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「うーんとですね……その、私そろそろ帰ろうかと思ってた所なんです」



律儀にも立ったままでいる男に、私は精一杯の愛想笑いを向けた。



素早くコートを羽織る。


シンプルなデザインに一目惚れしたライトベージュのコートである。



いかにも無害そうな彼の笑顔が空恐ろしい。



なのに。



「場所、移しますか?」



更に屈託のない笑みで聞かれて答えに窮してしまう。



えへへ、と適当な笑いを返してごまかしていると


「僕の事、怪しんでるんですよね」


今度は直球勝負を挑まれた。




「……まぁ、正直」



所詮ひきつっていた笑顔を引っ込めて、私も素直に答えた。

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