第2話 現場検証

「彼は【人類肥大連合】の【潜伏諜報員】だったのです!!」



「「「な、なんだってーーーーーー!?」」」




「はあっ!?いきなり何いってんだ」


「城太郎くん!!今の流れで一体どうしてそういう結論になるんだ!!」


「そう仮定するといろいろと辻褄が合うというだけです」


「いやしかし」


「大橋警部補は被害者を普通普通と言っていましたが、まず普通の公務員はこんな所で変死をしません」


「い、言われてみれば」


「最初の取っ掛かりは彼を見た時の違和感ですね。そののっぺりとした特徴のない顔、意図的に筋肉量を調整して中肉中背にしている体。人間ある程度生きていれば趣味や仕事で偏って筋肉が付いているものです。それがない。実に平均的にバランスが取れている」


「肉体がバラバラになっているせいでよく分かる。これは以前の事件で関わった諜報組織の人間によく見られる特徴です」


「それは君しかわからん事だよなあ。というか解剖学も修めているのかね君は」

「そう仮定してみれば当然、戸籍を偽造したかもしくは身寄りの無い人間の身分を乗っ取っているはずです」


「もちろん複数人でこの国に潜入して家族を装っている場合もありましたが、まあ、そのへんは当てずっぽうですね」

「当然不審に思われないために近所付き合いには気を使うでしょうし、休日には諜報活動をしたいでしょう」


「軍事基地の周りは森林の場合が多い。アウトドアの趣味と言っておけば、言い訳は付きやすい」

「なるほど」


「政府の情報にアクセスしたいがある程度中枢に近づくと身辺調査でボロが出るかもしれない。なら役所の末端に就職してどこかで信用と上位の権限を手に入れるチャンスを伺おうとする」

「あまり関わり合いたくないが、公安に照会したほうがいいかもしれないな。何か情報を持っているかもしれん」


「それがいいでしょう。しかし今この国の防諜能力はザルですから期待は出来ませんけど……」


「それと一つ証拠を示しましょう。被害者のこの手です。」

「ん?手」


「ここのところ。親指と人差指の間。皮膚の色が変わっていますよね。多分火傷の痕を隠そうとして皮膚移植をした痕跡です」

「そこを火傷していると何かあるのかね?」


「ここを火傷するのはアーカムインダストリー製のARX-10ヒートナイフを以前、常用的に使っていた人間の特徴です。」

「それは聞いたことがあるな。ボディアーマーも切り裂く凶悪なやつだろ」


 マニア……では無いが多少ミリタリーに興味がある斎藤巡査が補足した。

「ええ。強力な分、取り扱いが難しくて訓練された人間でもどうしても一度ぐらいは失敗をする」

「ARX-10を使用しているのは……」


「人類肥大連合の特殊部隊だけだな‼」


 斉藤巡査の答えに対して城太郎が頷く。


「こちらの遺体は調べ終わったので運び出して結構です」


 その場の人間で協力して担架に載せて運び出した。

 待機していた救急車がサイレンを鳴らしながら遠ざかって行く。


「さて」


 城丈太郎は林道の脇、土が盛り上がって一段高くなっているところに上がると辺りを見回した。


「 杉多巡査。あちらの窪みって調べましたか?」

「いや、鑑識も科学捜査班も調べていなかったと思うが。遺体からもだいぶ離れているし」

「それは彼らのミスですね。皆さんもこっちに来て見てもらえませんか?」


  大橋警部補以下杉多巡査部長斎藤巡査がぞろぞろと登ってくる。


「どこの事を言っているのだね城太郎君」

「あそこですよ大橋警部補」


「どこかね?」

「あそこですよあそこ」


 承太郎が指さした先には 林道に隣接する畑に一部大きく凹んだような窪みがあった。


「不審な感じには見えんがね。トラクターで掘り返した痕じゃないか?」

「そこと、そこも。同じような凹みが規則的に続いています。」

「あーそう言われてみればそう見えなくもないな」


「雨が洗い流して分かりづらくなっていますが確かに規則的に凹みがついています。あれは農作業でできた跡ではないですよ」

「じゃあ、何だって言うんだね?」


「その前にこの周辺の民間に聞き込みは行ってないんですか」

「 おう、何人か行っとるよ」


「じゃあその人達に連絡して女性の悲鳴が聞こえたかどうか聞いてみてください」

「女性かね?被害者は男性だぞって、そういう意味じゃないんだね?」


「ええ」


  大橋警部補はそう言うとスマートフォンを取り出して聞き込みに行った警官達に連絡を取り始めた。


「あーご苦労様。そっちの状況はどうかね?この周辺はほぼ周り終わった?了解了解。で、この周辺で女性の悲鳴を聞いた人間はいなかったかね。 え?いる?聞き込みに行ったほとんどの家で聞いた人間がいると証言している? 他には?ああ、分かった。そっちは切り上げて戻って来てくれ」


「聞いたとおりだよ城太郎くん。何人かが外に様子を見に外に飛び出した様だが女性らしき人物はいなかったようだ」


 通話をオフにして大橋警部補はそう言った。


「今の報告で確信が持てました。犯人はブラックコア機動兵器を使用しています」


「「「な、なんだって!?」」」


「……みなさん驚きすぎでは?」

「いや、なんとなくノリで」

「君が出てくる時はだいたいブラックコアが絡んでいるからな。じつはそうじゃないかって思ってた」


「ブラックコアの起動音は女性の悲鳴に聞こえることがあるからの。周辺住民はそれを聞いたんじゃろ」

「ブラックコアの全高は最低でも10メートル。そこから放り投げられれば高所でなくても墜落死体になる」


「……先回りして言わないでくださいよ」

「ははは。そう拗ねるな。ところで遺体に付着していた放射性物質はどう見る」


「現在ウランの産出国には厳重な監視がついています。出所の分からない核物質は諜報機関にとって価値のあるものでしょう」


「日本は商業採掘はしていませんが鉱脈はあります」


 岐阜県民の多くが知る事ではあるが土岐市の地下には4,000トンの埋蔵量があるウラニウム鉱脈が眠っている。


「東濃鉱山か」


「行ってみましょう」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る