39.お酒の力おそるべし
コウスケの城からアラモ砦に戻ってきた俺達は、奴が作り出した魔王軍と王都騎士団が争い、その場にルシフェルを含めた魔族の幹部達が参戦している事を思い出したので、とりあえずそっちに出向いてみることにした。まぁ、元凶は元の世界に戻っちまったみたいだし、行く必要もないと思うけど一応ね。俺達の可愛い娘を迎えに行かないといけないしな。
そんな軽い気持ちで足を運んだ俺達の目に飛び込んできたのは、予想だにしない衝撃の光景だった。
「うぉぉぉぉぉ!!」
「やってやったぜ!! うぇーい!!」
「魔族の幹部、サイコー!!」
めっちゃ盛り上がってるんですけど。こんな周りになにもない平原で酒盛り開いてるんですけど。浴びるように酒を飲むってあるだろ? この連中、酒樽を頭からかぶって本当に浴びてんだよね。
「おーい! もっと酒をくれー!」
「はいはい。今お持ちします。これを機にコレット商会をどうぞ
酒の出所がはっきりしたわ。飲みまくってる騎士達に紛れて、なんか居酒屋の店員みたいにあくせく働いている人達がいると思ったら、コレット商会の従業員か。商売魂が凄すぎて涙が出そうになる。
「はぁ……凄いですね」
「あぁ。……それにしても、いくら激しい戦いが終わったからといって、こんな羽目外しちまっていいのかね。王都が誇る騎士団のこんな姿をオリバー王が見たら
「あのぉ……クロ様?」
セリスが遠慮がちに俺の袖を引っ張ってきた。顔を向けると、何とも言えない顔でどこかを指差している。ん? そっちに何がある……。
「ルシフェル殿ー! 飲んでるかー?」
「あ、うん。僕は飲んでるけど、オリバーはもうその辺で止めておいた方がいいんじゃない?」
「何を言う! 戦の後は死ぬほど酒を飲む! これが
「そ、そうだね」
いつも振り回す立場のフェルが振り回されてやがる。やるな、オリバー王。珍しいもの見ちまったぜ。トップがあれくらい荒れ狂っているなら、部下が無礼講でも何ら問題ないわけだ。
「パパ!! ママ!!」
この状況をどう受け入れていいか迷っていると、可愛らしい声が俺の鼓膜を刺激する。あぁ、その姿を確認するまでもない。全速力でこちらに飛んできた天使を、俺は包み込むようにしてキャッチする。
「パパー! よかったー! 目が覚めたんだね!!」
「心配かけたな、アルカ。でも、大丈夫! お父さんはこの通りぴんぴんしているぞ!」
アルカを抱きつつ、元気な事をアピール。すいません、本当は全然元気じゃありません。コウスケの野郎と本気でぶつかり合った時、余裕そうに見えて実のところめちゃくちゃダメージ受けています。今にも倒れそうっす。あの展開じゃ、やせ我慢する他なかったんじゃ。
「アルカ、パパを傷つけた悪い人のお仲間をたーくさんやっつけたの!」
「そうかそうか」
本当はあまりやっつけて欲しくないんだけど、俺のために戦ってくれたと考えると、どうにも頬が緩んでしまう。
「……本当にたくさんやっつけたらしいな。酒飲みながら騎士の奴らに聞いたけど、無数の
いい子いい子とアルカの頭を撫でていたら、ジョッキを片手にギーとボーウィッドがこちらに歩いてきた。コウスケの作り出した魔族達が一瞬で塵に……? この
「……セリスを連れて兄弟がここに現れたという事は……」
「ちゃーんとぶちのめしてきたぜ。そのまま元の世界へ送り返してやったよ」
「わー! パパ凄い!!」
「化け物じみた力を持ったあの野郎に勝つとは流石だな。やっぱりうちのパシリ大臣様には誰も敵わないって事か」
「外交大臣だ。ぶん殴っぞこら」
百歩譲って何でも大臣は許せても、パシリ大臣は絶対に許さない。訴訟も辞さない覚悟で臨む。
「そちらはどうだったんですか?」
「ん? あぁ、結構やる奴だったんだがな。我らが魔王の怒りを買った後、あそこにいる勇者様に断罪されたよ」
セリスが尋ねると、ギーは軽く笑いながら親指を背後に向けた。そっちに目を向けると、特に盛り上がっているみたいで、騎士達が集まる中心にはライガとレックスの姿があった。あいつら何やって……いや、転がってる酒樽を見ればわかるか。
「中々イケるクチだぜ、あいつは。下手したらライガの奴を食っちまうんじゃねぇか? あぁ、マリアがいないのが残念だ。飲み比べさせたかったぜ」
あー、そういやレックスの奴、酒に強かったな。あいつが酔っ払っているところ見た事ねぇもん。大酒豪セリスと
「あー! クロムウェル・シューマン、みっけ♡」
噂をすればこれだよ。ってか、フルネームで呼ぶとか珍しいな、おい。それにしても俺の腕に抱き着いてきた身体がやけに硬いんだけど。まるで鎧でも着ているみたいに……。
うんざりした顔で振り返った。そして、俺の腕にしがみついている女性を見て、すぐに視線を前に戻した
「戦場に現れないから心配したんだよぉ?」
可愛らしい仕草で俺の顔を覗き込んできた女性は、純白の鎧に身を包み、頭の高い位置で髪を結っていた。この特徴を持つ俺の知り合いはただ一人。だが、恐らく別人だろう。他人の空似かドッペルゲンガーか、どちらにせよ、厳格で品行方正なあの人であるわけがない。……でも、万が一の可能性を潰しておくため、ありえないとは思いつつも一応聞いておく。
「え、えーっと……エルザ先輩じゃないですよね?」
「やぁだぁ! 先輩だなんて堅苦しいよぉ! エルたんって呼んで欲しいんだぞ☆」
お、おっふ……。言葉が出てこねぇ……。二つの拳を口元に当て、見事なぶりっ子ポーズを決めるエルザ先輩を見て、俺は
「あれ? アルたんもクロぽんに甘えてるのぉ?」
クロぽんってなに? 黒いポン酢の事だよね?
「エルザお姉さんが乙女な感じになってるの! お酒を一杯飲んだんだね! 可愛いー!」
「可愛いなんてやだぁ! 超嬉しいぃ!! あげぽよだよぅ!! アルたんもかぁいいよぉ!!」
両手を開いてきゃは、っと笑っているエルザ先輩を見て、俺は緩慢な動きでギーとボーウィッドの方に目をやる。二人共葬式に来たみたいな顔をしていた。多分、俺も同じような顔していると思う。
「……そんなことよりぃ、なんだか身体が火照ってきちゃったのぉ」
そう言って、エルザ先輩が身体を押し付けてくる。はっきり言って痛い。鎧の装飾で尖っている部分が俺の身体に食い込んでいるんですが。
「ねぇ、クロぽん? エルたんと楽しい事しよぉ?」
「……楽しい事って何ですか?」
「そりゃもちろん決まってるでしょぉ? それを言わせるつもりぃ? クロぽんのえっちぃ♡」
エルザ先輩がくねくねと身体を動かして誘惑してくる。いや、流石に
「どちらかが地面に
楽しい事、こえーよ!! やっぱりエルザ先輩はエルザ先輩だよ!! すっげぇ安心したよ!! つーか、あんまりベタベタしないでくれませんか? こっちにその気がなくても、これを見たら嫉妬で頭がおかしくなる人が俺の隣に……。
ドサッ。
突然、セリスが地べたに腰を下ろした。
「ママ?」
俺の腕の中でアルカが首を傾げながら声をかける。だが、セリスは無反応。
「セ、セリスさん? こ、これは別に浮気とかじゃないですよ?」
「…………」
セリスが何か言った気がするが、小声過ぎて聞き取れない。俺は左腕にエルザ先輩を引っ付けたまま、ギリギリまでセリスの方に顔を寄せた。
「……産まれ……そうです……!!」
………………へっ?
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