4 天地創造の石板
「……それじゃあ、気を取り直して、まずはこの石板をご覧ください」
かしこまったアルが、神殿がある丘の
マルコは、食べ物につられて旅の目的地が決められているのでは? という強い疑惑と、それへの苛立ちは晴れなかった。
だが、周りに行き交う人も多かったので、どうにか気持ちをおさえる。
すると人の多さや街並みが珍しくもあり、気が散って、よりにぎやかな方へ自然と足が向いた。
「……あ、アル! 授業の前に、あの……、あっちの大きな広場は何?」
マルコが指差す先には、彫刻が
そして、その石畳の壇の周りを、扇状の石段が何重にも取り囲んでいた。
着飾った多くの人が、その石段に腰掛けて飲んだり食べたり、笑顔で語らいくつろいでいる。
「オホン! マルコ、あれはこのテンプラムの町に一つだけある円形劇場だ。
あさって、お祭りで一番注目される行事があそこで行われる」
アルは、最初から授業の段取りを壊されたが、熱心に話を聞いてくれるマルコの様子を見て、まんざらでもなかった。
マルコがさらに聞く。
「そうなんだ……。あの人たちは何をしているの? 働いてないの?」
「え? ……ああ。あの人たちは、ほとんどが観光客だよ。明日から数日かけて開催される、お祭りを観にきたんだ」
「そのお祭りのために、こんなに人が集まるものなの? わざわざ遠くからも?」
「そうだねぇ……大半は王都のお金持ちが、馬車を借りたり、自前の馬車で来るね。
警備のために、王都の神官戦士団も派遣されている」
「ふうん……。あ! こっちの並んでいる石板は何?」
急にマルコの好奇心に火が付いたようで、それに答えるアルは少しつかれ顔。
だが、話しが石板に及ぶと、
「壮観だろう? ここから頂上の神殿までに55枚の石板がある!
……いや、あったんだ。だいぶ壊れてしまって、今ではかなり少なくなったけどね」
マルコが、円形劇場を背に丘の頂上を見上げると、両側には白い石柱が重なって並ぶ。その間に、所々欠けたり壊れたりしているが、やはり白っぽい石板が並ぶ。
一つ一つの石板にはなにかの絵が彫られ、それが視界の両側を埋めて、神殿まで続いていた。
その光景は、まるで自分が絵の中に入り込んだような、何か大きな存在におそれを抱く気にさせた。
「それで、これはいったい何の石板なの?」
「やっと授業に入れそうだね!
これは、このアルバテッラの地がいかにできたのか、天地創造を伝える神話をあらわしてるんだ」
そう言ってアルは、上機嫌な笑顔になる。両手で一枚目の石板を何度も指差した。
マルコは、その石板の元に、あわてて駆け寄った。
◇
大きな一枚目の石板には、髪の長い裸の女が片手をふり上げ、何か
マルコはさっそく質問する。
「アル! これは何?
手にはボールを持ってるの?」
「オホン! あー、一つ一つ話すからね〜。よく聞くように。
この女性の姿で描かれているのは……全てのはじまりにいらっしゃった太陽神だ。
今も昔も一番信仰されているので、
マルコは、「これはつまらない授業になりそうだ」と警戒し、知りたかった球体に近づいて、アルに必死に目配せをした。
「あ! 待って! マルコ。今、話すから。よぉく聞くように。
あー……、女神が手に持つ球体が、……この大地のはじまりなのです。
まとめると、これは『はじめ女神は、暗闇の中でその
はい。じゃあ次行ってみよう」
アルはマルコを促し、反対側にある一番目––––そちらが二枚目にあたるのだろう––––の方へ歩き出した。
マルコは「道を交互に歩く授業なのか」と驚き、またその進みの遅さに不安になった。
ふと上を見ると、神殿は遠くに見え、気も遠くなった。
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