20XY年7月7日
イノベーションはストレンジャーのお仕事
20XY年7月7日
織姫は時間に厳しい性格で、20XY年7月7日の0時0分丁度に天の川東岸に現れ、彦星を待っている。
「一年に一回しか逢えねぇって言うのに遅刻かい!相変わらず使えねぇ男だなぁ、彦星の奴。だから何時も年イチしか逢わねぇんだよ、まったく」
イラつきながら腕組みしている。
1分後、天の川の西岸に彦星が現れた。
「ごめん、待った?」
「ごめん、待った?じゃねぇし。1分も遅れてんじゃねぇか!貴重な時間を無駄にしてんじゃねえよ!」
「え~1分でしょ?しょうがないよ。僕だって都合があるし」
「なんだよ、その都合ってよ!あたしと年イチで逢える日に他に何の都合があるんだよ!このバカちんが!」
「ごめん」
いつの時代も男は女性には勝てない様だ。
「まぁ、此処で言い争いしても時間の無駄だ。そんで、その『ご都合』って何よ?」
「実は織姫殿に贈り物をしようと少し手間取ったんだ」
「またぁ、そんないい加減な言い訳してからに」
「本当だよ。じゃぁ見てて」
彦星はそう言うと、腰巾着から何やら羽毛の様な白いものを天の川に向かってそっと投げ入れた。すると、きらきらした新星たちが様々な色を携えて瞬き始めた。
「まぁ、きれい」
先程までご立腹だった織姫はその光景にうっとりしてご機嫌が直った。
「これ、364個あるんだよ」
「364個?」
「そう、364個。あと1つ、365個めの新星は今日できるよ」
なぜ365個目か、なぜ最後の1つが今日生まれるのかを知っている織姫は敢えてその事を彦星に訊かずにいる。
「今日のいつできるかはお楽しみ。だって、今日7月7日はまだ始まったばかりだし、23時間余りもあるよ」
「そうね」
織姫は364の色の瞬き具合が違う、彦星の贈り物にうっとりしている。
暫くして、
「しょうがねぇなぁ、今回の遅刻のことは許す。来年も逢ってやる」
少し頬が赤らめてそう言った。
「うん」
彦星の煌めく新星たちに囲まれながら二人は一年分の色々な事を話し合っている。
「おいおい、彦星。何時になったら365個めの新星は観れるんだ?」
「え?まだできてない?おかしいなぁ。もう生まれてもいい時間なんだけど」
「もうこんな時間なんですけどぉ」
織姫がそっと時の羅針盤を彦星に見せると、7月7日はもうあと3分余りで終わろうとしている。楽しいひとときはあっという間に過ぎてしまうものだ。
「もうこんな時間に!」
彦星は顔が真っ青になった。慌ててその原因を探す。
「あれ?」
「うーん?」
「最後の新星が生まれない訳が分かったかしら?」
「ごめん、もう少し待って!」
織姫は半分呆れている。とその時、
「あったー!」
彦星は腰巾着の陰に引っ付いていた、白い羽毛の様な新星の素を天の川に向かって慌てて投げ入れた。すると虹色に瞬きながら天の川にゆらゆら流れていった。
渾身のサプライズをやり遂げた感に浸っている彦星はドヤ顔で織姫の様子を伺った。
「おまえ、なに今頃喜んでんだ?」
「えっ?」
「え?じゃねぇよ。もう7月7日終わってんじゃねえか!」
「なぬー!」
時の羅針盤は7月8日の10秒過ぎを指して進んでいた。
「あたしのロマンチックレべルをMAXに上げといて、時間に間に合わってねぇってどういう事?もう、興醒めぇ~。来年は逢うの無しね!」
織姫はそう言うと、その姿が見えなくなってしまった。
こうして今年の二人の7月7日は終わってしまった。
翌20XZ年7月6日。彦星は昨年の雪辱を晴らすべく、7日の1分前に天の川西岸に待機していた。
「昨年は遅刻して散々だったな。本来はあの渾身のサプライズと共に『祝言を挙げよう』って織姫殿に伝えるつもりだったのに。今年はその1分を取り戻したはいいけど、来てもらえるんだろうか」
7月7日丁度になった。しかし、天の川東岸に織姫の姿はない。彦星は暫く待ってみた。
「やっぱりだめか。原因は自分にあるから仕方ないか」
諦めかけたその時、織姫が対岸に現れた。
「おお、織姫殿!来ていただけたか!僕はてっきり駄目かと」
「わりぃわりぃ、待ったか?」
「いえ、全然。しかし、時間に厳しい織姫殿が遅れるとはどうかしたのですか?」
「いやぁな、彦星に贈り物の準備してたら遅れたな。丁度1分か」
「あれ?去年と立場が逆になりましたね。贈り物、期待してますよ。ちなみに
7月7日が過ぎるのは案外早いですよ」
「そうだな」
あはは、と天の川一帯にこだました二人の笑い声が地球にも届いたとか、届かなかったとか。
(おしまい)
20XY年7月7日 イノベーションはストレンジャーのお仕事 @t-satoh_20190317
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