵の中、巨人の目に光が灯り輝いた。


「ブラックコア【鋼神66】起動しました」



 巨人とナージャが見下ろせるビルの屋上に城太郎と大橋警部補が立っていた。


 城太郎の持つ銃型のコントローラーがカシャカシャと変形する。

 折りたたまれたモニターがクルリとせり出し銃身に見える部分(弾は出ないし銃口もない)のサイドへと移動しOSが起動したことを表示している。

 トリガー部分は前後進のアクセルになっていて、グリップの上には左右へ回転するハンドルが付いている。またハンドルには5指に対応するボタンがあって細かい操作ができる。

 どちらかといえばラジコンのプロポ(送信機)に近い形だ。


「道路がボロボロじゃの。市の土木建築課に文句を言われるわい」


「神聖同盟に全て罪をなすり付けましょう。元はといえばあいつらがブラックコアなんぞを持ち出すのが悪いのです」


「それはそうじゃがの」


「あいつを排除します」


「頼む。わしは現場に降りて指揮を取る」


「分かりました。お気をつけて」


「城太郎君もな」


 手を振ると大橋警部補は屋上の階段から降りて行った。


 モニターからの映像で操作は出来るが、どうしてもタイムラグがでる。

 危険だが出来る限り肉眼で見て操作したかった。



…………

………

……

 



「ブラックコアだと!!ばかな!!日本は保有していないはずでは無かったのか!!」


 薄暗いナージャ・ジュールベルの管制室の中、コードネーム【4ad8ehb】は叫んだ。

 土岐市の坑道で城太郎に銃を突きつけた男だ。

 現場指揮官の彼にブラックコアの運用が任されていた。


「潜入班のゴミクズボケどもめ。肝心な情報を手に入れてないだろうが」


「敵ブラックコアへの通信リクエスト全て拒否されました。しかしナージャは相手のIDを認識しています。No.66です」


「邪神竜を倒すために使われたというあれか。関東一円を海に沈めるほどの破壊と引き換えに消失したと言われていたが」


「隠蔽されていたと言う事でしょうか?」


「あの破壊跡を見れば説得力のある話だとは思っていたのだがな」


「どうします?ナージャはあまり近接戦が得意なタイプではありません」


「敵の見た目は接近タイプの様だが、実際はどうだろうな?一当たりしてみよう。簡単に逃がしてもくれなそうだ」



 

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