第21話 新しい魔法

「嘘…やっつけた…?」


 目の前に倒れたドラゴンが信じられなく、また起き上がってくるのではないかと油断せずに見つめるが、ドラゴンは起き上がることはなかった。


「やっ…っ」


 やったぁと声を上げようとする前に崖の上から見ていた村の人達が歓声を上げた。


「やったぁぁぁ!!!」

「本当に倒したぞ!」

「すごい!たった3人で!」

「これで村から逃げずに済む!」

「わぁ!良くやった!ありがとう!」


 いつの間にかたくさんの人が見守っていたらしい。多くの歓声にドラゴンを倒した実感が湧いてくる。


 だが、喜ぶのはまだ早い。


「ランス!ドラゴンの炎、大丈夫だったの?怪我は!?」


 ドラゴンの頭から大剣を引き抜くランスに無事を確認する。返り血を浴びているが怪我はなさそうだ。


「俺はなぜか無傷だったんだがロッドが…」


 その言葉にハッと後ろを振り向きロッドに駆け寄る。


 ロッドはドラゴンの炎にやられ火傷がひどい状態で横たわっていたが命に別状なく意識もあった。とりあえず生きてる事にホッとしてから傷の具合を見る。ローブに防御魔法が掛けられていたようでこの程度で済んだらしいがとても痛々しい。


「無理しすぎだよ!治癒魔法とかロッドは使えないの?」


「使える…けど…魔力…尽きた…。それに…治癒魔法は…自分には…効かない…んだ…」


「そんな…待って今、村から…」


 紬が村に治癒魔法を使える人がいないか探しに、もしいなくても手当ての道具を借りに行こうとするのをロッドが引き止める。


「ツムギ…手を翳して…ヒール…唱えて…」


 きつそうに途切れ途切れになりながらも紬にお願いする。


「え?…私、ヒールなんて…」


 使えるわけないと思いながらも、昨日は水魔法ができたのだから、ダメ元でやってみようと考え直す。傷のひどそうな箇所の上に手を翳して力を込める。


「ヒール」


 そう唱えた瞬間、手の平から優しい光が出てロッドの傷を包み込む。ひどい火傷が見る見る間に治っていった。


「すごい…治った。良かった…」


 タダレた皮膚が綺麗になってホッとする。


「ありがとうツムギ。…泉の精霊は治癒魔法を授けてくれるんだよ。ツムギが授かってて助かった」


「そうなんだ。知らなかった」


「これでツムギも魔法使いとしてやっていけるよ」


 傷は治っても魔力は元に戻らないようで疲れた顔をしているが戯けて見せるロッド。


 そのロッドの頭をポカリと戦利品を回収したランスが殴る。


「無茶しすぎだ。魔力が切れる前に引け」


「痛いよランス。いや〜後少しと思ってたら尽きちゃったんだよね」


 てへっと反省の色が見えないロッドにランスがブチ切れる。


「おまえは暫く魔物退治禁止だ!」


「え〜そんな〜」


 反論する間を与えないよう、ロッドを肩に抱えるランス。


「とりあえず、近くの村で休憩させてもらおう」


 崖を登り村に行くと、ドラゴンを退治したおかげでものすごい歓迎を受けた。

 まず村人全員いるのではないかと思われる人数が集まって拍手で出迎えくれ、胴上げまでされそうになったが、ロッドは傷は治っても満身創痍だし、ランスは体が大きすぎて胴上げするには無理そうだったし、紬はスカートだったので丁重に断った。

 なら食事の用意をしてくれるというのも後回しにしてもらい休憩できる部屋を借してもらった。


 部屋に着いて汚れた服を着替えてベッドに横になった瞬間ロッドは眠りについた。


「相当疲れてたんだね」


「魔力切れは、相当キツイようだが、自業自得だろ。ツムギも休むか?」


「ううん。今寝たら夜眠れなくなっちゃいそうだし、村を見て回ってこようかな」


 エルフの村ではゆっくりできなかったので、この異世界に来てから村というものをしっかり見るのは初めてである。


「一人で大丈夫か?迷子にならないか?変な奴には気をつけろよ?」


「大丈夫だよ。ランスもゆっくり休んでて」


 ランスの過保護なところがおかしくもありがたい。


「あぁ。あ、これ持っていけ」


 ランスが腰のポーチから布袋を取り出し紬の手に渡す。


 中身を確認すると金貨や銀貨、銅貨がズッシリと入っている。


「この世界の通貨だ。まだ持ってないだろ?好きなだけ使ってくれていいから」


「好きなだけって…太っ腹だなぁ」


「稼いでるからな」


 得意げに笑うランスに見送られ紬は一人、村へと繰り出した。


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