27 王都街道の十字路で
祭りあとの町はすっかり落ち着いていた。
人通りも少なく、マルコとアルは横に並んで歩くことができた。
マルコが話しかける。
「アル、あのさ……」
「……なんだい?」
「アルとアエデス様って、いつから知り合いなの?」
マルコの質問に、アルは驚いた。
少し考えた後、アルはマルコを真っすぐに見つめて話す。
「マルコ、私は子どもの頃、父と母を
母代わり、という感じではないけれど……うーん……師匠かな?
術を教わったこともあるから」
「そうだったんだ。ごめんね。
立ち入ったこと聞いちゃって」
マルコは、肩をすくめ下を向いて歩く。
アルは、そんな彼を見つめたまま続けた。
「いや、いいんだ。マルコにはそろそろ知っておいて欲しかった。
……マルコはあの時、ゴードンに紹介した時、ご両親のお名前を言ったよね?」
マルコは驚いて顔を上げた。
今度はアルが、肩をすくめマルコの様子をうかがう。
マルコは、アルの顔を真っすぐ見て答えた。
「そう。僕には両親がいる。……あの時は、とっさに名前が出たんだ。
……だけど、そのほかの事は、何も……」
「無理……しなくて大丈夫。そして、この仕事が終わったら必ず君を帰すよ。約束する」
そう真剣な顔で答えると、アルは道の進む先へと顔を向けた。
しかし、マルコはまだ何かが引っかかっていた。
「そもそも僕は、この地に来る前は……本当に男だったんだろうか?」急に浮かんだその考えに
しかしその時、彼の脳裏に、あの黒髪の少女があらわれる。
「マルコ。混沌の気は、いつも近くにある!
それと上手につき合うことが大事!」
マルコの妄想の中では、後ろ姿の全裸の少女は、その少女のままだった。
彼は、その
◇
テンプラムの町が終わり、王都街道へとつながる十字路。
道しるべとなる古びた石柱には、羽を休める鳥たちが何羽も留まっている。
アルは、いよいよ町を出る事をマルコに伝えようと思い、彼を見た。
しかしマルコは、先ほどからニヤニヤと不気味な
アルは
アルの口もとが、自然とゆるんだ。
「ゴーディ! ゴードン・ゴルディロックス!」
「アル! アルフォンス・キリング!」
二人は手を広げて駆け寄ると、しっかりと抱き合った。
今回は、ドワーフの頭突きはなかった。
アルが陽気な声をあげる。
「どうしたの?
今日は奇遇じゃなさそうだ。もう神官戦士団は帰ったと聞いたけど?」
「う、うむ。あれらは、何事も無く王都に戻るだろう」
そう言って、ゴードンは照れたように大きな鼻を指でかいた。が、マルコと目が合うとあわてて声をあげ駆け寄る。
「マルコ! マルコ・ストレンジャー!」
「ゴードン!」
ゴードンとマルコも抱き合う。
そして、ゴードンは思い出したように大声をあげた。
「そうそう! 我らの自己紹介は途中であった! マルコの御父母のお名前以外も––––」
さえぎるように、マルコは声をふりしぼり叫ぶ。
「ゴードン! 実は僕は、アルに召喚されて他の世界からきた異邦人なんだ!」
すると、ゴードンとアルは石のようにかたまった。
だが、やがてゴードンは、
「なるほど……。異邦の方か。
それではなおの事、道すがら、互いの紹介が必要であろう」
ゴードンはそう言って、マルコの肩に、大きなごつごつした手を優しく置いた。
もはや喜びを隠しきれないように、ゆるめた口もとに手をあて、アルがたずねる。
「ということは?」
「王都ドワーフ神官戦士団隊長ゴードンは、ただ今より、神の善意、そして神の悪意の運び手の、護衛の任に
野太い声で、ゴードンが高らかに宣言すると、マルコとアルは歓声をあげて彼に飛びついた。
古びた石柱に留まっていた鳥たちが驚き、次々と空に舞い上がる。
空は、雲ひとつない初夏の陽気。
石柱からのびる石畳の道は、曲がりくねって遠くまで伸びる。
左手にはぼんやりとした森。
右手には果てしない草原が、どこまでも続いていた。
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