甘い祭典
いありきうらか
甘い祭典
僕は、チョコレートが大好きだ。
朝ご飯を板チョコ1枚で済ませることもあるくらい大好きだ。
極端な話を言えば、あんこも好きで、砂糖であればなんでもいいのかもしれない。
でも、蜜は得意じゃない。この違いはよくわからない。
この前、職場でこの話をしたところ、甘いものを取り揃えた祭りがあると聞いた。
職場の人と話しても基本的に興味を持たない自分でも、これには興味を持った。
甘いものの祭りとは?まあ、肉の祭りとかもあるし、そういうのがあってもいいだろう。
一番近くの高速道路に乗り、2時間くらいのところで降りる。そこから30分くらい山に向かって走る。
すると、大型のバスが連なり、駐車場に入ろうとしているのが見えた。結構、観光客も来てるようだ。車を止める。
外に出ると、多数の出店がある。入り口の案内でパンフレットをもらい、目を通す。「餅コーナー」「チョコレートコーナー」など、出店が出ているようだ。中には、「角砂糖の森」「クッキーの家」など、不思議なエリアもある。子供向けのエリアなのだろうか。
その中で、僕の目を引いたのは「蜜の滝」だ。滝とはどういうことだろう。チョコレートファウンテンのようなものなんだろう。
蜜は好きではないが、見世物として面白そうだ。行ってみることにしよう。
「蜜の滝」は入り口から一番遠くのエリアのようで、「角砂糖の森」の中を抜けていく。
狭い道で、向こうからやってくる人と、こちらから歩いていく、ちょうど2人くらいの道だ。
ふと横を見ると、切株の上に、角砂糖がピラミッドのように2mくらい積みあがっていた。
それを自撮り棒を使って写真を撮影するカップルもいる。
別の小さい切株に角砂糖を積み上げている家族もいる。
森の中には角砂糖のない切株がたくさんあり、なるほど、見に来た人たちでさらに角砂糖の木を増やすことができるのか、と感心した。
徐々に道が狭くなっていく。一人分が歩ける程度の道だ。
周りは草が生えていて、登山に来たような感覚に陥る。前には誰もいない。
たまに、腰を曲げた老人がこっちから歩いてくるくらいであった。
人によってはストックを持って歩いている。本当に、登山じゃないか。
でも、よく見ると、すれ違った人たちは皆ペットボトルを首からぶら下げている。そのペットボトルにはオレンジ色の光った液体が入っている。
奥が蜜の滝のある場所なのは間違いないだろう。
20分くらい歩いたところ、何やら甘い匂いがしてきた。
僕自身はあまり得意ではないが、人によってはこの匂いだけでご飯3杯はいけるだろう(たぶんそんな人はいないだろう)。
すれ違った人数と計算が合わないくらいの人だかりもできている。
非常に興味深い景色が広がってきた。
滝の高さ自体はあまり高くない、5mくらいの高さだと思うが、大きな丸い洞穴から細い蜜が流れ出ていた。
あの色はメープルシロップか?ハチミツか?落ちた先には木材で組まれた浴槽のような場所があり、そこに蜜がどんどん溜まっていく。
蜜が落ちた先には、竹でできたししおどしがある。
ただ、水ではなく蜜が溜まっているため(ダジャレではない)、ししおどしの動きは想像より鈍かった。
木で囲われた溜め池?というか溜め蜜から、水筒に水を汲んでいる人がいる。
この蜜はキレイなものなのだろうか。あまり食べたい気はしないのだが。
せっかく来たので、自由にお使いください、と書かれた棚からスプーンと小皿を取り、蜜をすくい、口に入れた。
うん。甘い。どうやらハチミツのようだ。
独特の甘ったるさが口の中に広がる。
これをあの老人は毎日汲みに来ているのだろうか。
しかし、不思議な構造だ。恐らく人口で作っているのだろうが、どうやってこの大量な蜜を流し続けているのだろう。
洞穴の奥を伺うことはできない。不思議だなあ、と思いながら写真を撮ることにした。
穴をアップにすると、不覚にも、ちょっとエロいな、と思ってしまった。
恥ずかしい気持ちになりながら、ししおどしが入るくらいまでズームアウトし、写真を撮る。
写真を確認する。穴から流れ出る蜜が太陽の光で眩しい。
うん、やっぱりちょっとエロいな。
元来た道を歩く。
やはり、この道は人だかりに比例しない人数しか歩いていない。滝の近くに裏道でもあったのだろうか。
角砂糖を食べながら小さい男の子が母親と手をつなぎ、歩いている。
虫歯には気をつけてもらいたい。
森に入る。切株の1つに、角砂糖の塔が増えていた。
子供が積んだのだろうか。風で倒れそうだ。
ちょうど、別の切株で積んでいた角砂糖が崩れてしまった。
女の子が泣き出してしまった。真剣に取り組んでるなあ。
出店のある広場に帰ってきた。
「チョコレートコーナー」の品揃えには驚いた。60種類以上の味がある。
ききチョコなんてのも、ここの店のものをつかえばすぐできるじゃないか。
市販のものでは微妙に形が違うからできない。
「ジャンドゥーヤ」とは何味だろうか。
「ターコイズミルク」「セルリアンミルク」「ワイルドミルク」など、もはやよくわからない味のものを中心に選んだ。
歩きながら、「ジャンドゥーヤ」味のチョコレートを食べた。あ、美味しい。
これ、だいぶ好きな味だ。スーパーとかに売ってるんだろうか。
途中の作り立てのあずきの匂いに興味はそそられたが、蜜の滝に向かうまでで結構疲れてしまったので、帰ることにした。
そういえば、この祭りに来ている人たちは皆痩せている。なぜだ。許せない。
面白い祭りだった。高揚した気分で車に乗った。同じ帰り道を走る。少し行きよりもスピードが速い気がする。
ブレーキが間に合わずに、トラックの後ろに突っ込んだあとのことはもう覚えていない。
甘い祭典 いありきうらか @iarikiuraka
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