25.無駄だと思いつつも、一応聞いておくのがマナー
気迫に満ち溢れた軍団が平原を
「…………止まれ」
一番前を進んでいたコンスタンが立ち止まり、腕を軽く上げて後ろの者達に制止の合図を送った。それまで一糸乱れぬよう歩いていた騎士達が一斉にその足を止める。そして、目の前に広がる敵の軍勢をしっかりと見据えた。
「なるほど……確かに魔族だな」
敵影を確認しながら、コンスタンは呟いた。ゴブリンにオーク、オーガにトロール。デュラハンや巨人族までいる。それは交友を持つこの世界の魔族の姿と相違なかった。だが、違う。決して同じではない。いくら姿形が同じでも、その身から発せられる邪気は比べるまでもなかった。
「私が出よう」
「オリバー王」
「なに、王として必要最低限の公務はせねばな」
不安気なコンスタンの肩に手をかけ、オリバーが前へと出た。
「我が名はオリバー・クレイモア! この世界の人間を統べる王である! この地は我々人間が治める領地! ここまで参られた理由をお尋ねしたい!!」
少し離れている魔族達に聞こえるよう、オリバーが大声をあげる。しばらくして黒いマントを羽織った大柄の男が威風堂々とした佇まいで躍り出てきた。
「聞き違いだろうか? 人間の王と名乗ったように聞こえたが?」
「いかにも。私が王だ」
「……まさかここまでノコノコやってくるとは、王の器が知れるな。こちらとしては足を運ぶ手間が省けていいのだが」
大柄の男が馬鹿にしたように鼻を鳴らす。そして、一歩前に出ると、ばさりとマントをたなびかせた。
「我の名はハデス。人間を滅ぼすため、康介様より生み出された魔王軍の王だ」
「コウスケ殿に生み出された……」
その言葉で確信へと変わる。ルシフェルの事を信頼しているオリバー自身は全く心配などしてはいなかったが、騎士達の中には心のどこかでルシフェル達が攻めてきた、と思っていた者がいたかもしれない。だが、これでその疑いは奇麗さっぱりなくなったというわけだ。
「ハデス殿、
「……なんだ? そんな事を聞くためにわざわざここまでやって来たのか? とんだ愚か者だな!」
ハデスが豪快に笑い声をあげる。
「我々は貴様らを駆逐するために生まれた存在だぞ? 話し合いで済むわけなかろう?」
「そうか」
ニヤニヤと笑っているハデスに対し、オリバーは淡白な口調で答えた。最初から話し合いで解決するなど、微塵も思っていない。それでもなお尋ねた理由は、後から『有無を言わさず襲ってきた』などと因縁を付けられないようにするための保険。
「……気に入らないな。何を考えているのかさっぱりわからん」
やけにあっさりと引き下がったオリバーを不審に思ったハデスの顔から笑みが消える。今度はオリバーが笑みを浮かべる番だった。
「別に気にすることもないだろう? これから滅ぼすところの王が何を考えていようとも、貴殿には何も関係ないはずだ」
「それもそうだな。ならば、さっさとゴミ掃除をすることにしよう」
ハデスは不機嫌そうな表情を浮かべつつ、人差し指に魔力を集中する。そのまま魔法陣も詠唱もなしで巨大な火球を出現させると、それをオリバー目掛けて発射した。
迫りくる大火球を前にしても、オリバーに焦りの色は一切ない。堂々たる佇まいで、しっかりと前を見据えていた。
スパンッ!
オリバーの眼前で大火球が見事に真っ二つになる。オリバーは自分の前で雷
「後はまかせたぞ、コンスタン」
「……御意に」
鋭い視線をハデスに向けたまま、闇を払うかの如く剣で
「皆の者! 剣を抜け!! 我らが王に牙を向けた事、奴らに後悔させてやるのだ!!」
「いくぞぉぉぉぉ!!」
「人間をなめるなぁぁぁ!!」
コンスタンの怒声に呼応するように荒々しい声で剣を抜き、騎士達が魔族達へと向かっていく。
「……ふん。弱小種族が。奴らに魔族の恐ろしさを骨の髄まで教え込んでやれ!!」
「人間は皆殺しだ!!」
「人間共を血祭りにあげろ!!」
対する魔族も殺意を
幻となって消え去ったアラモ平原における戦争。それを再現するかのように人間と魔族の戦いの幕が、今ここに切って落とされた。
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