第10話 ブラックコア
ブラックコア。
20年前の激甚指定害獣災害。
害獣駆除対策法第3種指定害獣。通称邪神竜。
駆除作戦を指して「邪神竜戦争」と呼ばれるその戦いの後、害獣の胃袋より見つかった75個の心臓のような物体。
それらは【黒い核】と名づけられた。
莫大なエネルギーを発生させる動力源となるそれらは、消滅したとされる一つを除いて全て外国勢力に持ち去られてしまった。
邪神竜との戦いで壊滅的な損害を受けた自衛軍にはそれを止める力は残されていなかったのだ。
ブラックコアを手に入れた各勢力はそのエネルギーを利用する研究を始めたがすぐに問題が発生する。
組み込んだ装置が全て巨大な人型になってしまうのだ。
ある勢力は戦車のパワーパックに搭載した。しかし一晩経てば、戦車を変形させたような人型機械へと変貌していた。
またある勢力は発電所を作ろうとコアを炉心へと置いたが、コンクリートの巨人になった。
災害を解決に導いた人物曰く、
「あれは邪神竜に飲み込まれた巨人族の中枢なんだ。自我は失われているが、肉体を再構築しようとする本能は残っている」
だそうだ。
コアには対となるクリスタルが存在するが、それが巨人を意のままに操縦するコントローラーだと分かるには時間がかかった。今では人間にも分かりやすく情報を入出力する方法が確立されている。
電磁波によらないコアとクリスタルの通信方法はM2波通信と呼ばれ強力なジャミング環境下でも使用出来た。
その代わり操縦者は数分で死ぬ。
電波で代用出来る方式が判明するまで大勢の死者を出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
これは二十年前のある一コマ――――――
”タタタッ、タッ、タッ、ターーーーーーン”
頭の中に突然ファンファーレが鳴り響く。
”おめでとうございます!!貴方は魔王相当の【邪神の欠片】を倒した功績で【勇者】に認定されました!!”
「ち、違う!!これは俺がやったんじゃないっ」
目の前に横たわる邪神竜の死体を前に呆然とする俺の脳内に軽快なナレーションが流れた。なんなんだこれは。
”つきましては、勇者様だけが参加できる素敵なイベントを開催する予定ですのでいずれご招待させていただきます。素敵な商品もご用意しています”
”ただ、準備と参加者の選定に時間が掛かりますのでかなりお待たせすることになるかもしれません。気長にお待ちいただければ幸いです!!”
「ん?妙な魔力探査のパスを感じたからレジストしたんだが、君の方に行ったらしいな」
隣に立つ邪神竜を殺した張本人が気楽な調子で語りかけてくる。
「ええ、勇者に認定するとかなんとか。突然頭の中にナレーションが・・・。後、イベントに招待するとか」
「手伝ったことに代わりはないだろう。いいじゃないか」
「かんべんしてくださいよ。僕は何もしてないでしょう」
「君が取り込んだ物に反応したのかもな」
「これ、大丈夫なんですかね?」
「特に害のある術式には見えないな。マーカーの一種みたいだ。気になるなら解除しようか?」
「いえ、そのままで。僕の代わりに他の誰かが巻き込まれたり、そのイベント、見たいなものが大変な事件だった場合、知らずに侵攻されたら厄介です」
「公務員さんは、えらいねえ。それにしても【勇者】認定に【イベント】か。なんか気に食わない言い回しだな。とりあえずそういうことなら護衛を置いておこう。活用してくれ」
「それは!!ありがとうございます」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
諜報員たちが去った後、シャワーを浴びた城太郎は自分の寝室へと入った。
見た目に似合わない大きさの白いガウンを着て、肩からホルスターを下げている。
いつでも銃は手放さない。
「……ARX-10……火傷の跡……うまく……屁理屈を……付けたものだ」
城太郎以外誰もいないはずの部屋に突然しわがれた声が響く。
「誰だ?」
城太郎は拳銃をかまえる。いつの間にか窓が開いている。束ねられたカーテンが不自然に膨らんでいた。
「君に……与えられたスキルは……超回復……身体能力超強化……そして……【鑑定】
」
「何者かと聞いている」
「……諜報員の……正体を見破ったのも……相手の素性が……すぐ分かるのも……推理では……無い……【鑑定】の力」
バキンッ!!バキンッ!!
城太郎は警告なしでカーテンの膨らみに発砲した。
そしてすぐにそのカーテンをどかす。しかしその後ろには誰もいなかった。壁に弾痕のみが残っている。
「……その力……勇者……ふさわしいのか……見定めさせてもらう……」
声だけが不気味に響く。
「勇者?その称号に相応しいのは一人だけだ?」
「……知っている?……20年前?…?……まあいい……期待している……」
「なんな話だ」
「……76番目のブラックコア……荒間城太郎……」
「……」
ブラックコアにはそれぞれ特殊な「技能(スキル)」というものが搭載されていた。
城太郎もスキルを使える。
暫くすると声は聞こえなくなった。
城太郎は息をつくと、窓を閉めた。
寝室にはおとりのベッドがあり城太郎の身代わり人形が寝かせてある。
この人形に銃撃するとガスが部屋に充満するようになっている。
城太郎は壁の一部を押す。
シャコッとした音と共に壁の一部が開くと、中に窪みのようなスペースがあり布団が敷いてある。
城太郎はそこに寝転びながらひとりごちた。
「警備体制を見直さないといけないな」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……良く……やった」
城太郎の屋敷より数キロ離れた山林の中、城太郎に神聖同盟の拠点を知らせた人類肥大連合の諜報員とされる者たちが整列していた。
全員が瞳孔の開いたような目をして茫洋とした表情をしていた。
「……この……属性を……与える……能力で……【鑑定】……を騙せる……事が……分かった」
この男たちは実は人類肥大連合の諜報員では無かった。ホームレスや最下層の日雇い労働者達、居なくなっても誰も気にしない人間たちだった。
自分たちを工作員だと思いこまされ、なけなしの貯金を下してミリタリーショップややくざから装備を購入して城太郎宅を襲撃したのだ。
しかし城太郎がスキルを使用して見た場合、ステータスには彼らが思い込んでいる名前が表示されていた。
自分のスキルを誰も知らないはずというという城太郎の油断が招いたミスだ。
「神聖同盟……拠点……教えた……これで……”彼”……が……動くところを……見える」
「……時間が経てば……別のチャンス……あった……でも……この運命が……一番……早い」
「城太郎は……勇者……では……無い……しかし……認定された……なぜか……”彼”のせい……そうか」
男たちの前に淀んだ闇が現れる。姿かたちは分からないが爛々と輝く赤い瞳だけがその中に浮かび上がっていた。
「ご苦労……我が……養分と……なれ」
暗闇は一瞬で膨張すると男たちを飲み込んだ。
全てを飲み込むと闇自体も消える。
後には無人の山林に虫の音が響くのみだった。
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