第22話 ノクト村
この村はノクト村というらしい。
村だが、家の数もそこそこ多いし道も整備されている。
村の中を歩けばドラゴン退治をしてくれたお礼にと果物やお菓子、串焼きなど歩いてる間にいろいろともらう。皆、笑顔で親しみやすい村だった。
公園らしき広場のイスに座ってランスとロッドの分を残してもらった果物を少し食べ小腹を満たす。
食べ終わって何気なく近くで遊んでいる子供達を見ていた。木で出来た遊具で遊んでいる子や砂場で遊んでいる子など様々だ。紬を見て遊びたそうにしてる子もいた。
小腹も満たされ子供達と遊んであげようかと顔を上げた先に、広場で遊びたいのに恥ずかしくて見ているだけの女の子を見つけた。
なんだか放っておけなくて肩掛け鞄から犬のぬいぐるみを取り出す。
犬のぬいぐるみにお願いを念じると、トコトコと女の子の前に歩いて行きクルクルと回ったり飛び跳ねてみせた。
女の子は喜び、隠れていた事も忘れて飛び出してきた。公園にいた子供達もなんだなんだと集まってくる。
動くぬいぐるみにみんな興味津々だ。ぬいぐるみ一つじゃ物足りなく思って、うさぎやリス、くまのぬいぐるみを出して一緒にダンスをさせる。
子供達は一緒に踊って遊び始める。隠れていた女の子もいつの間にか他の友達と一緒に楽しんで踊っている。
紬も楽しくなってきて、ぬいぐるみをもっと取り出し一緒に遊び始めた。
気付けば広場には子供だけじゃなく騒ぎを聞きつけた村の大人の人達が集まってきて音楽を奏でてくれたりして、さらに盛り上がった。
ダンスを一通り楽しんだ後は鬼ごっこやかくれんぼ、子供達の要求に答えいろいろな遊びをした。
どれくらい楽しんだだろう。帰る時間になったようで子供達は元気に手を振り名残惜しそうに帰って行く。
ぬいぐるみを片付けながら手を振り返す。子供の体力に全力で向き合いクタクタになった。
子供の親か村の人か、遊んでくれたお礼にとまたお菓子やパンや惣菜などをもらった。夕飯にちょうどいいなとありがたく頂いた。
ふと、ぬいぐるみを使って曲芸をしてお金を稼いでいくのもいいかもしれないと思いながら最後のぬいぐるみを片付けたところで聞き慣れた声がした。
「ツムギ!」
振り返るとランスだった。帰りの遅い紬を迎えに来てくれたのかもしれない。
「ランス!あのね、さっきまで子供達と…」
「少しだけど遠くから見てた。楽しそうだったな。ツムギは子供達の先生とかにもなれそうだな」
優しくランスが頭を撫でてくれる。嬉しくてされるがままになる。目の前に手を差し出され手に掴まって立ち上がる。
「私はこのぬいぐるみを使って曲芸師になれるんじゃないかって考えていたところ」
「ははっ、それもいいな。それにしてもたくさんもらったな〜」
村の人にもらった物をランスがほとんど持ってくれる。
ロッドのいる宿に帰る間、緩く温かい時間が過ぎていく。
その途中、銅像があった。女の人の像で顔を見て既視感を覚えて立ち止まる。
「あの銅像……」
「おばあちゃんの若い頃にソックリ!」
「ツムギにソックリだな!」
声が重なりランスが何と言ったか聞こえなかった。
「え?ランス、なんて言った?」
「ツムギにソックリだなって」
「私!?おばあちゃんじゃなくて?」
「おばあちゃんって…ツムギのばあちゃんは見た事ないからわかんねぇよ」
呆れてランスが突っ込む。
「それもそうだね。私と若い頃のおばあちゃんって似てるんだね。写真を見て覚えてたけど、だいぶ前に見ただけだからなぁ」
「ツムギのばあちゃんは異世界にいるのか?」
ランスが言う異世界は日本の方である。
紬の祖母は紬に手芸を始め、いろんな事を教えてくれた。手芸は興味があってよく聞いていたがそれ以外はあまり興味がなく覚えていない。
「うん。私のおばあちゃんはこの世界の人じゃないよ。ただの他人の空似だと思う」
「そうかもな。それにしても似てるな」
銅像と紬を何度も見比べるランス。紬は何だか恥ずかしくなってくる。
「それより!…ロッドが目を覚ましてお腹を空かして待ってるだろうから早く帰ろう」
「それもそうだな」
夕方の村を2人仲良く並んで宿へと戻った。
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