6 神話 第二の民ドワーフの誕生

 夕焼けが、テンプラムの町の神殿参道を赤く照らしていた。

 神殿の背後にある夕日は、まるで神聖な後光のようだ。


 石柱と石板の影が、マルコとアルに近づくように、手前に長く伸びる。

 神殿への道を登りながら、アルが不安そうにマルコたずねる。


「……マルコ。君は、ドワーフについては知ってるの?」


「まぁおとぎ話のドワーフ小人くらいなら」


 そうマルコが答えると、アルはほっとしたが、すぐに鋭い目つきになった。


「念のため、第二の神もちゃんと説明しよう。ドワーフはエルフ以上に、私たちの社会に溶け込んでいるから。……マリスに関わる第三の神は、その後で。

 それで授業は終わりだから……ね?」


 その言葉に、つかれたマルコが曖昧にうなずくのを確認したアルは、両側の石板をきょろきょろと見回す。

 お目当ての石板を見つけると、無邪気な笑顔をマルコに向けて、何度も指をさした。



 第二の神が描かれているという石板は、保存状態は悪くはなかった。

 中央には、頭が大きく、ずん胴で、横幅のある大きな人の形が彫られている。両足が大地をしっかりと踏みしめている様子もうかがえた。

 その大きな人の背後には端から端まで山が描かれている。その中や周囲に、たくさんの小さい人の形が彫られていた。

 また下の方には、湖か海のような形が、細かく彫り刻んであった。



「諸説ある部分は省略して、定説だけ言うと……。

 第二の神はちょっと面白くて、この神様は大地と取引する時に自らの身体からだを差し出すことはしなかった。

 そうではなく『永久に大地を愛し、離れない』という約束をしたんだ。

 大地は、その取引を受け入れた。

 そうして美しい山々が隆起りゅうきしてあらわれ、その地中までいろどる第二の民、ドワーフも生まれたんだ。

 ……さてマルコ、この神様はどうなったと思う?」


 アルがそう問いかけると、もうつかれ切ったマルコは顔を上げて、横にふった。

 アルは気を悪くせず、逆に嬉しそうに続ける。


「なんと! 第二の神は、ひと時たりとも大地から身を離すことができなくなってしまった。

 例えば、飛んだり跳ねたりすることができない。

 不便なのは、歩く時も、片足ずつ必ずどちらか地面に接してなければならない。なので走ることもできない。

 そして、水にも入れなくなった。

 最後に、これは自ら望んだ通りだけど、この神は天上に帰ることもなく、その民や山を愛し続けたんだ」


 黙って聞いていたマルコが、何か言いたそうに、湖か海の形を指さそうとする。

 するとアルは、さりげなくその手を握って向きを変えた。


「さ、日が暮れる前に、最後の石板だ」


 そうつぶやいて、引っ張るようにマルコの手を引く。

 と思うと急にふり返り、こうつけ加えた。


「だからといってね、マルコ。ドワーフたちに決して『走れないの?』とか、『カナヅチなの?』とか聞いちゃいけないよ。

 彼らは誇り高い民だ。

 それに……彼らもね、走ったり泳いだりが全くできないわけじゃあないんだよ」


 そう言って、何か思い出したように、アルはニヤニヤと顔をほころばせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る