18.同じ境遇だとしても、同じ性格とは限らない
ゲテモノ料理を食べたような俺の顔を、ギーが半笑いで覗き込んできた。
「ナンバーワンは多忙だねぇ。俺もおこぼれに
「一見さんは断りたいところだな」
ため息を吐きつつ、部屋の出口へと歩いていく。そして、扉から出ていく間際に、二人の幹部に目を向けた。
「サキの事は頼んだぞ」
「おう、まかせとけ」
「頼まれただ」
「あ、あの……! クロムウェルさん……!?」
何が起こったのかわからず動揺を隠せないサキ。そんな彼女の肩にギーが優しく手をのせた。
「心配すんな。あいつは厄介事を解決するプロだ。厄介事を呼び寄せるプロでもあるけどな」
「ギーさん……」
「うるせぇよ」
とりあえず、あの二人に任せておけばサキは大丈夫だろ。早いとこ迷惑なお客人には帰ってもらうとするか。
アラモ砦の外に出た俺はすぐさま状況を確認する。アラモ砦の周辺に魔族が何人かいて、サンライトブリッジの上にはピエールが一人で魔法障壁を張っている。それでもって上に飛んでる全身白ずくめの男が不審者ってわけね。特にやりあってるって感じでもなさそうだな。
それにしても全身白い服って中々に趣味悪いな。太陽の光を反射して見ているだけで目がチカチカするぞ。ミスターホワイトの時に同じ恰好をしてた? そもそもお前は全身黒ずくめだろ? ちょっと何言っているのかわかりませんね。
……っと、冗談はこれくらいにして。
俺は転移魔法でピエールの隣に移動した。突然現れた俺に少し驚いた様子のピエールだったが、すぐに白ずくめの男に目を向ける。
「ふっ……
「今宵って今は真昼間だろうが。……無理すんじゃねぇぞ、ピエール」
戦闘能力はピカ一なんだけど、臆病なヴァンパイヤに戦わせるわけにはいかねぇよな。顔はどや顔なのに、膝のがくぶるが橋にまで伝搬しそうだ。
「こういう仕事は何でも大臣の俺の仕事なんだよ。魔法大臣の仕事じゃねぇ」
「……貴殿がそう言うなら是非もない」
そう言うと、ピエールは肩に羽織ったマントを
あいつからは、初めてフェルと対峙した時みたいなプレッシャーを感じるんだよ。
「俺を探しているみたいだけど、なんか用でもあるのか?」
「……へぇ。君がクロムウェル・シューマンなんだね」
空中でこちらの様子を窺っていた男に声をかけると、男はなぜか嬉しそうに笑っていた。
「思った通り、冴えない男で安心したよ」
「お前に言われたくねぇな」
白で着飾ってるみたいだけど、野暮ったい雰囲気は隠しきれてないぞ。例えるなら地味メンが都会に行くからって無理やりお洒落しちゃった感じ。あっ、俺の事か。うるせぇよ。
「そうだね。ある意味、僕は君と同じだよ」
「俺と同じ?」
「そうだよ。意地悪な神様が与えた不幸な境遇……僕達は似た者同士なんだ」
なんつーか、大仰な言い回しをする奴だなぁ。俺と似た者同士? 俺には全然そうは思えねぇわ。
「とりあえず、お前何者だ? 人間……だよな?」
「あぁ、自己紹介がまだだったね。僕の名前は康介っていうんだ。お察しの通り人間だよ」
「コウスケ?」
え? ちょっと待って? まさか、サキが言ってた奴ってこいつ? いやいやいや。流石にそれはないだろう。偶然にしても出来過ぎてる。物語じゃないんだから。
「あぁ、でもこの世界の人間じゃない。僕は他の世界から来たもんでね」
やっぱり本人っぽいです。どういう事やねん。
「……それで? その異世界からやって来たコウスケさんが俺に何の用で?」
「随分と冷静なんだね。異世界からやって来たなんて突拍子もない話を聞かされているのに」
「俺にとってそんなのはどうでもいい事だからな。大事なのはお前が今ここにいる理由だ」
さらりと俺が言うと、奴は少しだけ考え込んでいるような顔で俺を見つめる。
「……まぁ、いいや。僕がここに来た理由だっけ? それは君を一目見るためだよ」
「え?」
やべぇ。コウスケ君は俺に興味があるみたいです。でも、残念ながら俺には男色の気はないのです。
「悪いけど俺には妻と可愛い娘がいるんだ。それにもうじき」
「いや、そういう事じゃないから。王様にも一目置かれるクロムウェル・シューマンという男を見たかっただけだよ」
あっ、違った。めちゃくちゃ恥ずかしい。
「だが、攻撃を仕掛けてきたじゃねぇか」
「あぁ、それ? 橋にいたヴァンパイヤに僕が『クロムウェル・シューマンを呼んできて欲しい』って言ったら、なんかよくわからないことをベラベラと話してきてさ。何となくイラっとして思わず攻撃しちゃったんだよね」
それはうちの魔法大臣の事でしょうか? それに関しては大変申し訳ございません。って、いやいやいや。流石にそれで攻撃するのはおかしいだろ。いくらピエールの厨二病語が気に障っても……うん、攻撃してもおかしくねぇわ。
「あっでも、もう一つここに来た理由があるんだった」
軽い調子でポンッと手を打つと、奴は体内に秘めていた魔力を一気に解放する。
「僕は人間が当然に果たす責務として魔族を滅ぼしに来たのさ」
「……なるほどね」
穏便に、とはいかないみたいだな。
「滅ぼすって言われたら、こっちも黙ってるわけにはいかねぇな」
俺もありったけの魔力を練り上げる。こいつは久しぶりに骨が折れそうな任務だな。目の前でバカみたいな魔力を
「……すごい重圧を感じるよ。噂は本当だったみたいだね」
「へぇ? どんな悪口を聞いたのかねぇ?」
「君がこの世界で最も強いって話さ」
そう言うと、奴は僅かに口角を上げながら両手を開いた。
「君の全力、僕に見せてくれないかな?」
……俺の魔力を見ても余裕ってことかよ? ははーん。少しだけ、ほんの少しだけだけどムカッとしちゃったなー俺。なんかあいつの目を覚まさせて、みたいなことを頼まれた気がしないでもないけど、気のせいだろ。つーか、目を覚まさせてやるよ。この俺の
作り出すのは空を埋め尽くすほどの魔法陣。火、水、地、風の四つに雷と氷。そして、それらを統合する重力の七属性。
「それならご期待に応えてやるとするか……!! 今更後悔しても遅いぜっ!! "
ずっと空から見下しているいけ好かない野郎にぶちかますのは極光波。全てを無に帰す破壊の光。奴目掛けて一直線に突き抜ける。
その光の
十秒ほど魔力を送り続けていた魔法陣を消失させる。それと同時に光の波動は消え、ゆっくりと奴は橋の上に落ちた。って、あれ? もしかして俺やっちゃった? いやだって、めっちゃ強者感出してたやん! なんか俺の魔法も
「……"
捨てられたゴミのように転がっていた奴の身体が一瞬光り輝いた。あ、生きてたわ。まじでホッとした。いや、ちょっと待て。今あいつ、魔法陣なしで魔法を唱えなかったか?
「想像以上の威力だね。咄嗟にシールドを張ったっていうのに、死にかけたよ。僕が作ったこの服も、衝撃をかなり和らげる代物なんだけどね。ボロボロになっちゃった」
なぜか嬉しそうな自称:異世界出身のコウスケ君。対する俺、多分死んだ魚のような目をしてる。はっ……やっぱりだ。思った通り、こいつはめちゃくちゃ厄介な相手じゃねぇか。くそが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます