俺が犯人の事件簿・ファイル2-2

  警察と暴力団の二陣に庇われた状況を打破すべく俺は暴力団側の先頭に立つ死んだ若頭付だった顔なじみの少女を怒鳴りちらす。


「おい、ヤス。お前そっちの組の人間だろ。なんで若頭殺した俺を庇うんだよ!」


 安藤あんどう安彩あさ――通常ヤスは警察に睨みを利かせていた視線を俺の声に逡巡させて彷徨わせる。

 ショートカットにパーカーとズボン。ボーイッシュな姿が似合う娘は燐とした表情でその重苦しい口を開く。


「でもこのままじゃ兄貴が犯人にされるっす。警察に犯されてしまうっす」


 見当違いな答えを返していた。

 警察に俺が犯されるって何だ!?

 思わずこいつ腐ってるんじゃないか?と悩ましく思いながら、ヤスのボキャブラリーがおかしいことはいつものことなので聞き流して出かけた言葉を飲み込む。でもそれ以上にヤスが腐った発言をしたことが思った以上に俺の心に響いて俺は目を手で覆い隠す。

 実はヤスは俺絡みの分けあり少女なのだ。ヤスはまだ十七歳と若い。年齢的には高校に通っていて本来なら勉学に勤しんでもっといろんなことを学んで青春をエンジョイしていてもおかしくない人間だ。でも高校には通っていないし、暴力団に所属している。そしてその原因の一端は俺にもあるだけに罪悪感が拭えない。

 ヤスを拾ってこの暴力団に入れて若頭付にしたのも俺だった。

 もちろん最初から意図してやったわけじゃない。できる枠内で最善を求めていったらこうなってしまったというのが正しい。

 ヤスとの出会いは三年前に遡る。ちょうど殺した若頭が持っていたシンジケートの一つにSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で家出の人間を捕まえてトランクに詰めて臓器売買に使う商売があった。ヤスはそれでクズな父親にはめられて臓器売買用にトランクに詰められて売られるところだった。そこを俺が見つけて保護したのがヤスとの出会いになる。見つけた俺は中学生のやせ細った娘にイラだって父親を襲撃。俺が引き取るわけにもいかず、若頭に借りを作る形でヤスを小間使いにして合法な仕事で雇ってもらっていた。親権の関係で父親は生き殺しで生かしながら使っている。暴力団といえども昨今はまっとうな商売や情報収集に女性が必要で、女性の暴力団員もいたため、彼女たちの力も借りられてちょうどよく収めることができた。

 ただ俺の弱みになると考えた若頭は分かりやすくヤスを自分の側付にして俺に圧力をかけ続けたし。俺のおかげで扱いは他の組員よりもマシなほうだとヤスは言っているが、本来なら普通の子みたいに高校に通わせてやりたかったのに俺はしてやれなかった罪悪感がある。特にさっきのような言動を聞くたびに後悔して自責の念に悩まされる。なのにヤス本人は俺に助けられたって思ってて、今みたいに見当違いなことを言っちゃあいるが恩を感じて俺を助けようとしてくれている。

 警察の幼馴染二人も厄介だけど。

 ヤスも厄介だった。

 しかも困ったことにその経緯もあってヤスに俺は好意を寄せられている。俺みたいなおじさんとなんてダメに決まっているだろうが。せっかくクズ親から解放されたのだから自由に生きてほしかった。でも断ると。そうだよね。こんな汚れた女嫌だよね。父親にいろいろと口に出しづらい虐待を受けていたようで重い言葉を返されて口を紡がざるを得なくて平行線を辿っている。


「つ~か、ヤスが俺を庇うのはまだ分かるが。なぜ他のやつらも俺を庇うんだ?」

「若頭は団内でも嫌われものだったっすからね。それにあたし以外にもアニキに若頭から庇われて恩を感じている人間は多いっす。みんな恩義を感じてるっすよ」


 ヤスの言葉に背後にいいた他の団員がウンウンと頷いている。なんか思っていた以上に俺はいろんなやつに慕われているらしい。まったくこんな人殺しを慕ってどうするんだか。でも悪い気はしなかった。


 って、しんみりしている場合じゃねえ。


「だ~か~ら~俺が犯になんだって!」


 いい加減にしろとばかりに俺は叫んで主張する。


「だからお前が犯人なわけねえだろ?」

「そうっすよ。アニキが犯人なわけないじゃないっすか」

「だからお前らのその自信は何処から来るんだよ!」


 正志がウンウン頷いて大丈夫分かってるからとばかりに俺の肩をポンポン叩く。


「お前二週間前に義兄が殺されたときも犯人になろうとしてたもんな。あれだろ?いままで義兄の悪事を手伝ってたから罪悪感に悩まされてたんだよな。だから自分も罪人で殺人犯はその悪事の犠牲者の人だろうから、代わりに罪を被って犯人になろうとしたんだろ?でもそんな自己犠牲幼馴染の俺らが許さねえからな!」

「かっこいいこと言ってるところ悪いけど俺が犯人だから!」

「そうだぞ。自暴自棄になるんじゃない」


 賢治も空いた肩をポンポンしてくる。駄目だこいつら相変わらずポンコツだ。


「感動っす。男同士の友情・・・尊いっす」

「・・・・・ヤス。お前本当に腐ってねえよな?正志も賢治も俺とは違って妻子もちだからな」

「あたしはアニキが振り向いてくれるなら両刀でも問題ないっす」

「お前の発言が問題だよ!」


 もはやヤスは腐っていること確定だった。ヤスの両肩に手を置いて、尊いね、っていってるアネさんがた。絶対あんたらがヤスを腐らせた犯人だろ!非難の視線を浴びせると目線をそらされた。


「愛されてるな。お前も身を固めてもいいじゃねえか?」

「いや。正志。いい話風に言ってるけど。俺とお前の関係性の曲解を否定しろよ。ヤスが口元押さえて尊いとか呟いてるじゃねえか!」


 もはやカオス。カオス以外の何者でもない。というかもはや事件がおざなりになっている。


「だめっす。確かに幼馴染寝たとか尊いっすけど」

「ネタだよな?寝たに聞こえたけどネタでいいんだよな!俺の空耳だよな!?」

「警察になんか任せておけないっす。このままじゃか弱くて優しいアニキが刑務所でむさい連中に掘られるっす」

「さっきの犯されるってそういうこと!?」

「わかってる。俺たちだって警察の面子にかけて無実のこいつを刑務所に入れるわけにはいかないんだ。刑期中に子供が出来ても困るしな」

「俺、男・・・」


 俺の訴えは誰にも届かない。


「ああ。もう。お前らいい加減にしろ!いがみ合うんじゃねえ。話が進まねえ。俺が犯人だって自白してんだ。もうそれでいいだろ?いがみ合うんだったらもうそれで終りにしろよ」

『・・・・・』

「確かにいがみ合ってる場合じゃないな。殺人現場は暴力団事務所。被害者は若頭。協力してもらわなければ警察だけでは限界がある」

「くやしいっすけど。ここは協力するしかないっすね」

『一緒に犯人を探そう(っす)』


 警察と暴力団が俺の無実を証明するために手を組んだ。


「だから俺が犯人なんだって言ってんだろが!」


 俺の叫び声がむなしく宙に消えた。

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