2


別にやましい事など何もしていない。


だからいつだったかも分からない「その日」に尾行をされていた所で私は一向に構わなかったのだが、やはりどうにも割り切れない。


マサユキの母の勝ち気そうな顔が、まざまざと脳裏に浮かぶ。

つけ過ぎる癖のある香水の匂いまでもが蘇ってくるようで、ズキンと頭が痛んだ。


もう30近い息子に臆面もなく「マーちゃん」などと呼び掛けては何かにつけてご機嫌をとる様な、完全なるバカ親だった。



「ウチの会社は調査日数に応じて料金を頂くシステムなのですが、アイツの寝坊を知った依頼主様が大変な怒りようで」



「その同僚、まさか本当に『寝坊したから尾行に間に合いませんでした、ごめんなさい』って報告したの?」



「らしいです」



「はぁ……可哀想なくらいに正直な人ね」




私がそう感想を漏らすと、柴野が少し傷付いた顔をした。


不器用な人間でも、きっと彼にとっては大切な同僚なのだろうと思う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る