第3話 岐阜県 東濃ウラニウム鉱山

「東濃鉱山の産出されるウランは品位が低く商業採掘が無理だと聞いたことがあるが、仮に諜報機関がそんなもの手に入れてどうするつもりだね」


 東濃鉱山へ向かう車中、大橋警部補はそう城太郎に問いかけた。

 なぜか彼は警察車両に乗らずに城太郎のインプレッサの助手席に座っている。

 車内にこもるタバコの匂いに城太郎は一瞬顔をしかめるがすぐに表情を戻した。

 タバコは嫌いだが大橋警部を嫌いというわけではないのだ。


「犯人たちのブラックコアにクラフト系の【スキル】が備わっているのかもしれません。コアは元から存在している物質に関しては力学やエネルギー保存則をかなりの範囲で捻じ曲げる事が出来ますからね。もしかしたら濃縮してイエローケーキが作れるのかも」


「それは既に無から有を生み出しているのではないのかね?」


「そうともいえますが何か制限が有るのかもしれません。どちらにしてもブラックコアは解体すらできないまさにブラックボックスな代物ですし、最初に使用方法を見つけた人間も行方不明です」


「やれやれ、厄介な事だな。【あれ】も同じことができるのかい?」


「【あれ】は物理攻撃特化なんで無理ですね」


「そうか」

「犯人は人類肥大連合だと思うかね?」


「多分違うと思いますよ。内紛ならもう少し発覚しないように始末すると思います。多分違う連合体の組織かと。脅しの意味合いもあったのでしょう」


「うむ」


「ところで」


「なんです?」


「休みの日は何をしとるのだね?」


「はあ!?いきなりどうしたんですか?」


「君の事が心配なんだよ。機械のように働いちょるだろ?そもそも休みを取っているのか?」


「基本的にオフの日は無いですね。空いた時間はトレーニングと情報収集。必要な知識を得るために大学教授を訪ねたりもしています」


「いかんぞ。そんな事を続けていればいずれ擦り切れてしまう。鍛えられたプロの兵士でも緊張の連続に晒されれば壊れてしまう者も多い」


「自分はそうでは無いと信じたいところですね」


「今まではあまり君のプライベートに踏みこむようなことはしなかったがね、キングアルメニア事件の時に取り乱したのを見てからそれではイカンと思ったんだ」


「あの時はご迷惑をおかけしました」


「やはりテロ組織【正義の敵】絡みかね?」


「ええ。20年前、いえ30年前のあの日、あいつ等に全てを奪われてから僕は休むことを許されなくなったのです」


「それは思い込みだ。君一人が全ての責任を背負い込むことは無い。それに20年前の災害後から、あの組織は活動が報告されて無いのだろう?壊滅したのではないのかね?」


「あの災害は奴等が起こしたものです。自滅するようなヘマはしないと思いますよ。それに最近でもいくつか影が見え隠れしている事件もあります。今回の件は関係ないとは思いますが」


「君があいつらを追うために警察に協力しとるのは知っとる。私らに塁が及ばぬように必要以上に親しくしないようにしていることもな」

「しかし、だ。昨日今日の付き合いではないんだ水臭いことは無しにしよう。私だけでなく捜査課の連中も心配しとる。皆気のいい連中だ。何か協力出来ることがあったら言ってくれ。それにもう何度か巻き込まれたりしておるしな」


 ハハハと大橋警部補は笑った。

 城太郎の心に暖かいものがわずかに湧き出る。こんな事は久しぶりだった。


「分かりました。ありがとう御座います。では遠慮なく頼らせてもらいます」


「ああ、君一人が裏で動くよりは負担が減るだろう」


「早速一つお願いがあるのですが」


「なんだね?」


「禁煙してください」


「はあーーーーーー!!君は鬼かね!!私から唯一の楽しみを奪うきかねーーーー!!」


「ハハハハ」


「君のお願いでもそれは出来ん相談じゃよーーーーーーー!!」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「そろそろつきますよ」


「うむ」


 後続の警察車両も追い付いてくる。

 城太郎はインプレッサを鉱山の正門前に停めると大橋警部補を促して降車した。

 

 そこには日が落ちた直後の薄闇の中に鉱山の威容がダーマトグラフで描き殴ったような影として浮かび上がっていた。



 


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