第20話 ドラゴン退治

 紬の願いも虚しく、向かった先の崖下にドラゴンが待ち構えていた。


 硬い土で出来たような薄茶色の鱗に覆われた大きな体で、赤い瞳がギラギラと近づいてきたロッドを油断なく見下ろしている。

 現代の日本の一軒家くらいの大きさは有にあるだろう。


「こんなに大きいなんて聞いてない。ロッドはどうして正面から行っちゃうの!?」


「…バカだからな……」


 少し離れた岩陰からドラゴンに向き合うロッドを見守る紬とランス。


「とりあえず様子見て、ヤバそうなら手を貸しに行くかな。紬はここで隠れとけよ」


「もちろん。そうさせてもらいます!」


 あんなに大きな魔物は見た事なかったのでとても恐いし、自分に出来る事は何もないと思う。あんな魔物に向き合うなんて魔物退治が好きなロッドの気持ちは、やはりわからない。


 見守っていると直ぐ様戦闘が始まった。

 激しい戦いが目の前で繰り広げられる。

 ドラゴンは口から高温の炎の塊、ブレスを吐き出したり鋭い爪や土魔法でロッドを潰そうとしてくる。

 それに対しロッドは風魔法や水魔法でドラゴンを翻弄する。離れた紬の場所まで爆風がやってくる。


 崖の上には戦っている音を聞きつけて近くの村の人が危険の及ばない所から見ている。


 自分に矛先が向かないとも限らないので、もしもの時はどうするか頭の中だけでも考えておく。怖がったり焦るだけで何もできずに死ぬのだけは避けたかった。


 どれだけ時間が経っただろう。決着がなかなか着かないがロッドもドラゴンも疲弊してきているのがわかる。攻撃のキレがなくなってきているように思える。


「そろそろヤバいかもな…。俺も行ってくる。紬は俺達に構わず逃げろよ」


「わかった。気をつけて!」


 ランスは大剣を携えロッドの元へ駆けていく。ロッドは大きな氷柱をドラゴンに仕掛けていたところだったが、その攻撃が終わるとクルッとちょうど来たランスの方を振り向いた。


「ごめん!今ので魔力が尽きた!」


「はっ!?」


 まさかロッドが魔力切れを起こすとは思わず拍子抜けしてしまったが、ドラゴンがロッドの攻撃が怯んだ隙を見てブレスを穿こうとしていた。


「バッカ!!!そうなる前にもっと早く言えよ!逃げるぞ」


 ロッドの魔力が切れたという事はブレスを防ぐ事もできないので絶対絶命である。ヘロヘロなロッドをランスが軽々と肩に抱え逃げる。


 しかしドラゴンのブレスが一足早く高温の炎が2人に襲い掛かった。


「いやぁぁぁ!ランス!ロッド!」


 炎に包まれる2人を見て逃げる事も忘れて紬はドラゴンの前に飛び出した。


 ドラゴンは新しい敵が目の前に出てきて警戒する。


「次は私が相手だよ!ランス、ロッド大丈夫?生きてる?」


 ドラゴンと対峙し目が逸らせず2人の安否を確認する事もできない。せめて2人が逃げる時間を稼がなくてはと覚悟を決める。


 ドラゴンが続けてブレスを吐こうとした。それを見逃さず肩掛け鞄からある物を取り出しドラゴンに放り投げた。


 それは太めの強化ワイヤーだった。狙い通りにワイヤーはドラゴンの細長い口に巻き付き紬が願ったようにギュッと口を縛り、口が開かないようにした。実は自分にも何かできないかとロッドが戦っている間にワイヤーを投げつける練習を密かにしていたのだ。


 ブレスを吐こうとしていたドラゴンは吐き出せずにブレスがドラゴンの体の中で逆流し爆発する。自分の攻撃が我が身に返ってきたドラゴンは体の中がボロボロに傷付き悲痛な雄叫びを上げる。


「これでもまだ倒れないなんて…次の手なんて考えてないよ…」


 次の攻撃をどうしようか働かない頭で必死に考えているとドラゴンの頭を目掛けて大剣が舞った。傷一つないランスがドラゴンの頭上目掛けて大剣を振り被り頭を貫いたのだった。


 ドラゴンは雄叫びを上げ苦しみ、のたうち回ったがランスは剣から手を離すことなくさらに深くねじ込み、ついにドラゴンは命尽き倒れたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る