若頭殺害事件

俺が犯人の事件簿・ファイル2-1

「俺が犯人だ!」


 俺は声を張り上げて自首した。


 右に警察の集団。

 左に暴力団の集団。

 背には火事で焼けた建物と事件現場の残骸。

 そして野次馬が俺らを囲み見る。

 野次馬の上げられた手にはスマートフォンが握られていて、好奇心旺盛な彼らが睨みあう警察と暴力団の一触即発の雰囲気を無遠慮に撮っている。

 その中心に立つ俺はもはや堪えることができなくなって、この混沌とした状況に終わりを告げようと人生二度目の自白を叫んだのだった。


 そう。

 自白したのです。

 自首したのです。

 なのに彼らは言うのです。


「安心しろ。お前が無実なのは分かっている」


 警察の幼馴染が擁護します。


「そうっすよ。アニキが犯人なわけがないっす」


 それを暴力団組員も肯定します。


 警察も暴力団も俺が犯人と信じてくれません。


 お前ら俺が犯人なのになんでそう言いきれるの?


 いつまで経っても俺の自白と自首は受け入れてもらえません。


 つかお前らなんでそれだけ仲良く意見が一致してて睨み合ってんの!?

 このピリピリした雰囲気やめろよ!

 みんな俺のために争わないでって・・・ヒロイン風に言ってみたりして、もはやわけわからん。

 何でこうなった、と心の中で俺は失意体前屈でうな垂れる。

 無常にも野次馬のカメラはそれを撮り続ける。

 俺は睨みあう両者とは唯一違う動きを見せて夜空を仰ぎ見るのだった。


 まさか人生で自白をする機会が二度訪れるとは俺も思ってもみなかった。

 そもそもの原因は前回俺が殺した義兄が絡んでくる。

 死んでも俺に迷惑をかけてくれるとは。まだ縁が切れてないと思うと嫌になる。

 ともかく周りに敵を作りまくっていたあのやろう。自分でもいつか命を狙われる日が来るだろうと予想していたようだ。だから事前に策を弄していた。まあ、策といってもそんな複雑なものではない。死んだフリをしようとしていたんだと思う。死んだフリして海外に高飛び。人生リセット。海外で別の人間として残りの人生をエンジョイするつもりだったんだな。

 でも予想外なことに逆らわないと思っていた義弟の俺に殺されてしまったがね。

 で、それが俺のこの状況にどう絡んでくるか?というと簡単だ。

 死を偽装する上で死後に持っていけないものがある。

 死人は生前の財産を持っていくことは出来ないのだ。

 そこで出てくるのが俺の役割でそれが今回の事件へ繋がってくる。

 死んだ後でわかったのだが、義兄は自分が死んだ場合にその財産がすべて俺に相続されるようにしていた。俺のことを本当の弟のように思っていて、財産を残してくれようとしたわけじゃない。それだけは確実に言える。

 と、いうことはだ。

 導き出される答えは一つ。つまり高飛び後に俺からその財産を送付して貰おうとしていたのだろう。つまり義兄は俺に何の説明も無く勝手に人生リセット高飛びを計画して、その計画に俺を組み込んでいたというわけだ。

 でも予想外なことに俺に殺され。何も計画を知らない俺は何も知らないままにその財産すべてを受け取ることになった。おかげで俺は義兄の残した莫大な財産。しかも汚い金を受け取ることになった。俺は大金持ちになったわけだが。そんな。あの義兄が俺のために・・・なんてお涙頂戴にはもちろんならならず。俺はすぐに義兄の計画に思い至って呆れる始末。

 そしてこれがよくなかった。

 俺が義兄から受け取ったのは財産だけではなかったのだ。

 考えてみれば簡単なことだった。

 恨みを買い続けた義兄。そしてその仕事を手伝い続けた俺。

 義兄の死後に俺に相続される遺産は怨みもついた。


 俺は義兄を怨む人間たちに命を狙われることとなった。


 バカな!?死してなお。義兄やつは俺を苦しめるというのか!?


 結果。俺は敵対していたある暴力団の若頭に命を狙われ。若頭を殺害するに至った。

 これが今回の事件の真相である。

 俺の背中で消火された暴力団事務所跡の残骸にはいまも殺した若頭の遺体が放置されている。

 のだ。

 だが予想外なこととは続くもので。

 こうして起きた第二の密室殺人事件。義兄の殺害から二週間。いまや財産の関係で命を狙われる立場にあるのもあって俺としては俗世に居るのも疲れていた。もはや刑務所に入りたい。一度密室殺人に偽装工作したが・・・ちょうどいい機会だ。これを期に自首して刑務所暮らしでもしようと思っていた。

 冒頭に戻り、警察と暴力団両者がにらみ合う中で俺は自首したわけだが。

 なぜか

 なぜだ。解せぬ。

 誰も信じてくれない。

 しかも俺は現在。警察と暴力団に庇われている。

 なぜか警察と暴力団で互いに俺を庇い合い無実に持っていこうとしてるんだけど。何で君ら同じ意見で目指すべき方向が一緒なのに睨み合ってるの?言い争ってるの?っていうかやめてくれる?犯人俺だから!?


 警察は。まあ前回も義兄の殺害で俺を無実と信じてくれた警察の幼馴染二人がいることからもわかる。警察側は俺の幼馴染二人がまたもや参戦。俺のかかわるヤマだと聞いて科学捜査班の賢治まできている始末だ。

 でも暴力団は違うよね?暴力団が自分のところの若頭庇うのはおかしいよね?と言いたいところだが、これにはまた複雑な事情がある。

 実は殺害した若頭。将来組長の座を狙う若頭は結構暴力的で無茶振りも多く。所属する暴力団内でものすごく嫌われていたのだ。しかも実は義兄とは互いに裏切り裏切られと懲りずに嫌いあいながらも手を組んで悪事を働く仲。類は友を呼ぶとはよくいったもので義兄と似た若頭も嫌われて当然の大悪党だった。

 そんなんだから同じ穴の義兄にこき使われていた俺に暴力団員は同情しているくらいで。

 俺はなぜか犯人なのに警察と暴力団から庇われている。

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