19.凄まじく強い電気仕掛けのロボットはコンセントを抜いてしまえばいい
目の前には俺の切り札を喰らっても余裕の笑みを浮かべている男。どうにも回復魔法が達者のようで、俺が与えたダメージなんてどこ吹く風といった様子。いやーこりゃ、まいったねぇ。
つっても、魔族を滅ぼすなんて馬鹿な事を言っている以上、選択肢なんてないんだけどな。
「"
出し惜しみはなしだ。
「"クラフト:
フル強化した俺が向かって来るのをしっかりと見据えながら、奴はどこからか剣を取り出した。あー、あれは普通の剣じゃないっすね。やばいオーラをビンビン感じる。
「僕の世界じゃ有名な剣でね。伝説の聖剣の原型とも言われているんだ。一度使ってみたかったから作ってみたよ」
「……もう何でもアリだな」
俺の拳を剣の腹で受けながら楽しそうな口調で言う。周りの連中が吹き飛ぶほどの衝撃が起こってるっていうのに、随分と涼しい顔してんなぁ、おい。ってか、作ったってなんだよ。そんな魔法知らねぇぞ。魔法陣も一切使わねぇし、異世界ってそんな感じなの? ふざけんな。
ヤバそうな剣の軌道にだけ細心の注意を払いつつ、連打を仕掛けていく。
「すごいね! 'バトルマスター'の僕が押されているなんて!」
「けっ! 自分でバトルマスターとか言ってると、年食った時に後悔すんぞ!」
「いや、スキルの話で……って、言っても伝わらないか」
何発か攻撃は当てている。だけど、ダメージを与えられている気がサラサラしない。魔力にまかせて突っ込む俺とは違って、こいつにはしっかりとした武術の心得がある。しかも、相当高いレベルで。俺とは身体の使い方が違いすぎるんだよ。
「こっちは実戦経験が浅いんだから、もう少し手加減して欲しいんだけどね。"
「"
奴の手のひらから飛び出した炎の魔獣を俺のサメが食いちぎる。こうやって、何の素振りもなく最上級の魔法を使ってきやがる。そのせいでこっちも咄嗟に魔法で迎撃できるようにしておかないといけない。本当、嫌な相手だわ。
だけど、つけいる隙はある。
「おらぁ!!」
「ぐっ……!!」
俺の右足が奴の腹部を的確に捉えた。そのまま嗚咽を漏らし、橋を削りながら後ろへと吹き飛んでいく。今のは効いただろう。かなり手ごたえがあったぜ。
「どうした? 手心加えてくれてんのか? 案外優しいんだな」
挑発するようにクイクイと指を動かす俺を見つめながら、奴は口元から流れる血を拭った。
そう、こいつは全力を出していない。いや、出せていないって言った方が正しいかもな。
理由はよくわからないが、奴は自分の力を上手く使いこなせてないんだ。魔法を見ればすぐにわかる。注ぎ込んだ魔力の割に性能がしょぼい。それでも、規格外の魔力保有量から馬鹿みたいに魔力を使ってるせいで威力は半端ないんだけどな。
さっき実戦経験が浅いって言ってたけど、多分本当の事だろうな。実戦無しでこんなに強くなれるのかよ。異世界ぱねぇ。
「本当にすごいなぁ、君は。慣れていないとはいえ、破格の力を手に入れたはずの僕を肉弾戦で圧倒し、魔法陣を作るという無駄な動作が必要なのにもかかわらず、僕と同じ速度で魔法を唱える」
「おいおい、すげぇ褒めてくれるじゃねぇか。あれか? 戦う気が失せたか? 今なら見逃して」
「血反吐を吐くような努力をしたんだね──レックス・アルベールに勝つために」
脳みそが停止する。しばらくの間、奴が言った言葉の意味が理解できなかった。
「あんなに完璧な幼馴染がいるんだもん。隣にいても恥ずかしくないように、自分を高めるしかないよね?」
ドクンッ。心臓が高鳴った。
「な、なんで……?」
なんでこいつは、それを知っているんだ?
誰にも話したことなんてない。レックスにもセリスにも。
「言ったでしょ? 僕と君は似た者同士、神の気まぐれで不幸な境遇に追いやられた仲間だ、ってね」
うまく言葉が出てこない俺を見て、奴はニッコリと笑った。俺と同じ……神の気まぐれ……不幸な境遇……。
そうか、こいつにも……。
「合点がいった、って顔をしているね」
「あぁ、まさか俺以外にいるとは思わなかった。主役に振り回される可哀想な
「その表現、言い得て妙だね。……でも、君は違うんでしょ?」
空っぽの笑顔をこっちに向けてくる。それを見た瞬間、俺の本能がざわついた。
「君は魔法陣という一点において、誰にも負けない強さを持った。それは、彼を越えたという意味。……僕には無理だった。どんなに努力をしても何一つ超える事が出来なかった。僕は
今すぐにこいつを倒さないと、とてつもなく厄介なことが起きる。トラブルと縁がある俺だからこそ感じる胸のざわめき。橋が砕けるのも構うことなく、全力で地面を蹴り、奴との距離を一気に詰める。
「……でもね、こんな僕でもこの世界でなら最強になれるのさ」
とても穏やかな声でそう言うと、静かに手を上に掲げる。
「"クラフトマジック:
奴が魔法を唱えた瞬間、アラモ砦に届くほどに巨大なドームが出現した。が、次の瞬間にはまるで幻だったかのように、その透明なドームは消えていく。最悪な効果だけを残して。
「う、そだろ……?」
呆然と自分の両手を見ていた俺の口から、自然とそんな言葉が漏れた。
「この世界は魔法陣が生命線なんでしょ? だったら、それを奪ってしまえば、怖いものなんて何もないよね?」
信じられねぇ。"
だが、今は全く感じない。この世界で一番付き合いの長い相手のはずなのに、その鼓動を一切感じ取ることができない。
「この魔法は初めてこの世界の魔法を見た時に思いついたんだ。魔法陣を媒介にして魔法を発動させるこの世界において、その魔法陣を封じることが出来れば僕に敵はいなくなるんじゃないか、ってね」
優越感に浸りながら何かくっちゃべってるみたいだけど、そんなのどうでもいい。まじでか? まじで魔法陣が作れないのか?
「君の強さの源は魔法陣だよね。目にもとまらぬ速さで動けるのもそう、拳一つで山をも砕くのもそう、ありとあらゆる魔法を放つのもそう……そして、太陽の様に光り輝く幼馴染を相手に、劣等感を抱かなくて済む理由もそう。全て魔法陣のおかげだ」
奴の足音が近づいてくるのが聞こえる。そっちに顔を向ける余裕なんてない。ただ必死に魔力を練り上げ、魔法陣を組み上げようとしていた。だが、形を成すどころか、魔法陣の影すらも現れない。
「これでようやく一緒になれたよ。魔法陣の使えない君はただの日陰者、昔の僕と同じさ。何の取り柄もない屑に成り下がってしまったんだよ」
「っ!? なんだとっ!?」
聞き捨てならない言葉に思わずその場で立ち上がり、いつの間にか目の前まで来ていた奴の胸倉をつかむ。好き放題言いやがって! 魔法陣が使えないからなんだってんだ! すぐにお前が使ったわけのわからん魔法を破って、吠え面……。
ブス。
鈍い音と共に一瞬だけ激痛が走る。次に訪れたのは痺れと寒気。下半身の感覚が……いや、下半身そのものがなくなってしまったような感じ。ゆっくり下に目を向けると、意匠が派手で趣味の悪い奴の剣が、俺の腹から生えていた。
「あっ、がはっ……!!」
声を出そうとしたら大量の血が口からあふれ出し、思わずせき込んでしまう。どういうわけか身体が言うことを聞かない。この気が遠くなるような感覚、以前にもどっかで感じたような気が……。
「──さようなら、昔の僕」
奴が
薄れゆく意識の中で聞こえてきたのは愉悦とも悲哀ともとれる声。そして、ぼやけた視界に映ったのは、微笑を浮かべながら涙を流す、返り血で真っ赤に染まった自分と似た男の姿だった。
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