1 みやこのあるじ。友との再会
雲ひとつない
細い指にはめた指輪を、王都の
塔の先には、昼間の星となった神の善意、グリーが
「ほっ!」と笑い声があがる。
王城の
王都のグリーを自らの指輪の光と見立てるのは、彼の
アルバテッラの王その人、サノスレジム・ロムレス・ウルヴズハートは、
真っ白な
東の脅威は随分と昔に過ぎ去り、近ごろは西の危機を
だが、彼にはどうでもよかった。
事実、城をてらすグリーは今この瞬間にも光り輝き、都市は栄えているではないか。
西区の苦境について
そもそも、王都の西へと足を運び、人々の暮らしを見たこともない。
「一時の苦難も、民は笑って耐える。
……サルメも、そう申しておる」
王は独りごち、お気に入りの道化師の言葉を信じた。
それより、神から受けた自らの
歴代の
「あるいは、神の善意と一体となったか?」
彼は、深まる思いに身をひたす。
このまま自らの統治が続くなら、
王が何かを指示することは決してない。
しかし、城内の勢力争いは激しさを増し、彼の子女は次つぎと不慮の死を遂げた。
彼は内心、それすらも意に介さなかった。
残りは、末子のレジーナのみ。
どこまでも
露台の玉座に座り、白金の王冠をかぶった老人が、天に向かって顔を上げる。
王を取り巻くものは全てが白く、ほかの色など、いっさい寄せつけなかった。
◇
「あれが、アルが出た学校?」
黒髪をかき上げ、マルコが晴れやかに聞いた。
遠くそびえるとんがり塔を見上げ、アルの胸に喜びがこみ上げる。
「そうだよマルコ。よくこの使命に耐えてくれたね。もうすぐだ」
白い大理石の建物が並ぶ、王都東区。
秋晴れの夕方も、都会の通りは明るくきらめく。
その間をぬって、旅の仲間は王立
月の
違う民が着る、見たことない
やけに、明るい色の帽子をかぶる者が多いことにも気がついた。
若ドワーフのバールは、多種族が集まる
しかし、頭の中は王都の取引に思いを
荷はすでに宿に置いてある。
その中であつかう
赤髪のアカネは、
王都のエルフは、彼の赤い髪に気づくと、となり同士ひそひそと話した。
アカネは王都でエルベルトとアオイを探すつもりだ。
そのあとはマルコの
だが
「ここに長居は無用だ」
◇
夕陽がてらす、ふたりの待ち
百日間も咲くサルスベリの花を目指し、思わず探究者は駆け出した。
仲間を背に、アルは息を切らし旧友と向かい合う。
右は、
見つめ合う三人の顔は、まだまだ若い。
だがそれぞれが、それぞれのつとめの
右の先導者が、口火を切る。
「無事の帰還を歓迎する。探究者」
帽子の
「探究者。ここ王都での支援を約束します」
だがしかし、探究者アルは涙と鼻水で顔を
「ジーン! リア! 会えて嬉しいよ〜。
これまでもうほんっと大変で––––」
アルは長い腕を広げ、研究長コーディリアと先導者ユージーンに抱きついた。
みっともなく、おいおいと泣く。
ユージーンは心底嬉しそうに
コーディリアは、アルの腕が
◇
旅の仲間5人と、アルの学友二人の紹介が済むと、一同は塔の入り口を見上げた。
さみしそうに、補佐官のユージーンが
「アル、俺はもう行かねばならない。次は、王との
マルコ殿、改めてようこそ王都へ!
また会いましょう」
彼の涼しげな目に見つめられ、マルコは緊張のあまり返事に迷った。
すると白いマントをひらりとさせて、ユージーンは行ってしまった。
コーディリアが、アルを横目で見る。
「彼が王女から離れるなんてめったにない。よほど会いたかったのね」
「忙しいんだねぇ」と、アルは間の抜けた返事をした。
塔の玄関は高い弓形の扉で、コーディリアが
驚くマルコとアルへふり向いて、彼女は「どうぞ」と言ってニヤリとする。
中に入り、マルコは驚いた。
塔の内側は想像より広く、石の廊下が遠く伸びる。真ん中は、はるか上部へ渦を巻いて上がる
見上げると、
ふいに鐘の音が鳴ると、廊下の両側の扉がバタバタと開き、研究長と同じ帽子の子どもたちが姿をあらわした。
「急いで! 早くこちらへ!」
コーディリアが、アルとマルコの
ほかの仲間もあわてて続いた。が、最後のアカネが陽気に手をふると、奇声を上げて、子どもらが突進してきた。
ぶつかる寸前、一行を乗せる石床が一気に浮遊。
上昇する石床の下から、子どもらの落胆する声をマルコは聞いた。
研究長は、マントの前をあわただしく直す。
「幼年部は、
「見違えたよ! あの扉も、この浮遊石も。すっかり進化している!」
得意になり口を開いたコーディリアだが、ふっと表情が沈んだ。
不思議に思いアルとエレノアが顔を見合わせると、石床が止まる。
研究層に到達したのだ。
研究長は重たい口を開く。
「大事なことなので、先に言わないと」
彼女は、異邦人マルコをじっと見つめた。
「アル。最後の手紙でもらった依頼には、
「そんな!」と目をむくアルの前で、研究層の扉が開く。
すきまからさす光に、バールは思わず目を細めた。
開いた先は大きな窓が並ぶ広間で、
赤い西日がてらす中、白い光が夕べの
無数の光を背に、研究長が告げる。
「アル、ここは神の善意を研究する場。
ここに……いや、アルバテッラのどこにも、神の悪意を無にしたり、置いて良い場所など、どこにもないの」
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