3 生き残り
北の
石壁が囲む部屋は、窓にガラスもなく吹きさらしのまま。
さしこむ月明かりが、天井から
アルがグリーの光で部屋を照らすと、まぶしそうに、あるいは光を嫌がるように男は
導かれるまま部屋に入ったマルコだったが、得体の知れない相手に何を話せばよいかわからなかった。戸惑って、アルとユージーンに目を向ける。
ユージーンが、ベラトルを呼び
司令官ベラトルは、顔を全ておおう
「あんた……北軍遊撃隊の生き残りかね?」
「ばかな……」とベラトルはつぶやき、まだ信じられない思いでしゃがみ込んだ。
思わずマルコが口をはさむ。
「あの……
「もう、はずせない」
マルコはじめ仲間は、ただならぬ事態を察して顔を見合わせ、しゃがむベラトルを見つめた。
十数年前、北軍遊撃隊は北の魔軍の背後に回り、この
だが、長年に渡る山
しかし、
山
「あいつら、いつも同じ動きしかしない」と
そして彼が、最後の一人となった。
その男は、ベラトルが何度聞いてみても、『副長』としか名乗らなかった。
マルコは聞きたい事が山ほどあった。
しかし、いつまでも息を切らす副長を前にすると、余計な
ベラトルが、これからの話をしようとしたその時。
「カラン……」と天井の鐘が鳴る。
「とどめを忘れた……」
そう言うと彼は、立って戸口に向かう。
あわてて仲間は道を
マルコは、戸口をくぐる副長の背中を見て闘いを予感し、恐れのあまり震えがきた。
◇
マルコと仲間が追いつくと、
その前に、
しかし彼は、剣を持つのも辛そうに、肩で息をしていた。
ガチャッと
「長さが足りない」と考えていると、横から見つめるレジーナと目が合った。
彼女はうなづき、ユージーンの腰から素早く剣を抜くと、マルコに投げて渡す。
「へ?」と驚く顔のユージーン。
アルは大杖と
アカネは
しかしそれらは、間に合わなかった。
傷を負った
彼はそれをふらりとよけて、右膝に飛び乗るがよろけた。
それでもなんとか飛び上がると、ザッと
とその時、もう一つの俊敏な影も
巨人の膝の上で、マルコはなんとか力をため、そして
月光の下、レジーナは二人の影が舞う姿に
のけぞる首へ、さらに
ザクッ! と音がして、両手をだらりと垂らす山
アカネとバールがマルコに駆け寄る。
二人にかつがれて、よろよろ立ち上がったマルコは、照れ笑いを浮かべた。
だがしかし、その笑顔の前に
「……どういうつもりだ?」
驚きのあまり、マルコはたじろぐ。
「どうって……助けなきゃと––––」
「ここに助けはない!」
副長の叫びに、その場の者はみな
「……ここにあるのは、つとめだけだ」
マルコは、表情の見えない
ベラトルが何か言いたげに手をあげたが、先に王女レジーナの朗々たる声が響く。
「王都北軍遊撃隊、副長殿!
こたびの迎撃戦で、貴殿の軍功は一等! 敵の背後で巨人を
だが仲間が見守る中、なおも
マルコは、ただ彼を見つめていた。
すると、
彼は、
◇
「これで良かったのかなぁ。……アル?」
マルコはつぶやき、
「そうだねぇ……」と応じ、探究者のアルは考え込む。
仲間は、副長を置いて
司令官ベラトルが隊を率いて戻り、遊撃隊副長を保護する、と王女に約束したのだ。
レジーナは、副長へ
先導者ユージーンも、
今夜は天幕で休み、明日からアルの提案通りナサニエル学院長のもとへと向かうのだ。
そうは決まったものの、まだマルコには心残りがあった。副長は、どうなるのか。
そんな彼の横顔を見て、アルが語る。
「あの
マルコ……、彼自身の意志だから、だから私たちでは助けになれなかったんだよ」
それを聞くとマルコは、なぜだか
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