第5話 戦闘準備


 城太郎達捜査一課強行犯係の面々は、先程まで居た工事現場からこちらを伺う事ができない距離まで離れると、路肩に車を止め作戦会議を行った。


「あれは、なんか知っておるの」

「そうですね。頑なに現場を見せようとしませんでしたし」


「「臼田のりよし」か……大物だな。警察にも影響力を行使出来ますね」

「そもそも確かな証拠がなければ捜査令状が降りません」


 そこで城太郎が少し大きな声を上げる。


「少し事態が混沌としています。まず、我々の目的をはっきりしましょう」


「うむ」

「そうだな」

「異論はない」


「まず第一に浅田次郎氏を殺した犯人を逮捕すること。それは良いですね?」


 そこにいる城太郎以外全員がうなずく。


「そしてその犯人はブラックコアを持った諜報組織である可能性が高い」

「それは君の推論ではあるがな」


「ええ、それは認めます。しかしその仮定を正しいとした場合、先程の工事現場はその諜報組織と何らかの関わりを持っているのではないかと思われます。それは皆様も感じ取っていらっしゃるはずです」


「確かに何か隠そうとはしているな」


「私はあの中で横穴を掘っているのではないかと思います」

「君の言うことを全部信じるとすればそうだな。だが証拠が何も無い」


「ええ。だから私は一人であの工事現場に忍び込んでこようと思います」


「「「はあっ!?」」」

「というより、証拠になるものを見つけたら皆さんに連絡します。善意の一般人の通報があれば緊急避難的に私有地に突入することも可能でしょう」


「何もなければ君を不法侵入で逮捕しなければならなくなるぞ」


「それならそれで良いでは無いですか?もし私の言うことが正しくて彼らが黒ならば拉致された何だと言い訳は付きます」


「うむむ」


「一人では危険だ」

「今更でしょう。こういう事は何度目ですか?」


「しかし……」


「あまり猶予がありません。あの鈴木という男が途中からあからさまな態度を取ったのはすぐにあそこを引き払うためという可能性があります。脅しを掛けてきたのは時間稼ぎのためでしょう。もし、しばらくあそこを根城にする気があったなら最後まで白を切り通したはずです」


「うぐ……。分かった。くれぐれも気をつけてくれよ」


「連中に気付かれないように工事現場の近くに隠れていてください。あと、もう少し応援が欲しいですね」


「規制線を張ってた人員や現場検証に参加してた警官を帰さずに待機させておる。こちらに向かうように言おう」


「お願いします。それで斉藤巡査、あの鈴木という男の写真を撮ったのでサーバーにアップしておきました。私に何かあったら公安に渡して照会してみてください」


「いつの間に撮ったんだ……」


「企業秘密です」


 城太郎はそう言うとウィンクした。彼にしては珍しい冗談だ。

 場の雰囲気がヒエヒエした。


「……ゴホンッ!!それでは準備しますか」


 その時だった。


 ブロロロロロロロォォォォォォン

 ディーゼルの低いエンジン音を響かせて、城太郎たちが集まっている道路より一本下の道を巨大なダンプが通り過ぎていった。件の工事現場より続いている道だ。城太郎たちは工事関係者と鉢合わせしないよう、山側にそれた道に車を停車させていたのだ。

 ダンプの荷台には山盛りに土砂が積まれていた。


「杉多巡査部長。あれを尾行しろ」

「了解です」

「気を付けてな」


 杉多巡査部長はダンプの尾行をするために車に乗り込んだ。

 城太郎はそれを見送りながらインプレッサのトランクを開ける。

 中には様々な装備が収納されている。

 その中から軍用の化学防護服を取り出すとスーツの上から着込み始める。

 内部、外部被曝を防ぐためだ。防護服は都市迷彩が施してある。


 インナー手袋を袖口を覆うように付け、専用のソックスをボトムの裾の上まで履く、そしてつなぎ状になった防護服を着る。

 さらに靴の上からシューズカバーを付け隙間をダクトテープで止める。


 首には咽喉マイクをつけ骨伝導スピーカーを耳の裏に付ける。

 肩からから上はガスマスクを付け、頭部には防弾ヘルメットをかぶる。最後にBC兵器防護用アウター手袋を付けた。アウター手袋は銃を打ちやすいように親指と人差指が薄くなっている。


 バックパックにタクティカルライト、赤外線ライト、赤外線暗視ゴーグル、拘束ベルトを放り込んで背負う。


 更に腰と背中2か所に収納可能なホルスターを巻く。腰にはSITからガメてきたグロック19がマウントされている。背中には電気短針銃(テイザー)が収められている。

 そしてマガジンポーチに弾倉を突っ込む。


 城太郎は20年前の災害の際に衆参両院全会一致で制定された第3種害獣対策法に定める民間特別協力者として武装が許可されている。害獣災害が収束した後も、日本の治安にとって重大な危機に対してその法律は使われている。


 当初は「民間人に武装をさせるなんて!!」と反対意見が強く、かなり厳重な審査の上運用されていたその法律も、時間が経つにつれ拡大解釈されるようになり、がばがばになっている。そのために城太郎はこのレベルの武装をそろえることができた。


「戦争でもするつもりかね」


 大量の武装に大橋警部補もあきれ顔だ。


「戦争ですよ。20年前から僕は常にそうです」

 

 大橋警部補は痛ましそうに顔をゆがめた。


「ではこちらも行ってきます。」

「ちょっとでもやばいと思ったらすぐ連絡するんだぞ」

「分かっています」


 そう言うと城太郎は闇に溶け込むように工事現場へ向かっていった。

 

 

 






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